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メイド服

慎は最初から麗奈の後を追っていた。芳子の悪意がどこへ向かうか、その全てを把握するために身を潜め、スマートフォンのカメラでその醜悪な言動を冷静に記録し続けていたのだ。


「すみません。服を破られる前に出るべきでした。そこだけは俺の失敗です」


慎は、自分の上着にくるまって震える麗奈に、心底申し訳なさそうに謝罪した。


「いいえ……いいの。あなたが来てくれなかったら、私はもっと酷いことになっていたわ」


麗奈は慎の上着の温もりに包まれながら、ようやく呼吸を整えた。内心では、懸念していた「学校が大打撃を受ける事態」に発展しなかったことに、深い安堵を覚えていた。慎は法と論理の力で芳子を無力化し、麗奈の尊厳を守り抜いたのだ。


宏美が新しい服を持って戻ってくるのを待つ間、倉庫の中には穏やかな沈黙が流れた。だが、麗奈はふと、芳子の用意した派手な水着を思い出した。芳子に強制され、見世物にされかけた屈辱。それをただ「なかったこと」にして終わらせたくないという、彼女なりの意地が芽生えていた。


「ねえ、久遠くん。……一度は断ったけれど、やっぱり私、メイド服を着るわ」


唐突な宣言に、慎は珍しく目を見開いて驚きの表情を見せた。


「えっ? 本当にメイド服を着るんですか? 代わりの服が届くまでの間とはいえ、別に無理は……」


「無理じゃないわ。自分の意思で着るの。織田川さんに押し付けられた惨めな姿じゃなくて、私が、私のクラスのみんなと一緒に楽しむためにね。……それが、織田川さんへの私なりの意趣返しよ」


麗奈の瞳には、先ほどまでの怯えはなく、凛とした決意が宿っていた。慎はその言葉に微かな苦笑を漏らした。


「……先生がそう決めたなら、俺は何も言いません。全力でサポートしますよ」


――――――


やがて宏美が、指定のブラウスとカーディガンを届けたが、麗奈はあえてクラスの女子たちが予備として用意していたメイド服に袖を通した。艶やかな黒髪のストレートヘアが、白いフリルと黒いエプロンドレスによく映え、清楚でありながら抗いがたい魅力を放っている。


慎と共に教室へと戻った麗奈の姿に、クラス中が静まり返った後、爆発的な歓声が上がった。


「えっ!?」


「佳山先生!? 嘘だろ、マジでメイド服……!」


「お、おい……綺麗すぎて言葉が出ないぞ……」


生徒たちの驚愕と熱狂を前に、麗奈は頬をあけく染め、指先でエプロンの端を少し持ち上げながら、照れくさそうに微笑んだ。


「気が変わったの。……似合う、かしら?」


その抗いようのない可憐さに、教室内は一瞬で熱狂の渦に飲み込まれた。


「……勝った」


誰かの呟きが導火線となった。


「よっしゃあ! これで今年の優勝は確実だぞ!!」


男子生徒の絶叫が響き渡り、カフェの客足はさらに加速した。慎がれる極上の珈琲と、最高に美しい「看板教師」の笑顔。結果として一年A組は全クラス中、圧倒的なトップの売上を記録して祭りを終えることとなった。

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