表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/27

激昂

指定された場所は人気のない旧校舎裏、埃と湿り気の入り混じった倉庫だった。麗奈が扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。


「佳山先生、やっと来たわね」


芳子が、不敵な笑みを浮かべて中央に立っていた。その後ろには数人の取り巻きたちが控えているが、彼女たちの顔は一様に蒼白だ。その不穏な様子に麗奈の警戒心が増す。


「…織田川さん、何の用なの?クラスの出し物が忙しいの、手短にして」


麗奈は震える声を抑え、毅然とした態度を保とうとした。しかし、芳子が足元に置かれた大きな箱を蹴るようにして開けた時、麗奈は凍りついた。


「先生に着てもらおうと思って、これを用意したの」


「! な、何よ、これ……!?」


「どう? 素敵でしょ」


箱の中に詰め込まれていたのは、あまりに過激で扇情的な水着の数々だった。鮮やかな極彩色の紐で繋がれたマイクロビキニ、腰のラインを露骨に強調するブラジリアンカット、さらには肉体の曲線のみをなぞるようなスリングショット。それらは、学校という教育の場にはあまりに不釣り合いな代物だった。


「あなた……正気なの? 本気でこれを私に着ろと言うの!?」


「ええ、ミスコンがあるでしょう? それでお願いしたいのよ。お祭りなんだから、誰も不思議に思わないわ。きっと大盛り上がりで拍手喝采よ」


芳子は捏造した写真を武器に、一線を超えた要求を突きつけた。麗奈の脳裏に、この卑猥な布切れを身に纏い、全校生徒や保護者の前に「見世物」として引きずり出される自分の姿が浮かんだ。


その瞬間、恐怖を上回る激しい憤怒が麗奈の中で爆発した。今まで自分を縛っていたあらゆる不安が、一気に「教師としての、人間としてのプライド」によって塗り潰された。


「……いい加減にして!教師や学校を何だと思っているの!?馬鹿も休み休み言いなさい!!」


麗奈の叫びが、倉庫の壁に反響した。その迫力に、取り巻きたちが思わず数歩後退り、芳子の頬が引き攣った。


「な、何よその態度は。写真、流されてもいいの?」


「黙りなさい!! 捏造された写真に怯えて、あなたの下劣な妄想に付き合うほど、私は弱虫じゃないわ! いい、織田川さん。私はあなたの担任じゃないけれど、一人の教師として、大人として言わせてもらうわ」


麗奈は一歩、また一歩と、芳子に向かって詰め寄った。その瞳には、烈火のような光が宿っている。怒る麗奈の顔は、端正な美貌ゆえにかなりの迫力があった。


「家の威光を自分の実力だと勘違いして、やりたい放題する……本当に、親の顔が見てみたいわ!! 我が子をこんな性根の腐りきった人間に育てるなんて! あなたの織田川家は金と権力さえあれば、何を踏みにじってもいいと思っているの!?」


「なっ……! あんた、自分が何を言ってるのか……っ!」


「黙って聞きなさい!! 自分の価値観だけで他人を支配しようとするなんて、愚かさを通り越して滑稽だわ! そんな捏造写真や水着で私を辱めたつもり? 笑わせないで。本当に汚れているのは、そんなことを思いつくあなたのその心よ!」


麗奈の怒りの叫びは、もはや止まらなかった。実家の両親に対しても、これほどの反抗をしたことはない。しかし、慎という「味方」が後ろにあるという無意識の確信が、彼女の言葉に鋭い刃を与えていた。


「金で買えないものがたくさんあるなんて、考えたこともないのでしょうね! あなたのような人間には、一生かかっても理解できないかもしれないけど!!」


「黙れ、黙りなさいよ!!」


芳子の叫びは、もはや理屈ではない、ただの醜い絶叫だった。見下していた麗奈に、感情を剥き出しにして自分を否定された。その屈辱に耐えかね、芳子は理性をかなぐり捨ててしまった。


「うっ、何を…!」


「あんたみたいな……あんたみたいな、ただの教師の分際で!!」


芳子は激情に任せて腕を振り回し、麗奈の胸元を掴んだ。


「ちょ……芳子さん、駄目!!」


取り巻きの一人が慌てて止めるが、遅かった。――ビリッ、という不吉な音が静かな倉庫に響く。麗奈のブラウスのボタンが弾け飛び、鎖骨から胸元にかけてが露わになった。


「ああっ!」


「ひっ……! な、なんてこと……」


取り巻きたちが悲鳴を上げた。捏造写真での脅迫だけでなく、現実に教師の服を破くという暴行は、もはや「生徒の悪ふざけ」では済まされない決定的な境界線を超えていた。芳子自身も、自分の手の感触に呆然として立ち尽くした。だが、その時……。


「――はい、そこまで!!」


と大きな声が響いた。


「久遠くん……」


破れた服を手で押さえながら麗奈が振り向くと、そこには慎がスマホを手に立っていた。慎が出てきたことに取り巻きたちが恐怖と困惑に顔を引き攣らせる中、ただ一人、東雲宏美だけが、うつむいたまま唇の端に微かな、安堵に満ちた笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ