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ラスボスと空想好きのユア  作者: レセラン
第4章 リアリティア編

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第65話「前兆」

前回までのあらすじ

ユアはゲームのキャラクターであるディンフル、フィトラグス、ティミレッジ、オプダットと異世界のミラーレで出会い、四人の故郷・フィーヴェを目指し、旅して来た。

ようやくフィーヴェに帰還すると、ディンフルは彼らの故郷を異次元から戻した。そして魔王になった理由と、人間を殺さずに異次元へ送る理由を皆へ打ち明けた。

そんな中、フィトラグスたちの仲間・ソールネムとチェリテットと再会する。

彼女たちの提案でフィトラグスの故郷を目指していたが、道中、ユアが突然現れた大穴に吸い込まれてしまった。

 部屋の一室。

 幅広い鏡の前に座る金色のウェーブヘアの若い女性は、化粧に使うコンパクトをゆっくりと閉じた。


「これで、オッケー」


 感情を込めずに言うと、コンパクトと入れ替えに自身のスマホを出し、触り始めた。



 そこへ銀色のロングヘアを一つに束ね、黒いスーツを着た長身の男性がノックし、部屋に入って来た。


「ミカネ様、変更です。前座で歌うはずだったアーティストが体調不良のため、出番が前倒しになりました」


 男性・サモレンが言うと、ミカネと呼ばれた女性は笑顔で振り向いた。


「まだまだ寒いもん。体調崩してもしょうがないわ。でも前倒しになった分、早く帰れるんでしょ? ミィは歓迎よ~」


「そう仰(おっしゃ)っていただけると、助かります」


 明るい声色で返す彼女へ、サモレンは感謝を述べた。

 しかし、すぐに声のトーンを落とし、ミカネへ尋ねた。


「それより……、いじりましたね?」


「バレたぁ?」


 何かをいじったらしいミカネは、無邪気な笑顔を向けた。


「私のものでしたので、すぐにわかります! むやみにいじらないで下さい! おもちゃじゃないんですから!」


「ちゃんと理由があるの! すっごくイヤな予感がしたのよ……」


 怒りを示した後でミカネは気味悪く言った。まるで悪寒を感じているようだった。


「だから、扉(・)を(・)閉(・)め(・)た(・)の(・)」


 最後に意味深に言うミカネを、サモレンは穏やかな表情でなだめ始めた。


「わかりました、何が起きるか調べて参ります。ミカネ様の予言は的中率が高いですからね。……しかし、普段も“話し相手が欲しい”と言って、いじってますよね?」


「バレたぁ?」


 なだめた後で、笑顔で圧をかけるサモレン。

 対してミカネは満面の笑みで対応する。反省の色は見られなかった。


「先ほども言いましたが、すぐにわかるのです!」


 サモレンが再び彼女を睨んだところで、若い女性スタッフが「スタンバイ、お願いします」とドアをノックしながら声を掛けた。


「じゃあ、行って来るわ。今回は“扉を閉めて良かった”って思ってるから。調査をお願いね、サーモン」


「かしこまりました。ですが、“サーモン”はやめて下さい」


 最後に不満を露わにするサモレンを後に、ミカネは着ていたロングドレスの裾を持ちながら部屋を出た。


◇


 フィーヴェ。

 ディンフル、フィトラグス、ティミレッジ、オプダット、そしてチェリテットとソールネムが途方に暮れていた。

 一緒にいたユアが突如現れた大穴に吸い込まれて消えてしまったのだ。


 ディンフルは彼女を助けられず、膝をつき、うつむいていた。

 他の者たちもどう声をかければいいか、わからなかった。


「ユアはどこ行ったんだ?」


「……こちらが聞きたい」


 沈黙を破るようにオプダットが聞くが、ディンフルは力なく答えた。


「魔法であることは間違いないわ」


 ソールネムが冷静に答えた。

 黒魔導士なので、普通の人間より魔力を感じやすかったのだ。


「もしや、異次元へ送る魔法?」


「私が使っていたものと似ていた」


 フィトラグスが推測すると、ディンフルは相変わらず地面を見ながら答えた。


「異次元へ送る魔法なら、ディンフルさんも使えますよね?」


「てことは、ユアを連れ戻せるかもしれねぇな?!」


 魔法の類がわかると、ティミレッジとオプダットは目を輝かせた。


「残念ながら、異次元から戻すのは送った者しか出来ぬ。今のは、私は関わっていない」


 希望を抱いていた二人は落胆した。


「確かにユアちゃんたち、普通に話していたし、使うタイミングじゃなかったよね。ディンフルも助けようとしていたし……」


 チェリテットが言うと、皆はディンフルが使ったものではないと確信した。


「じゃあ魔法で探しに行くか? 空間移動、使えるんだろ?」


「異世界へ飛べるリーヴルもあるぞ」


「それらもダメだ。空間移動は一度行った場所しか行けず、ユアを追うのは不可能だ。リーヴルもランダムで飛ぶゆえ、信用出来ぬ」


 オプダットとフィトラグスが提案してくれるが、ディンフルは理由をつけて断った。

 フィトラグスは「ボヤージュ・リーヴル」というクリスタルで出来た本を手にしていた。

 ユアの破れたリュックから出て来てしまったのだ。


 ソールネムが、リーヴルへ関心を向けた。


「その本は? 魔力を強く感じるわ……!」


 冷静だった彼女はうろたえ始めた。

 さらにチェリテットも、クリスタルで出来た本が初めてなのか、驚いた目で見つめた。


 ティミレッジが地面に落ちていた「ボヤージュ・クレイス」という同じくクリスタルで出来た鍵を拾うと、ソールネムたちへ見せた。


「このセットで、異世界へ飛べるんです」


「か、鍵もクリスタル?!」


「それからも魔力を感じる……。どこで手に入れたの?!」


 チェリテットが再び驚き、ソールネムが興奮して聞いたところで、雨が降って来た。

 雨足は徐々に強くなった。出歩くのは困難なので、一行は近くにあった洞穴に移動した。


「通り雨だと思うが……」


 鎧についた雨水を払いながらフィトラグスが言った。


「それはどうかしら? ここ数日、フィーヴェはずっと悪天候よ」


「晴れた日なんて、しばらくなかったよ」


 ソールネム、チェリテットが説明した。

 ティミレッジは「冬だから晴れの日が少ない」と思っていた。


 しかし、雨はしばらく激しく降り続けた。季節が理由ではなさそうだ。

 まるでフィーヴェのこれからを暗示しているかのように……。


◇


 その頃、ユアは茂みの中に倒れていた。

 目の前には白系統の色の屋敷が建っていた。

 どうやら、その敷地内に不時着したようだ。


「ここは……? ディンフルたちは?」


 辺りを見回すが、仲間たちの姿はなかった。



「そこで何をしている?!」


 ユアへ向かって、屋敷の関係者であろう女性の怒鳴り声が響いた。


「ご、ごめんなさい! 怪しい者ではないので通報はご勘弁を! すぐに出て行きます!」


 急いで茂みから出ようとすると、声の主が驚きの声を上げた。


「ユア様?!」


 名前を呼ばれ、ユアは相手を見た。

 視界の先には、白髪混じりの茶髪を団子型に結い、ロング丈の紺色のドレスに白いエプロンをつけた初老ぐらいの女性が立っていた。


「ヴァートンさん?!」


 ヴァートンと呼ばれたその女性はユアを見下ろし、冷めた口調で話しかけた。


「何故、そのような場所にいるのですか? ふざけてないで、出て来て下さい」


 ユアが茂みから出ると、ヴァートンは彼女を睨みつけた。


「来て下さい。聞きたいことが山ほどあります」


 ユアの返事を待たずに早足で歩き始めた。

 そして、数歩歩いたところで振り返らずに「お嬢様を困らせないで下さい」と冷たく言った。


「帰って来た……の……?」


 見覚えのある景色を見て、ユアは故郷・リアリティアへ帰って来たことを確信した。

 納得出来ないまま、早く去って行くヴァートンについて行く。


(帰りたくなかったのに……)


 ユアはすでに胃の中が締めつけられていた。

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