表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
77/120

第74話「逃げよう」

 ロイヤルダーク高校の駐車場。

 生徒への挨拶が終わるとサモレンは車の運転席に、ミカネは後部座席に乗り込んだ。


「あ~、つかれた。でも、来てよかったぁ!」

「生徒たち、大喜びでしたね。一生の思い出となります。良い企画でした」


 サモレンは車のエンジンスイッチを押そうとしたが、指を引っ込めた。


「出発前にお聞きしますが、何故急に“高校でイベントをやりたい”とおっしゃったのですか? この時期は、どの学校も卒業式で忙しいと言うのに」

「卒業が控えてるなら、“卒業を祝える”って口上が使えるじゃない。だからって、卒業式当日はダメでしょ。あれこそ、みんな忙しいし。質問の答えだけど、今日このダーク校で運命の出会いがあると感じたのよ」

「運命の出会い?」

「生徒たちには“くじ引き”って言っちゃったけど、“運命の出会い”なんて言ったら、本当のくじで選ばれた子が注目の的になるでしょう?」

「そこまで考えて……? それで、選ばれたあの方……ユア・ロミートさんでしたっけ? ここ最近、里親に引き取られ、苗字が変わったとお聞きしましたが?」

「ユアちゃん、気に入ったわ~」


 ミカネは表情をほころばせた。


「彼女、嬉しそうには見えませんでしたよ?」

「あの子はいじめを受けているわ。緊張と言うよりブルーな顔してたし、周りの視線も気になったのよ」

「私も思いました。だから、可哀想に思って?」


 サモレンがバックミラー越しにミカネを見つめる。

 緩んでいた彼女の顔が、いつの間にか真剣になっていた。


「それもあるけどぉ、あの子、ミィと同じ匂いがするの」

「香水をつけている感じは見受けられませんでしたよ?」


 ミカネは少し考えながら答えた。


「何て言うかぁ、ミィと同じで元からすごいの持ってる気がするのよ。上手くは言えないけど」

「具体的にどういうものを?」


 サモレンが首だけ後部座席へ振り返ると、ミカネはスマホを開き、画面に表示された時間を見ていた。


「サーモン、そろそろ出発しないとやばくない?」


 サモレンは左腕に着けている時計を見て、出発予定時刻を過ぎていることに気が付いた。


「も、申し訳ございません!」


 エンジンスイッチを付け、急いで車を発進させた。

 そして、運転を始めてからも「サーモンはやめて下さいね」というつっこみは忘れなかった。


                 ◇


 教室に戻る途中、ユアはリマネスの取り巻き四人にトイレに引っ張り込まれた。

 ミカネのファンである彼女たちは、恨みのこもった目で睨みつけた。


「いい気なものね。ミカネに選ばれてちょっと会話したからって、調子に乗って!」

「私、調子になんて……」

「乗ってるじゃない! プレゼント見せびらかして歩いてたでしょ?」

「そんなことしてない!」


 四人に囲まれたユアが反論するがすぐに遮られ、話も聞いてもらえない。

 リマネスは後ろから、その様子を嬉しそうに眺めていた。


 取り巻きの一人がユアへ怒鳴りつけた。


「謝って!」

「だ、誰に……?」

「くじに当たらなかったみんなよ!! あんたはリマネスのお屋敷に住めるわ、コネで進路も決まるわで絶好調でしょ? その上、今日はくじに当たってプレゼントまでもらって!」

「どれだけ贅沢したら気が済むの? ダーク校にミカネのファンが多いの知ってるくせに! 当たらなかった人の気持ち、考えて!!」


 ユアは絶対に謝りたくないと思った。

 リマネスの家に住むのも、行きたくもない進路先に行くのもすべて彼女が仕組んだことで、自分は何もしていない。

 プレゼントが当たったのも、まぐれだ。


 俯いて無言でいると、取り巻きが「何か言えよ!!」と叫び散らした。

 それでも言わないでいると、一人がリマネスへ振り向き「どうする?」と尋ねた。つられて他の三人も振り向く。

 その隙に、ユアは取り巻きたちを突き飛ばし、トイレから走って出て行った。


「待て!!」


 後ろからいじめっ子の怒号が聞こえる。


(逃げよう。異世界へ行けないなら、ここよりもっと遠くへ!)



 ユアは無我夢中で走り、一階の下駄箱まで来た。

 靴を履き替えようとすると、上下真っ黒なスーツに身を包み、黒いサングラスを掛けた背の高い男性が五人やって来た。


「教室へお戻りください」


 見覚えのない者に声を掛けられ、ユアは思わず靴を履く手を止めてしまった。


 そこへ、後ろからリマネスが得意げな顔をしながらやって来た。


「簡単に逃げられると思った?」


 ユアが驚愕しながら振り向くと、相手は勝ち誇った顔で笑った。


「あなたがリマネスの隙をついて逃げないように、手配したの。リマネスの家のボディガードだから体も強いし、足の遅いあなたを簡単に捕まえられるわよ」


 目の前の男性たちは、リマネスから急遽呼び出されたようだ。

 彼女はユアの手からミカネのプレゼントをひったくった。


「返して!!」


 ユアが慌てて飛び掛かるが、リマネスは得意の体術でかわす。


「リマネスから逃げようとした罰として、没収よ」

「罰なら今朝受けたじゃない! 私の大切なゲームを暖炉に入れて……!」

「これとあれは違うわ。今朝の罰はリマネスとヴァートンにウソをついたものでしょう? あと、暖炉に入れたのはヴァートンでリマネスは何もしてないわ」


 リマネスは落ち着き払いながら、ユアへ言い返した。


「指示をしたのはあなたじゃない!!」


 ユアが怒鳴ると、リマネスに突然頬をひっぱたかれた。


「口答えしないで! 孤児院にいた可哀想なあなたを引き取って、大学まで決めてあげたのに何でそんなにわがままなの? いい加減、自分が恵まれていることに気付きなさい!!」

「引き取ることも、大学も、頼んでない……!」


 ユアは頬の痛さと悔しさで涙が溢れて来た。

 リマネスは泣き出す相手を見て、嬉しそうに笑い出した。


「そもそも、ミカネなんて趣味が悪いわ。あんな人、どこが好きなの?」

「ミカネをバカにするの?!」


 好きな歌手をけなされ、ユアはますます怒りが湧いた。


「実際、彼女はバカじゃない。いつも“ミィは~”とか変な話し方をするし、天然だか何だか知らないけどバカ丸出しだし、何で人気あるのか理解出来ないのよね」

「あなたにミカネの良さは、一生掛かったってわからない!」

「わからなくても死にはしないわ」


 感情的に怒るユアをリマネスは冷静かつ楽しみながらかわした。

 ユアの言葉は何一つ届いていなかった。さらに……。


「その顔、最高よ。やっぱり、あなたはいじめられてる時が一番可愛いわ」


 ユアから没収した紙袋にはミカネの直筆サイン、ブロマイド、アクリルスタンドが入っていたが、この後すべて、リマネスの取り巻きたちの手に渡るのであった。


                 ◇


 ディンフルはユアを探すため、今まで行った異世界を巡っていた。

 最初に向かったのは、ミラーレ。


 空間移動の魔法を使って着いた場所は、ユアと出会った公園のベンチの前。


「第二の里帰りとして、戻ってないか?」


 公園内とその周辺を隈なく見て回るが、ユアの姿はない。



「ディンフル?!」


 名前を呼ぶ声へ振り向くと、買い物帰りのとびらとキイが立っていた。


「やっぱり、ディンフルだぁ!」

「戻って来たんだな?」


 二人が喜びながら駆け寄って来た。


「久方ぶりだ。……いや、去って一週間も経っていないか。こちらも重宝させていただいている」


 ディンフルはクリスタルで出来た本・ボヤージュ・リーヴルと、同じくクリスタルで出来た鍵・ボヤージュ・クレイスを出して見せた。これらは二人からもらったものだった。

「使ってくれてるんだ?!」とびらが感激の声を漏らす。


「早速聞きたいのだが、ユアは来ていないか?」


 ディンフルはリーヴルとクレイスを魔法で消しながら尋ねた。

 彼には、魔法で物の出し入れをする力があった。


「ユア? 来ていないよ」

「い、今のって……魔法?!」


 とびらは質問に答えるが、キイは魔法に驚いた。

 ミラーレにいる間、ディンフルたちは魔法が使えなかったので、キイは話が頭に入って行かなかった。


「魔法、戻ったんだ?!」

「ああ。犯人は身近なところにいたがな……」

「誰だったんだ?」


 とびらは再度喜びの声を上げ、キイは魔法を封じた犯人に興味津々だった。

 ディンフルはその犯人がユアだとは言わなかった。二人が混乱するだろうし、何より説明が面倒くさかった。

 

 その代わり、ミラーレを発った後のことを話した。

 ディンフルが異次元へ飛ばしていた町村を戻したこと、主人公一行はフィーヴェで元の生活に戻ったこと、そしてユアがいなくなったこと。


「私もユア探し、手伝うよ!」

「弁当屋はどうするんだ?」

「あ……」

「また、おばさんに怒られるぞ!」


 冒険好きのとびらは手伝ってくれようとするが、キイの言葉で思い留まった。また、まりねに怒られる予感がしたからだ。


「気持ちはありがたいが結構だ。お前たちも仕事があるだろう?」

「ティミレッジたちは連れて行かないのか?」

「彼らは元の生活に戻した。私と違って、待っている者がいるからな。ユアは私一人で探す」

「そうか……。でも、前よりユアを大切にしているんだな?」


 ミラーレにいた頃、ディンフルが少しでも良くしただけでユアは興奮した。

 そのたびに彼はツンデレを発揮しながら否定していた。


「き、気のせいだ! さらば!」


 久しぶりにツンデレを発揮したディンフルは、空間移動の魔法で消えてしまった。

 取り残されたとびらとキイは「たった数日じゃ、変わらないか……」と苦笑いをするしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ