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×××中学③

2016年10月。


ある夜。慎は児童養護施設「□□□園」の自室に、同じ×××中学に通う数名の同期たちを集めた。


「お前らには、話しておく」


話を聞いて、年少の少年が不安げに身を乗り出した。


「いじめ……?」


「先生達も隠蔽してるなんて……慎くん、大丈夫なの?」


「ああ。……お前らに教えるのは、あくまで筋を通すためだ。もし学校や施設で何かを聞かれても、『知らない』で通せ。お前らは特に何もしなくていい。結果が出たら真田さんたちにも報告する」


同期たちは顔を見合わせた。慎の瞳に宿る、静かな決意に圧倒され、深く頷くしかなかった。


「わかった…。気を付けてね、慎くん」


慎は彼らを下がらせると、デスクの上に並べた「装備」を確認した。小遣いを貯めて購入した中古のガラケー数台、超小型のボイスレコーダー。前世の「掃除屋」としての知識が、死角のない配置を導き出していく。


翌朝、慎はまずは「一応」のつもりで「正攻法」を試みることにした。


「高島先生、小杉の件で話があります。彼は現在、深刻ないじめと恐喝を受けています」


職員室。担任の高島は、机の上の書類をめくる手を止め、ひどく面倒くさそうな溜息を吐いた。


「またその話か、久遠。前も言っただろう、受験前の大事な時期に波風を立てるなと。小杉も被害妄想が激しいんじゃないか?」


「妄想なんて、とんでもない。既に数万円単位の金銭が奪われています」


「証拠はあるのか?ないだろう。中学生同士の貸し借り、あるいは遊びの延長だ。高圧的な態度は慎みなさい」


横から、一人の女性教諭が割って入った。慈愛に満ちたような、だがその実、現実を直視しない空虚な瞳をしていた。


「久遠君、そんなに怒らないで。子供のすることだもの、話し合えばきっと分かり合えるわ」


「それで『更生させる』とか言うんですか? ……甘いですよ、先生方。暴力と恐喝に『話し合い』は通用しません」


「な……!」


慎は心底軽蔑したように教師達を睨み、職員室を去った。


――――――


校門の前で、怯えた表情で立ち尽くす淳也を見つけた。慎は無言で彼に近寄り、自分の財布から抜いた数枚の千円札を握らせた。


「慎……これ、君のお金だろ? 悪いよ、こんな……」


「気にするな。餌みたいなもんだ。奴らの罪を確定させるための、な」


慎の守護を受けながら登校した淳也だったが、昼休み、案の定「悪童共」が牙を剥いた。リーダー格の高木を筆頭とするグループが、人気のない校舎裏へ彼を呼び出した。慎は死角からガラケーのカメラを回した。


「おい、小杉。今日の分、持ってきてんだろうな?」


「う、うん……これ……」


高木がひったくるように金を奪い、小杉の頬を軽く叩いた。


「へへっ、いい子だ。久遠って陰気な野郎とつるんでるから心配したぜ。あんな施設のガキ、相手にすんなよ」


その様子を、慎はレンズ越しに氷のような瞳で捉えていた。


(よし、かかった…!)


――――――


そして、何日か経って…いじめっ子たちの苛立ちは頂点に達していた。金は出すものの、慎の影響で学校を休まず、黙々と勉強を続ける淳也の「折れない心」が、彼らには耐え難い屈辱だったらしい。


そして、放課後の教室でその時が来た。高木たちが淳也の机を蹴り上げたのだ。


「おい、調子乗ってんじゃねえぞ!勉強を続けて、何のつもりだ!?俺達を舐めてるか!!」


「…勉強は自分の為だよ。別に君たちには関係無いじゃないか」


淳也が逆らう意志を見せると、高木は顔を真っ赤にして怒りを見せた。


「てめぇ…!!」


「よせ」


高木が拳を振り上げた瞬間、慎がその腕を鋼のような力で掴み取った。


「これ以上は、俺が相手になる」


「慎!!」


「あぁ!?く、久遠…!、てめえ……離せよ!!」


「勝手に他人を格下扱いして迫害して、それで自分が偉くなったと勘違いしている阿呆が」


慎の口から漏れる、低く、重い声。教室の空気が一瞬で凍り付く。


「お前ら、将来は見世物の仕事にでも就いたらどうだ?胸糞悪さと、ピエロみたいな滑稽さが見事に同居しているからな。『やられ役』にはぴったりだぜ」


「な!?」


「て、てめえ、殺してやる……っ!」


高木が掴みかかろうとした瞬間、慎は「掃除屋」の殺気を一点に集中させ、高木の瞳を射抜いた。 本能的な死の恐怖。高木は悲鳴を上げることすら忘れ、ガタガタと膝を震わせ、後ずさりした。 中学生の少年に「本物の殺気」は強烈だった。


「……ひ、ヒッ……!」


「……消えろ。二度と、俺たちの視界に入るな」


捨て台詞すら吐けず、高木たちは逃げるように教室を飛び出していった。それを見送った慎は、ふっと殺気を消し、呆然とする淳也に向き合った。


「よし、もう十分だ。証拠は揃った」


「……ありがとう、慎。……助かったよ」


「辛かったろ、淳也。……よく頑張ったな」


「うん……怖かったけど、それ以上に悔しかったから……。君がいてくれたから、耐えられた」


淳也の目に、ようやく安堵の涙が浮かんだ。


「……と言うかさ、慎。君って本当は、喧嘩も凄く強いんじゃ……今の、気迫っていうか……」


慎は少しだけ口角を上げた。


「ん? まぁな」


「でも、大丈夫? 僕、明日も……」


「いや。お前はもう、明日から自宅へ避難するんだ」


「え……?」


「証拠は全部ここにある。奴らの恐喝、暴力、そして……後は俺がやってやる。淳也、お前はもう十分頑張った。ここから先は、俺の『仕事』だ」

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