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ラスボスと空想好きのユア  作者: レセラン
第4章 リアリティア編

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第79話「変身」

 泣き疲れて眠ったユアは、公園のベンチの上で目を覚ました。

 体にはディンフルのマントが掛けてあった。


「起きたか」


「……ディンフル?!」


 彼の姿を見たユアは驚愕し、飛び起きた。

 ディンフルがリアリティアに来たことと、眠る前に聞いた言葉は「夢だったのでは」と疑っていた。


 ユアは起き上がり、ディンフルへマントを返した。

 彼はマントを着けながら、ユアの隣に座る。


「どうだ? たくさん泣いて眠って、スッキリしたか?」


「うん。それよりディンフル。さっきの発言だけど……」


「発言?」


「ウ、ウソじゃない……よね?」


 ユアがおずおずとしながら尋ねると、ディンフルは少し考えてから言った。


「ウソでは言わぬ。“俺が守る”など」


「ギャ~!!」


 ユアは絶叫し、両手で顔を覆った。

 ミラーレで出会った時と同じシチュエーションだが、ディンフルにとっては本日二度目だった。


「何だ……?」


「ま、守るって……、本気で言ってるの?!」


 彼女は両手で顔を隠したままで聞いた。

 幼少期から空想の話が好きだったユアは「守る」というセリフに憧れて来た。

 よりによって現在の推しから直接言われ、頭がさらにパニックになった。


「今のお前には助けが必要だからだ! ましてや、屈強な男どもに襲われたのだぞ! 戦闘力がある俺(・)が守らねばならぬだろう?!」


「俺?! おれ、おれ、おれ~!!」


 ディンフルは発狂するユアを見て、目が点になった。

「変な奴ではあるが、いよいよおかしくなったか……」と恐怖心に似たものを抱いていた。


「一人称変わってる~! 前は“私”だったじゃない!!」


「そんなこと、どうでもいい!!」


 ディンフルは怒鳴りながらも、ユアの両手を無理やり外した。

 また公園内に絶叫が響く。



 ユアが落ち着いたところで、ディンフルは今後について尋ねた。


「お前はどうしたい? そのリマネスとやらの屋敷に帰りたくないのだろう?」


「フィーヴェへ行きたい……みんなに会いたい!」


「それなら、早く来れば良かろう。お前には異世界へ行く力があるのだから」


「そ、それが……、こっちへ飛ばされてから、使えなくなったの」


「何……?」


「何回やってもダメだった。毎日試したのに、一度も成功しなかった……。ディンフルはどうやって来たの?」


 ユアはうつむきながら状況を説明すると、また顔を上げてディンフルへ聞いた。


「異世界を転々としていたら、竜巻が現れた。フィーヴェでフィトラグスらと対峙してる時と同じものだった」


「それって……変動破(へんどうは)?!」


「よく覚えていたな」


 ディンフルから褒められ、ユアはドヤ顔をした。


「その変動破と魔法をぶつけたら、こちらへ来られた。理屈では、戻ることも可能な筈(はず)」


「そっか。じゃあディンフル、早速だけど……」


「こちらに未練はないか?」


 ディンフルの質問にユアは大きくうなずいた。

 一刻も早く、リアリティアを出たかったからだ。


「わかった。捕まっていろ」


 ユアはしっかりと彼に抱き着いた。

 ディンフルは彼女を抱き寄せ、左手を天にかざし、魔法を使った。


 しかし、手から光が出たものの何も起こらない。


「何も起きぬ……」


「え……? また魔法が使えないの?」


「そんなはずはない。本当に魔法が使えなければ、手から光は出ない。今回は、空間移動が出来ぬということだ」


「そんな?!」


「今、リアリティアから脱出は不可能かもしれぬ」


 ユアは納得がいかなかった。


「他に原因があるはずだよ。そうだ!」


 何かを思いついたユアは、ポケットから歪(いびつ)な形の小さな石を取り出した。


「それは?」


「魔封玉(まふうぎょく)のカケラ」


「俺が踏んで壊したものか……」


 今や魔封玉は二人にとって苦い思い出と化していた。

 ディンフルはカケラを手に取り、調べてみた。


「輝きがない。完全に力を失っている。原因はこれではないな。いちかばちか、こちらで行くぞ」


 ディンフルは今度は、本のボヤージュ・リーヴルと鍵のボヤージュ・クレイスを取り出した。

 クレイスをリーヴルの表紙の鍵穴に挿し、回しても、やはり両方に反応はなかった。

 ユアはがっくりと肩を落とした。


「そんな……」


「あきらめるな。他に方法を探す」


 グ~


「……今の音は?」


「すんません……」


 突然鳴った低音はユアのお腹の音だった。

 昼以来何も食べておらず、たくさん運動をした後だ。

 リアリティアに帰ってからは食欲が落ちていたが、ディンフルと会って安心したのか久しぶりにお腹が空いたのだ。


「まずは腹ごしらえだ。途中で倒れられては、困るからな」


「この近くにコンビニがあるよ」


「こんびに?」


 ディンフルは聞き慣れない言葉を復唱した。

 異世界のフィーヴェにはコンビニはないので、ユアが案内することになった。


 早速行こうとしたところ、ディンフルが引き止めた。


「待て。この姿では動きづらい。少し変わるぞ」


「変わるって……?」


 ディンフルは再びマントを外すと、頭からすっぽりとかぶった。

 そしてマントを払うと、そこには濃い紫色のボブヘアに、紫色のスクエア眼鏡を掛けた青年が立っていた。

 白い襟付きシャツに黒いジャケット、黒いスラックスという落ち着いた服装だ。


「だ、誰っ?!」


「俺だ。このマントには、変身の力もあるのだ」


「便利すぎない……?」


「元の姿では、すれ違う者に見られたり声をかけられたりと、歩きづらかった……」


 変身したディンフルはうなだれながら言った。

 よほど注目されるのが嫌だったのだろう。


 ユアは「フィーヴェでも普通に歩けないんじゃ……?」と心の中でツッコんだ。


「きっとイマストのせいだよ。発売して一月(ひとつき)経ってるし、売り上げも評判も好調だから、フィットやディンフルたちの知名度が高いんだよ」


 ユアは説明した後で、表情を曇らせた。

 今朝、そのイマストV(ファイブ)のソフトを焼失したばかりだ。


「どうした?」


「……私が持っていたイマストのソフト、今朝、暖炉で燃やされたの」


「我々のイラストがついていたものか? 何とひどいことを……!」


 変身したディンフルは静かに立腹すると、うつむくユアの前にひざまずいた。


「そのリマネスという女、俺が必ず何とかしてみせる。同時に、異世界へ行く方法も探す。だから、元気を出せ」


「ディンフル……」


 自身の名前を聞き、ディンフルは苦虫を嚙み潰したような顔になった。


「待て。“ディンフル”はこちらで呼ぶと、まずいな……。知名度があるのだろう?」


「じゃあ、何て呼んだらいい?」


「そうだな……。この姿の時は“ディーン”と呼べ」


「ディーン?」


「ウィムーダからは、“ディン”と呼ばれていたのでな」


 それを聞いたユアの目がいきなり輝き始めた。


「何だ……?」


「じ、じゃあさ……、これからは“ディン様”って呼んでもいい?」


「はっ? 何故、様付けなのだ……?」


 ユアは再び顔を真っ赤にして、早口で話し始めた。


「じ、実は、ゲーム屋で一目惚れしてからずっと心の中で“ディン様”って呼んでたの! 直接会ってからは“ディンフル”になってたけど私の中では本当は“ディン様”が主流と言うか……」


「わかった、好きにしろ!」


 長くなると思った彼は途中でさえぎり、承諾した。

 ユアは無言で思いきりガッツポーズを決めた。



 ディンフル改めディーンたちがコンビニへ向かおうとすると、ユアがもう一つの問題を思い出した。


「私も自由に歩けないんだ……」


「どうした?」


「私のこと、リマネスが作った動画のせいで世界中に知られてるの。だから、ディン様が変身出来ても、どっちみち注目されちゃうよ……」


「参ったな。変身は魔力の消耗が激しいゆえ、一日に一度しか使えぬ。……そうだ」


 何か案が浮かんだディーンは魔法でしまったマントを再び出し、魔法をかけた。

 すると、マントは黒いキャスケットに変化した。


「マントが変身することもあるが、人の変身ほど魔力を使わぬ。色は固定されるが、顔を隠すにはちょうどいい」


「あ、ありがとう。でも、どれだけ便利なの……?」


 ディーンに感謝しつつも、ユアはマントの能力の多さにひたすら驚いていた。

 試しにマントが化けた黒いキャスケットをかぶると、彼の言うとおり、ある程度まで顔を隠せた。

 これで二人とも、人目を気にせずに街を歩けるようになった。

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