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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
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第92話「救いのDM」

 その後、ティミレッジをフィーヴェへ先に帰し、ユアとディーン(ディンフル)はテレビ局を後にした。


 電車を降りてグロウス学園の最寄りの駅に着き、歩いて帰る前にディーンは「コーヒーを買って来る」と言って、ユアから離れた。


 彼が離れた瞬間、ユアは背後から何者かに口と手を抑えられ無理矢理、車に乗せられた。


                 ◇


 着いたのは、リマネスの屋敷であるロミート邸。

 ユアを拉致したのはボディガードの一人。ディーンが離れる瞬間を待っていたのだ。

 リマネスが勝ち誇った顔で出迎えた。


「おかえり、ユア」

「ずっと待ち伏せしてたの……?」

「知っているのよ。あなたがお兄さんと電車で出掛けたのを。だから、付近の駅すべてにボディガードを待たせたの。どこへ出掛けたかは知らないけど、電車で帰るのは確実だからね」

「何でそこまでして、ここへ置きたいの?」


 ユアが質問すると、リマネスは鼻で笑った。


「ずっと言っているじゃない。“あなたはいじめられている時が一番可愛い”って」

「そんなの理由になってない! 私を学園へ帰して!」

「ダメよ。あなたはここで暮らすの。これからも、ず~っと」


 ユアが睨みつけるが、リマネスにはまったく効いていない。

 むしろ、ユアの嫌がる顔が見たくて仕方がないようだ。


「お嬢様。リア・チューブからDMが届いております」


 ヴァートンがリマネスにスマホを渡した。


「リア・チューブ」とは、リアリティアで人気の動画サイト。

 ユアがこちらに戻ってからは、リマネスは彼女を主体の動画を上げるようになった。もちろん、ユアの意思には背いていた。


 リマネスはスマホの通知を見て、訝し気な表情になった。


「……“生配信でコラボがしたい”ですって」

「どなたがですか?」

「ミカネよ」


 リマネスがぶっきらぼうに答えると、ヴァートン、ボディガード、メイドたちが一斉に驚きの声を上げた。


「ミカネって、あの歌手の?!」

「何でリマネス様と?」

「それは本物なんですか? 中には有名人を装って絡む詐欺もあるので……」

「本物よ」


 皆が口々に言うが、リマネスの一言で同時に黙った。


「送り先を見たけど、ちゃんと本人だし、上げられてる動画も全部本物よ。でも、乗り気になれないわね」

「どうしてですか?」

「リマネス、ミカネが大っ嫌いなの」


 リマネスはあからさまに不快を露わにした。

 言った後で「誰かさんはファンみたいだけど」と、さりげなくユアを睨みつけた。


「で、でも、そのような有名人とコラボをすれば視聴者もチャンネル登録者数も、グンと増えると思いますよ」


 逆にヴァートンは賛成しており、コラボの長所を伝えた。


「その点ではやっていいと思うわ。ただ、今も言ったけど、()()()()()()()()なのよねぇ~」


 リマネスはユアを見ながら、明らかに強調して言った。


「ファンで何が悪いの? あんたより、ミカネの方がよっぽど良い人よ!」


 ユアは初めてリマネスを「あんた」と呼びながら言い返した。

「お黙りなさい!」とヴァートンが怒鳴る。


「いいわよ、ヴァートン。カゴの中の鳥がいくら(わめ)いたって、リマネスには心地よいさえずりよ。何がイヤかって言うと、ミカネが屋敷に来ると確実に嬉しそうな顔をするでしょう? それが不愉快なのよ」

「は……?」

「これまでだって、……イマストだったかしら? ゲームの新作が出ると嬉しがるあなたにムカついてたのよ」

「別にいいじゃない。何であんたのために暗い顔をしなきゃいけないの? 私はあんたにムカついてる!」

「黙りなさい!!」


 ヴァートンの二回目の怒号が響いた。


「言わせときなさい。所詮は負け犬の遠吠えよ」

「あんただって、そうじゃない」

「は?」


 ユアは怯えながらも、きっとリマネスを睨み続けて言った。


「ミカネに負けるのが怖いんでしょ? 見た目も中身も向こうに負けているし、“公開処刑”って言われるのが怖いからコラボしたくないんでしょ? 私が喜ぶのがイヤとか言っておいて、本当はミカネに比べられるのが怖いんじゃない!」


 リマネスはユアの頬を思いきりひっぱたいた。


「いつからそんなに生意気になったの? 弱いくせに!」


 頬の痛さを堪えながらも、ユアはリマネスを睨み続けた。


「痛くも痒くもないわよ、そんな怯えた目。あなたこそ、リマネスが怖くてしょうがないんじゃない。十年間一度も勝ったことないんだから当然よね! 勉強もスポーツも実技も言葉攻めも、ぜ~んぶリマネスの方が上だったんだから!」


 やはり効いておらず、リマネスは終始笑っていた。

 悔しさでユアの目から涙が一粒流れた。


「いいわよ、その顔! あなたはずっとそんな顔をしていればいいの!」


 そう言うとリマネスはユアを突き倒してしまった。


 メイドとボディガードが騒然とした。

 中には「やり過ぎじゃ……?」と言う者もいる。

 それらの声が聞こえなかったのか、リマネスは毅然として言った。


「いいわ、コラボするわよ。ただし、あなたのためじゃない。あなたが言った“ミカネの方が見た目も中身も上”とか“ミカネと比べられるのが怖い”を覆すためよ! 歳は向こうが上でも、中身はリマネスの方が大人だし、こちらの方が身長も高いしスタイルも良いのよ! どちらが劣っているか証明してあげるわ。ミカネが典型的なバカだってことと、あなたに見る目がないってこともね!!」


 リマネスは声を荒げながらも、ミカネとのコラボを約束した。

 ただしユアの喜ぶ顔は見たくないため、撮影の時以外はミカネとの接触は一切許されなかった。


                 ◇


 翌日のロミート邸。

 今日も学校が休みなので、撮影は本日行われた。

 ミカネとマネージャーのサモレンがやって来て、リマネスと三人で打ち合わせをした。


 その間、ユアはヴァートンに見張られながらも部屋に押し込まれていた。



 ロミート邸のテラスで打ち合わせは始まった。


「急なお願いで申し訳ございません。ミカネ様は明日から多忙のスケジュールで、本日しか日が無くて……」

「大丈夫です。こちらも卒業したら大学の入学準備で忙しくなりますし、今日は予定を入れていなかったのでちょうど良かったです」


 サモレンが急に押し掛けたことを謝罪すると、リマネスは笑顔で答えた。

「ミカネが大嫌い」とは言ったが、本性を悟られないため建前だけは良くしておこうと心得ていた。


「今日、ユアちゃんはどうしたの?」


 ミカネが辺りを見回しながら尋ねると、リマネスは優しい笑顔で対応した。


「お部屋です。あの子は人見知りが激しいので、撮影以外では共演者さんと顔を合わせたくないんです」

「今から顔合わせで慣らした方がいいと思うのですが……」

「大丈夫です。撮影に入ればすぐにスイッチが入る子なので」


 リマネスは、ユアとミカネたちを会わせないように必死にかわした。


「人見知りが激しいなら、学校で会った時も舞台に上げない方が良かったわね~」


 ミカネは、以前ユアたちの高校に行った時の話を出した。


「妹さんに申し訳ないことをしてしまったわ」

「そうですね。勝手に来られただけでも驚きましたのに、いきなりあんなことをされて困りましたよ」


 ミカネが謝罪の言葉を述べるが、リマネスはそのまま受け取った上に相手を非難した。


 その場の空気が凍り付いた。

 察したサモレンも慌てて謝った。


「たいへん申し訳ありませんでした! 今後はこのようなことがないように致します!」


 彼の謝罪でリマネスは機嫌を直し、動画に関する打ち合わせが行われた。

 打ち合わせ自体はスムーズに進み、今日の動画の段取りが決まった。


 フリルたっぷりの服を着せられたユアが庭までやって来て、撮影が始まろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
撮影が始まりますね。ハプニングがない事を祈っています。
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