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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
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第72話「途絶えた希望」

 屋敷に戻ると、ユアはロリータを思わせる白いフリルが付きのピンク色のドレスを着せられた。頭には白のボンネットを被っている。


「さあ、始めるわよ!」

「な、何を……?」


 楽しそうにするリマネスはユアの質問には答えず、スマホの録画ボタンを押した。

 ユアは今から嫌な予感がしていた。


 撮影が始まると、リマネスは声高々にカメラへ向かって話し始めた。


「ごきげんよう、皆様。いかがお過ごしでしょう? SNSでもお伝えしました通り、妹のユアが戻って来ました! 今はこのとおり、元気ですよ!」


 リマネスが始めたのは「リア・チューブ」という動画投稿サービスの撮影。

 彼女は前々からこのサービスを使って、ユアの捜索のために情報を発信していた。

 今日はユアの無事を伝えるための撮影で、わざわざいつもと変わった格好をさせたのだ。


「ご苦労さま! これから毎日配信していくからね」

「何のために……?」


 撮影を終え、リマネスが余韻に浸るように楽しげに言った。

 対して、ユアは終始不愉快だった。


「決まってるでしょ? あなたがどこにも逃げられないようによ」


 相手の回答にユアは耳を疑った。


「世界中に拡散できるSNSを使えばみんな、あなたがリマネスのものだって思ってくれる。そして、またあなたが脱走した時にも、リマネスに協力して捕まえてくれるじゃない」

「何で、そこまで束縛するの……?」

「あなたにずっと居てほしいからよ」


 一見ポジティブに聞こえるが、ユアにはそう思えなかった。

 本当に大切に思っているなら嫌がるようなことはしないし、いじめられてる時には必ず助けるはず。

 だが、リマネスからは「大切にする」という気配が一切感じられなかった。

 ユアはますます彼女に恐怖を抱くようになっていった。



 その後、リマネスに隠れて配信された動画を見てみた。

 背中を丸め、冴えない表情の自分が映っていた。

 横にいるリマネスは仮面とヘッドドレスが一体化したものを付けて自分だけ顔を隠し、「マリー」と名乗っていた。

 ユアのことなど気にも掛けず、楽しそうに笑っていた。


 何も抵抗できない自分が恥ずかしくなる。


 コメント欄には、すでにたくさんの声が寄せられていた。

「リマネス美人で、ユアちゃん可愛い!」「ユアちゃん、お人形さんみたい」「本当の姉妹みたい」「ぴったりのコンビ」など肯定的なものが多かった。

 中には「お姉さんを心配させるなんてガキっぽい妹」「恵まれてるのに逃げ出すなんて贅沢すぎる」など、ユアへの批判もあった。


 そして中には「ユアちゃん、嫌がってない?」「本当に幸せなの?」と疑惑のコメントもあった。

 ユアはそれらの声に救いを求めた。「あなたたちの言っていることが正しい」と。

 しかし、その類のコメントはすぐに消されるのであった。


 ユアはたちまち有名人になった。「令嬢系リアチューバ―」として、リマネスがヒットし始めたためである。

 毎回「やりたくない」と断っているが、力ずくで参加させられた。

 リマネスにとって満足な出来でない時も延々と言葉攻めをされ、前よりも悪い居心地となった。



 そんな日々が続き、時は二月中旬。

 三年生はあとは卒業式を迎えるだけ。学校では式の練習のみだった。

 通学する頻度は減ったが、リマネスと一つ屋根の下で暮らすユアは毎日が地獄だった。


 何度か逃げようとした。もちろん屋敷からの脱走ではなく、異世界への移動を試みていた。

 ところが、いくらイマスト(ファイブ)のソフトを持って念じても、フィーヴェへは飛べなかった。

 一ヶ月ほど出来ない日が続くと、ユアも心が折れかけて来た。能力が消えてしまったのだと……。



 今日は登校日。

 気が重いまま制服に着替え、必要な物を入れたカバンを手に持った。

 異世界へ飛ぼうとするのは、トイレへ入った時だけ。それ以外では常にリマネスが見張っている。


 いつものように、カバンにこっそり入れていたイマスト(ファイブ)のソフトを制服の下に隠し持とうとすると、ソフトが見当たらなかった。


「え……? 何で?!」


 ユアはカバンを逆さにして中身を床にぶちまけるも、ソフトは入っていない。

 いつも、この中に入れていたのに。


「朝から探し物~?」


 愉快な女性の声がする。

 別室に行っていたリマネスが戻って来た。

 その手には「イマジネーション・ストーリー(ファイブ)」のゲームソフトが握られていた。


「何で……?」

「今日撮る動画は“ユアの私物”をテーマにするの。カバンに入れてる物を使おうと思って覗いたら、これが出て来たのよ。ウソついたわね? 前に、ヴァートンがゲームを出すよう言った時に、“買ってない”って言ったわよね? じゃあ、これは何? どう見ても、ゲームのソフトにしか見えないけど?」


 ユアは顔面蒼白になった。

 ついに、リマネスにゲームの所持がバレてしまった。


「お願い、返して。大切な物なの……」

「施設でもらったお金があったのは盲点だったわ。小遣いは与えた覚えが無いし」


 ユアは引き取られる際、私物をほとんど没収されたが金銭までは取られなかった。だが、これを機にそれまで没収されるかもしれない。

 リマネスはゲームを持ったまま、部屋から出て行った。


「待って! ゲームを返して!!」


 ユアが必死に頼みながら追い掛けるが、リマネスは吹き抜けになった階段から一階に向かってゲームを投げ捨てた。

 下にはヴァートンがおり、ゲームを拾い上げた。


「それを暖炉に入れてちょうだい。これは、リマネスたちに逆らった罰だから!」

「かしこまりました」


 ヴァートンは冷めた声と表情で返事をすると、広間の中央にある暖炉へゲームを持って行った。


「ヴァートンさん、やめて!! ウソをついたのは謝ります! でも、それは大切なものなんです! 返して下さい! お願いします!!」


 一階へ駆け降りようとするユアをリマネスは捕まえ、力ずくで押さえ込んだ。


 ヴァートンは迷うことなく、燃え盛る暖炉の中にゲームソフトを投げ入れた。



 大好きなキャラクターたちが描かれたケースが焼かれていく。

 やがて、遊ぶ時に必要なゲームカードも燃えてしまい、ユアが買ったイマスト(ファイブ)は跡形もなく姿を消した。


 インターネットも自由に使えない今、イマスト(ファイブ)のイラストを見られる唯一の手段は、持っていたゲームのみ。

 希望を失ったユアは膝から崩れ落ち、泣きじゃくった。

 それを見てリマネスは心から(わら)う。


「さあ、学校へ行きましょう。今日も楽しい一日にしましょうね」

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