招待
児童養護施設「□□□園」は、市街の喧騒から切り離されたような、穏やかで落ち着いた佇まいを見せていた。
麗奈が慎の後に続いて門をくぐると、玄関先には数人の職員と子供たちが集まっていた。彼らは慎の帰還を喜ぼうとしたが、その視線はすぐに彼の隣、そしてその腕に幼い茜を抱いた見知らぬ美女へと釘付けになった。
「あ、お帰りなさい慎くん、茜ちゃ……」
「え……誰、その人?」
「慎くん、まさか……」
職員たちは、慎が麗奈のような気品と圧倒的な美貌を兼ね備えた女性を連れてきたことに唖然とし、教室内とはまた違った質の困惑が広がっていく。
「何を勘違いしてるんですか。この人はですね……」
慎が苦笑混じりに言いかけたその時、奥から施設長の真田が姿を現した。
「佳山先生、お久しぶりです。本日は茜がお世話になったようで」
真田が穏やかに頭を下げると、周囲の緊張がようやく解けた。だが、今度は驚きの質が変化する。
「ええっ、慎くんの担任の先生なの!?」
「学校の先生? マジで?」
「芸能界でも通用するレベルだわ……」
「本当ね。こんな美人が学校にいたら、男子生徒は気が気じゃないでしょ」
職員たちは麗奈の立ち居振る舞いに溜息を漏らし、口々に感嘆の声を上げた。麗奈は恐縮して苦笑いしつつ、茜を職員の一人に引き渡し、場を辞そうとした。しかし、慎がそれを呼び止める。
「先生。もしお時間があるなら、少し寄っていきませんか。茜を助けてもらったお礼もしたいですし」
「え? でも、今日はあなたの……」
「身内だけの会ですから、構いません。むしろ、先生が来てくれたら嬉しいです」
慎の静かな誘いに、麗奈は断る理由を見つけられず、そのまま施設の一室へと招かれることになった。
そこには、学校での様子とは違う、一人の少年としての彼の日常があった。準備を手伝う麗奈の横で、長田三和が目を細めて語りかける。
「慎くんはね、ここに来た時からずっと、下の子たちの面倒をよく見てくれるんですよ。かれこれ十年になりますけど、私たち職員も随分と助けられてきたんです」
「十年……」
「ええ。昔から年齢にそぐわない考え方をする子で、戸惑うことも多かったですけど、根は本当に優しいんですよ。自分を後回しにしても誰かを守ろうとする、そんな子なんです」
長田の言葉に、麗奈は芳子から聞いた過去を重ねた。六歳で地獄を断ち切ったその精神は、ここでは「誰かを守るための強さ」として育まれてきたのだ。すると、近くでつまみ食いを狙っていた高学年の男子たちが、茶化すように声を上げた。
「おまけに慎兄ちゃん、体もすげぇ鍛えてるしな!」
「そうそう。前に銭湯へ一緒に行った時、マジでびびったよ。あの筋肉」
「うん、彫刻みたいだった! 格闘家みたいだなって思ったもん」
「格闘家だってあそこまではいかねーよ。なんていうか、その……」
子供たちの無遠慮な称賛は、次第に年頃の男子特有の際どい話題へと逸れ始める。
「そうそう、中々お目にかかれない……」
「………えっ?」
「おい、やめろよそれは。先生の前だぞ」
「もう……ちょっと! あんたたち、いい加減にしなさい!」
長田がぴしゃりと子供たちを叱り飛ばしたが、麗奈の動揺は収まらなかった。
(彫刻、格闘家以上? 一体どんな……って、何考えてるの私! 生徒の裸を想像するなんて!!)
秀才で、冷徹で、けれど誰よりも慈悲深く、そしてその内に圧倒的な「武」を秘めている。あまりに多面的な慎に戸惑いながらも、麗奈は今、自分の目の前にいるこの姿こそが「真実」なのだと確信していた。




