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浅はかな企み

痴漢偽装事件の芳子視点です。

〇〇〇高校の夏休み。

織田川芳子は、高級ブランドの紙袋を幾つも抱え、取り巻きたちを引き連れて帰路についていた。


冷房の効いた電車の中でも、人々の吐息と混じり合う夏特有の熱気が、彼女達の不快感を加速させる。


「まったく、こんな混み合った電車に乗るなんて。お父様に車を出してもらえば良かったわ」


「でも芳子さん、この限定品は今日を逃すと完売でしたし、仕方ないですよ」


東雲宏美が、芳子の機嫌を損ねないよう慎重に言葉を選んで宥める。その時、車両の端からけたたましい悲鳴と、それに続く怒号が響き渡った。


「何よ、騒々しいわね……」


芳子が不快げに視線を向けると、そこには泣き叫ぶ女子高生と、駅員や警察官に囲まれた異常な光景が広がっていた。そして、その人だかりの中心に、見紛うはずのない二人の姿を捉えた。


「……っ!なんで、あの二人があそこにいるのよ!?」


芳子の目が、驚愕で見開かれた。そこにいたのは、目の仇にしている佳山麗奈と、あの一年生、久遠慎だった。


「本当だわ、佳山先生に久遠くんよ!」


「あの…何があったんですか?」


宏美達が近くの乗客に恐る恐る尋ねると、すぐに答えが返ってきた。


「ああ、あの女子高生が『男に痴漢された』って騒いでたんだけど、あの男の子が嘘だって見破ったんだよ。証拠がどうとか言ってね。女子高生が怒って暴れたんだけど、取り押さえられたんだ。それで今から警察署へ行くらしいよ」


「え……犯罪者を取り押さえた?」


芳子は奥歯を噛み締めた。久遠慎が正義の味方のような顔をして事態を支配している。そしてその傍らには、保護者か何かのように麗奈が付き添っている。


「……行くわよ」


「えっ、芳子さん? 出口はあっち……」


「黙ってついてきなさい!」


芳子は獲物を見つけた猛獣のような冷酷な光を宿し、警察署へと向かう慎たちの後を、距離を置いて追跡し始めた。


しばらく時間が経過した。街灯が路面を白く照らす中、警察署の重い扉が開き、慎と麗奈、そして見知らぬ中年の男性が姿を現した。三人は何か言葉を交わし、そのまま近くの定食屋へと入っていく。


「……ビンゴ」


芳子は震える手でスマートフォンを取り出した。街灯の逆光の中、暖簾をくぐる教師と生徒。その親密そうに見える瞬間をカメラのフレームに収める。シャッター音が夜の静寂に吸い込まれた。


画像を確認する芳子の口元が、醜く歪んだ。


「夜中に二人で警察署から出てきて、そのまま食事……。ふふっ、これにどんな言葉を添えてあげようかしら。教育委員会?それとも校長に?」


「芳子さん、本当に大丈夫なの……?相手はあの久遠くんだよ。もしバレたら……」


さっきの騒動を見て動揺している宏美達が、青ざめた顔で縋るように問いかける。芳子はそれを鼻で笑い、画面に映る麗奈の顔を親指で激しく撫でた。


「怖がることはないわ。バラまくなんて、そんな勿体ないことはしない。これは『切り札』よ。二学期になったら、この画像を見せてあの女を私の犬にしてやる。そしてあの生意気なガキも、土下座させてやるわ」


「な……!?」


勝利を確信したかのように高笑いする芳子。しかし、彼女には見えていなかった。自分の背後で、東雲宏美がどのような表情で自分を見つめているかを。


宏美は、慎たちのいる定食屋の窓に視線を走らせた。


(……なんて馬鹿なことを……)


彼女は、心の中で誰に届くともない独白を漏らした。

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