出会い
この作品に目を留めてくださり、ありがとうございます。
初めての長編作品となります。これからちょくちょく更新していく予定(時間帯は特に決まってません)です。
一人でも多くの方がこの作品を読んで、楽しんでいただけたら嬉しいです。
※文章作成にAIを使用していますが、アイディアと編集は作者によるものです。
2017年4月。朝の通勤・通学ラッシュでごった返す列車内は、人々の吐息と熱気が混じり合い、肌にまとわりつくような熱を帯びている。都立の進学校である〇〇〇高校に勤務する国語教師・佳山麗奈は、その人波に揉まれながら目的地の駅へと向かっていた。
(今日はいつも以上に酷いわね……)
麗奈は内心で溜息をつく。教職に就いて二年目。今日は一年生の入学式だ。例年以上に新入生やその保護者らしき姿が多く、車内の閉塞感をより強めていた。 その時、ポイントを通過した車体が大きく左へ傾く。麗奈は咄嗟に吊革を掴もうとしたが駄目だった。
「うっ……」
抗えない群衆の圧力に背を押され、彼女の体は前方の人物へと倒れ込んだ。完全に相手の胸元へ飛び込んでしまった格好だ。
「あっ、ご……ごめんなさい!」
反射的に謝罪し、顔を上げた。ぶつかった相手は、これから向かう勤務先の制服を着た男子生徒だった。
「!!」(いけない……生徒だわ)
麗奈は慌てた。これから指導する立場になるかもしれない相手と、これほど密着してしまうなど。焦って身を引こうとしたが、背後の人波が壁となり、動くことすらままならない。密着した状態で身悶えする形になり、かえって体が相手に押し付けられ、羞恥が募る。すると、その少年は動揺を見せることなく、低く落ち着いた声で短く告げた。
「慌てないで。無理に動くと、逆に危ないですから」
その冷静な一言に、麗奈は顔が熱くなるのを感じた。 数分後、駅に到着してドアが開くと、ようやく人波が解けた。麗奈はホームに降り立つなり、何度も頭を下げた。
「本当に、ごめんなさい。助かりました」
「いえ、大丈夫です」
麗奈の狼狽ぶりに、彼は少し戸惑ったような眼差しを向けた。麗奈はそれ以上の接触を避け、「ありがとう」とだけ言い残して、逃げるように改札へと向かった。 一方、学生の少年は、去っていく背中をじっと見送りつつ、ぽつりと呟く。
「……まさかな」
――――――
入学式は滞りなく進行した。麗奈は式典の間、教員としての緊張感を維持し、凛とした態度を貫いた。 式が終わると、彼女は自分がこれから三年間担任を受け持つ一年A組のクラスへと向かった。教室に入ると、ざわついていた生徒たちは、麗奈の姿を目にした瞬間、水を打ったように静まり返った。
「……おい、見ろよ。めちゃくちゃ美人だぞ」
「うわぁ…あの黒髪、艶があって長くて綺麗だわ…モデルみたい」
「嘘だろ、あの人が担任?当たりすぎて怖いんだけど……」
「俺の推定だけど、身長165、B94のG、W60、H92……だな。間違い無い」
「おい田中、お前どこ見てんだよ」
「……でも、確かに綺麗だな」
麗奈は、教師にしておくには惜しいほど容姿端麗な女性だった。モデルや芸能関係から声をかけられたことも過去に何度かあったが、その手の誘いには一切興味を示さず、教師の道を選択していた。 一部の男子生徒から飛ぶ、無遠慮な囁き声。麗奈は聞こえない振りをしながら、教卓の前に立って深く一礼する。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。国語を担当します、佳山麗奈です。これから三年間、担任を務めます。よろしくお願いします」
通る声が教室に響く。麗奈は顔を上げ、生徒たちの顔を一人ひとり確認するように見渡した。――その時、視線がある人物に釘付けになった。
(嘘!?)
「…………」
(……よりによって、私のクラスの生徒だなんて)
それは今朝の満員電車で密着した男子生徒だった。名簿にある名前は、久遠慎。 麗奈は激しく動揺した。背中に薄い汗が伝う。一方の慎も、教壇に立つのが今朝の女性だと気づいたらしく、一瞬だけ目を丸くした。すると、彼は麗奈に向かって小さく、微かに微笑むようにして会釈をした。
(やだ。彼、全然動揺していない……。駄目よ、教師の私の方が取り乱しているなんて)
麗奈は羞恥に苛まれながらも、必死に平静を装い、事務連絡を淡々とこなしていった。 午後の予定がすべて終わり、放課後の時間が訪れた。生徒たちが次々と教室を出ていく中、麗奈は慎が席を立つタイミングを見計らって声をかけた。
「久遠くん、待って」
避けたい気持ちはあったが、一度けじめをつけなければ、明日からの授業で彼を直視できない。そう判断した麗奈は、彼を呼び止める事にしたのだった。
「はい。……何でしょうか、佳山先生」
「今朝の電車では、本当に失礼しました。教師として、生徒に迷惑をかけるなんて……。本来なら私が周囲に気を配るべき立場だったのに」
麗奈の謝罪に慎は困ったように眉を下げて、穏やかに答えた。
「先生、あまり気にしないでください。あんな状況では不可抗力だし、誰が悪いわけでもないですよ。それに、先生が怪我をされなくて良かったです」
彼は真っ直ぐに麗奈の目を見つめた。その瞳には、年齢に似つかわしくない深い知性が宿っているように見えた。
「それよりも先生…これから三年間よろしくお願いします」
その言葉と、大人びた態度に、麗奈は返す言葉を失った。自分よりもずっと年下の彼の方が、よほど冷静に事態を受け入れている。麗奈は頬を染めた。
「ええ……。担任として、精一杯サポートさせてもらうわ」
慎は「失礼します」と短く一礼し、軽やかな足取りで教室を後にした。 麗奈は彼が立っていた場所に視線を落とし、小さく吐息を漏らす。
「はぁ、初日からついてないわね。私……やっていけるのかしら……」




