「神は言われた。『光あれ。』こうして光があった。」
慧吾は研究所とは名ばかりの山奥の廃墟に向かっている。
瑠衣那が研究チーム発足に伴い借りた場所らしく、元は小学校であり、8年前に生徒数の低下で廃校となった。
瑠衣那曰く「埃っぽいけど、居心地は良くて絶対気に入るよ♪」らしい。
一体どれだけ汚いのか少し不安になりながら指示された場所まで着いた。
スマホを開いて時間を確認する。
時刻は15時37分
集合時間の16時まで20分程ある。周囲を少し見て周ることにした。山奥にあるため自然が豊かだが8年も整備されてないと人が通れる場所は少なかった。やっとの思いで反対側まで出ると、声が聞こえる。
「律!こっち側じゃないよ!門が錆びついてて全く動かない!」
「私は言いましたよ。『この辺はインフラの整備が不十分ですから、ネットの調子が回復するまで待ってくださいよ。』と」
錆びついた門を一生懸命に開けようとしている女性とスマホを睨めっこしている男性。
慧吾は話しかけるが悩んだが、これから同じ研究チームとして活動していく仲間であろう人を無視するのは流石にマズイと思い話しかけることにした。
「……君達そっちは裏門だ。集合場所は反対側の正門だ。」
突然話しかけられ、驚いて振り返る2人。
女性が飛び上がり、男性が化け物でも見るような目でこちらを見ている。
「ビックリした!お兄さんどこから出てきた?」
「失礼しました。お声をかけていただきありがとうございます。ここから正門の道のりをご存じなのですか?」
「……ああ。」
「誠に烏滸がましいのですが、私たちを正門まで連れて行ってくれませんか?」
「……ついてきてくれ。」
二人は小さく頷くと、慧悟の後をついて行く。
「………。」
「………。」
「………。」
初対面だからか、会話がなく気まずい時間が流れたが女性が口を開いた。
「お兄さん白衣着てるけどお医者さん?」
「医者ということは天城慧吾先生ですか?」
「……そうだ。」
「お会いできて光栄です。やはり一流の医者は常に白衣を着ているものなんですね。」
こんな山奥でも白衣を着ていることを小馬鹿にしているのか、それとも疑問に持ってだけなのか。思考を巡らせようとしたが面倒に思い考えるのをやめた。
「……そんなわけないだろ。何を着ればいいか思いつかなかっただけだ。君も山奥でスーツで来るなんて結構大変だったんじゃないか。」
「失礼致しました。冗談のつもりだったんですが。スーツなのはやはり第一印象が大事だからですかね。」
女性が
「二人とも!会話が固いよ!これから苦楽を共にする仲間なんだから仲良くなろうよ!まずは自己紹介から!」
一度深呼吸をして。
「あたしは桐生早矢。西蓮大学大学院史学部史学研究科に所属していて、今年から博士課程に進んでいます。」
「次は私ですね。白峯律斗です。西蓮大学大学院情報科学科に所属しています。早矢と同じで今年から博士課程に進学しています。」
「……天城慧悟。……医者だ。」
桐生が手を差し伸ばしてきた。
「これから、よろしくおねがいします!」
「……」
慧吾は黙って握手を返す。
「私も、よろしくお願いします。」
白峯も手を差し伸ばす。
「……よろしく。」
桐生と白峯と挨拶を済ませた頃、丁度良いタイミングで正門に到着した。
正門には3人ほど居た。
「おい、本当にここで合ってんのか青アタマ?ただの廃墟にしか見えねーぞ。」
背丈の高い女性が文句を言っている。髪が赤がかってるから赤アタマなのだろう。
「うん、そのはずだよ。あと、青アタマはやめてね。赤アタマちゃん。」
青アタマと呼ばれる男性は明るい紺色のスーツを着て高級時計をつけている。確かに髪は少し青い。
「あなた達、仲良いわね。本当に初対面?」
「初対面だよ。おチビちゃん。」
おチビちゃんが露骨に嫌悪の表情をする。
「玲火コイツ一発ぶん殴っていいわよ。」
赤アタマが拳を握り体勢に入った。
「まあまあ、冗談じゃないか。」
桐生が飛び出して、この状況を全く理解していなそうな笑顔で声をかける。
「みんなもここの研究に参加する人たちかなー?」
赤アタマが拳を下ろし「命拾いしたな。」と言わんばかりに青アタマを睨んだ。
「ええ、そうよ。 思っていた以上に参加する人多いのね。」
「これで全員でしょうか?」
「私達は他に人を見てないからこれで全員集まってるんじゃないかしら。」
その時、木の陰から声がした。
「俺もいるよ〜、あとそこの角に隠れてるお嬢さんもね。」
男は明らかにパジャマとしか思えない服を着ており髪もボサボサで研究をする学者のようには到底見えない。
少女は自分の事を言われるとは思っておらず驚きつつこちらに一礼してまた角に隠れてしまった。
「個性が強い方が多いのね。」
「そりゃあそうだろ。あの女の演説に魅入られた奴らだからな。」
慧吾は困っていた。初対面の人を相手にするだけで苦手なのに、くせ者揃いであり、どうすればいいか困っていた。
その時、遠くに白衣を着た見慣れ青年が歩いて来た。
「皆さん5分前には集合してるとは良い心懸けですね。それと、赤いアタマの人、暴力沙汰は勘弁してくださいね。」
赤アタマの眉間のシワが寄った。
「先生おはようございます。」
青年は慧吾に近づいてお辞儀をした。
「……維真、これから仲間になる人たちの第一印象が悪くなるような事は辞めたほうがいい。」
「善処します。」
それからは沈黙の気まずい時間が過ぎていった。
そして5分が過ぎた。
約束の時間になると入り口の扉がバタンと勢いよく開いた。
「みんな!よく集まったくれた。さあさあ入ってくれ。世界を救う伝説の研究室へ!」
瑠衣那がこだましそうなほどの大きな声で叫ぶ。
「また大袈裟な表現をしてるわね。」
「自分の研究室を伝説と過大評価するのはあまり良くないですね。」
「まったく若いっていいね。僕も見習わないと。」
各々は己の思い口にしながら研究室へ入っていく。
「……維真、研究参加してくれて、ありがとう…」
「気にしないでください先生。僕も気になっていたんです。学術会であんな堂々と演説してた瑠衣那という女性の実力をね。」
瑠衣那に連れられて来た部屋は大きな円卓のテーブルと大きなホワイトボードある会議室だった。
「ここは元々職員室だったのを改造したんだよ。」
「良い照明を使っているのでしょう。とても明るいですね。」
「でも、少し質素すぎないか。物がほとんどなくて、寂しいな。」
「僕コーヒーが好きなだけど、コーヒーメーカー置いてもいいかな?」
皆が会議室について話していると。
瑠衣那が慧吾を部屋から引っ張り出した。
「実は言ってなかったんだけど、慧吾を研究に誘う前に私に連絡して研究参加させてほしいって言ってきた人がいるんだけど。」
「……演説する前から連絡を?」
「うん、水無月結珠ていう人物なんだけど、調べてみても何にも情報がないの。」
「……怪しい人物なら参加させないほうがいいんじゃないか?」
「それを相談しようと思ったの。彼女には今日の事は伝えてないからみんなで話し合おうと思って。」
コツン、コツン
廊下の奥から重く沈んだ音が鳴る。
「ここはいいところだね。かつての子ども達の声が壁に染み込んでいる。今も聞こえるようだ。」
黒いドレスをたなびかせた女性がこちらに近づいて来た。
非常に美しい顔立ちをしているが彼女の目を見ていると、なんだか呑み込まれそうになり、長い間直視はできなかった。
「水無月結珠ね、貴方には連絡を入れてなかったはずだけどどうしてここがわかったの?」
「“運命は足音を立てずにやってくる"ものだよ、瑠衣那。」
「ふふっ、そうかもね。何かと前兆があったら面白くないもの。」
瑠衣那は水無月の返答を気に入ったらしく、警戒心を解いたように笑顔になった。
「……水無月、お前が研究に参加する事は構わないが、お前が何者であるかは説明してもらう。」
「"すべては待つことから成り立っている"私の事など、いずれ分かるさ。 そもそも私は一介の哲学者にすぎないさ。」
「そうか、勝手なことをしたら直ぐに辞めてもらう。」
慧吾の直感が水無月を危険人物だと言っていた。彼女から漂う不気味さのせいなのか理由もない恐怖が襲いかっていた。この感覚は瑠衣那の時と似ているが違う言葉で表情するのがとても難しいものだった。
慧吾達を探しに来た早矢が水無月を見て目を丸くしている。
「お姉さんも研究に参加する人?スゴイ綺麗なワンピース着てるね。真っ黒なはずなのに色んなな色が混ざったみたいに鮮やか!」
桐生の初対面であっても柔軟に接する事ができる能力は自分にも欲しいなと思う。
「見る目が良いな。少女よ。"暗黒は、無限に向かう思考の母胎である"故に様々な色が見えたのだろう。」
「少女?あたしはもう成人だよ。まあいいや。第1回目なんだしみんなで自己紹介しよ!」
「それもそうね。2人とも行くよ。」
瑠衣那と桐生は足早に歩いて行く。
慧吾は水無月を睨みつけたが彼女は微笑んでいた。
各々席に着いて2人が席に着くのを待っている。
「私から時計回りで自己紹介していこうか。」
「榊原瑠衣那です。東都聖架大学大学院の文学部心理学専攻で去年博士課程を終了しました。みんな今日は集まってくれてありがとう。これからよろしくね。」
「桐生早矢です。西蓮大学大学院史学部史学研究科に所属しています。今年から博士課程に進学しています。よろしくお願いします!」
「私は白峯律人です。西蓮大学大学院報科学科所属です。早矢とは腐れ縁で小学生からの仲です。よろしくお願いします。」
「…ゎ私は橘志保です。 春賀大学2年生です。 文学部文学科です。 ょよろしくお願いします。」
非常に小さい声だった。自分もこんな声なんじゃないかと少し心配になった。
「あ~俺か、芦屋匡輔です。宝条大学卒業をしてその後は、ニートしてたんだけどニートと思われたくないで芸術家として絵描いたりしてました。よろしく。」
口や服から酒の匂いが出ており、医者である慧吾ですら不快になるほどのものだった。次回はファブリーズを持ってくることを誓った。
「次は私ね。三神麻耶よ。千瀬病院で研究をしてます。専攻は行動神経学、まあ色々やってるけどね。よろしくね。ああ、あと1つ酒臭いのは苦手だから体臭のケアくらいちゃんとしてね。」
皆が芦屋の匂いについて言及しない中、彼女はハッキリと言った。
「赤木玲火普段は学校の教師をしてる。その傍らで言語の研究をしてるよろしく。」
桐生が名前を聞くと何かピンときたように話しだした。
「赤木玲火って少し前に空手と柔道と剣道の世界大会で優勝した人だよね?背がすごく高くて似てるな〜って思ってたんだよね。すごーいかっこいいな〜」
そういえばテレビのニュースで見たことあった。身長が180以上あり女性にしては非常に高いなと考えていた事を思い出した。実際に見ると威圧感を感じる。
「3大会で優勝とか強すぎるだろ。人間ってよりもゴリラやん。」
芦屋が明らかに余計なこと言う。
赤木は怒っていなかったが皆の雰囲気が非常に悪くなっていた。
「芦屋くん女性に対してゴリラなんて表現は失礼だから辞めたほうがいいわよ。」
三神が怒りよりは呆れに近い感じで意見する。
「僕は蒼都修一今は翠鳳大学の教授している。専攻は社会学と福祉学の全般かな。これからよろしくお願いします。1つ、赤木さんみたいな強い女性は非常に魅力的だと思うよ。特に僕みたいな弱い男にはね。」
蒼都の冗談交じりの自己紹介に笑いは起こらなかったものの先ほどまでの張り詰めた空気が薄れていた。
ちなみに玲火はゴミを見るような目で蒼都を見ていた。
「私は水無月結珠。何の変哲もない哲学者さ。君たち共に闘えることを、殊勝と思うよ。」
水無月の自己紹介が終わるなり維真は口を開ける。
「僕は久我維真です。東国大学医学部の6年生です。正直、こんな研究をしようとしているあなた達と仲良くする気も、ありませんし、尽くす礼儀もありません。僕からの自己紹介は以上です。」
正直焦っている。蒼都が空気を変えてくれたのに維真が再び乱してしまった。このチームの大事な出だしとなる今回、失敗する事は許されない。
慧吾は頭をフル回転させる。この雰囲気を一掃して彼らを鼓舞できる言葉を探して。
「天城慧吾だ。この研究に対する考えは皆それぞれあると思う。"沈黙症状群"この病は存在するかも分からない。何から始めていいかも分からない。だが1つ言える事がある。それはこの病を認識できるのは我々だけであると言うことだ。病は認識できなければ治療ができない。このままでは"沈黙症状群"は不治の病になってしまう。故に我々が解明し治療を行う。今我々が動かないで誰が人類を救うんだ。 ……だから、俺に力を貸してくれ。頼む。
俺からは以上だ。」
各々が頷き肯定してくれている。
皆の思いが1つになったのを感じた。
ホッとしたの同時に頑張ってみて良かったとも思えた。
慧吾の自己紹介を聞くなり瑠衣那が走って部屋を出た。少しすると配膳カートを押して戻って来た。
「自己紹介も終わったことだし親睦会しよ!バカデカイピザ10枚頼んできたからみんなで食べよう。」
配膳カートにはピザが入っているであろう箱が10段積まれている。
「凄い量ですね。食べ切れますかね。」
「1人1枚くらいは食べられるだろ。」
「私1枚はキツイわ。玲火半分食べてくれない?」
「酒はない?やっぱピザには酒だろ。」
「お酒はありません。未成年もいるんだしジュースで勘弁してね。」
先ほどの雰囲気とはまるで違いみんな親睦会楽しんでいた。結局、バカデカイピザは量が多すぎて残ってしまった。
親睦会が終わり全員が帰宅した後、静まり返った部屋を慧吾と瑠衣那がお互いを見つめていた。
「ねぇ、これからどうなるかな?このチームは本当に世界を救えるかな?」
「……さあ、どうかな。維真や水無月の件もあるし簡単にいくとは思えないな。だが、君が作り上げたこのチームが沈黙に落ちたこの世界を照らす一筋の光になることは間違いない。」
「よ~し少しでも順調に事が運ぶように頑張るぞー!」
瑠衣那は笑顔は、何にも遮ることができない恒星のように輝いていた。
あなたの世界が暗闇に包まれていると感じるとき、何かが始まるのをただ待っていても、何も起こらないかもしれません。
でも思い出してください。世界の最初も、すべては混沌の中にありました。何も形のない、ただの闇――そこに、神の言葉が響いたのです。
「光あれ。」
それはたった一言でした。しかしその言葉が、すべての始まりでした。
光は、命を生み出し、道を照らし、希望となりました。
あなたがもし、人生に変化を起こしたいと願っているなら。
自分の中にまだ見ぬ可能性があると信じているなら。
第4話のタイトルは変えます。