第63話「初めて会う仲間」
フィーヴェの森で黒魔導士のソールネムと女性武闘家のチェリテットは、フィトラグスたちを探してさまよっていた。
「ねえ、ソールネム。これだけ探しても見つからないなら、ここにはいないんじゃない? ディンフルに異次元へ送られた可能性もあるし……」
「水晶玉の導きだから、ここで間違いないわ。探し出して一時間しか経ってないのよ。まだわからないわよ」
「もう一時間なんだけど……」
「武闘家のあなたには体力があるはずよ。一時間で疲れててどうするの?」
黒魔導士だが年上のソールネムに叱られ、チェリテットは仕方なく歩き続けた。
その時、奥から数人の話し声が聞こえて来た。
二人はその場へ急いだ。
茂みからそっと覗き込むと、フィトラグスたちの姿が見えた。
「見つけた……!」
「本当だ。ティミー君もいる! おーい……」
「ストップ!」
呼びかけようとするチェリテットの口をソールネムが塞ぎ、小声で止めた。
「あそこにいるの、ディンフルじゃないかしら……?」
彼女が指す先には、フィトラグスたちと熱心に話す魔王の姿があった。
戦うのではなく普通に話す様子を二人は不自然に感じた。
「何で? フィットはディンフルを憎んでいたのに……」
話しているうちにティミレッジとオプダットが満面の笑みになった。敵対する魔王の前で見せる顔ではない。
フィトラグスたちが魔王と話していることに疑問を抱いたソールネムは、彼らの前に出た。
チェリテットも続いた。
「何をしているの?!」
目を丸くしてこちらを見る一同。
フィトラグス、ティミレッジ、オプダットのいつもの仲間と、魔王のディンフル、そして桃色の髪の見知らぬ少女がいた。
◇
「ソールネムに、チェリー?!」
「お前ら、無事だったんだな!」
フィトラグスとオプダットが驚きと喜びを交えながら、二人を出迎えた。
「“無事だったんだな”じゃないわよ! 聞きたいことが山ほどあるんだけど!」
いきなり怒号を上げるソールネムに、ティミレッジがおずおずとした。
彼女はティミレッジの先輩であり、魔導士になりたての頃から厳しく言われて来たため、今でも恐れていた。
「まずあなたたち、今までどこにいたの? 私たち二人で古城の敵を食い止めて先に行かせたわよね? 全滅させて魔王の間へ行っても、誰もいなかったの。あなたを含めて!」
ソールネムはディンフルを睨みつけた。
この二人は以前ジェムを使った戦いで因縁があった。
「ほう……。その様子では異次元行きは免れたようだな? 姿を見ないゆえ、あちらへ行ったものだとばかり」
横からチェリテットが口を挟んだ。
「もしかして、フィットたちを異次元へ送ってたんじゃないでしょうね?!」
「それはないわ。もしそうなら、あの場に彼だけ残るはずよ」
ソールネムは冷静に訂正すると、再びフィトラグスたちへ尋ねた。
「みんな、一体どこにいたの? はぐれた日に水晶玉で探してみたけど、珍しく何も映さなかったの。こんなの初めてよ」
「ぼ、僕たち……変動破の一種である竜巻に飲み込まれて、異世界に行ってたんです!」
ティミレッジが体を硬直させながら報告した。
「へんどーは?」
「竜巻? そんなの、いつ起きたの?」
「ラスト戦だよ! 俺ら四人……正確にはフィットとディンフルで戦ってたら、おこったんだ。あ、今の“おこった”は、“起きた”の方で“怒る”って意味じゃないからな!」
「そんな解説いらないわよ! わかってるから!」
オプダットが二人へ説明し、余計な解説にチェリテットがつっこんだ。
彼女はオプダットが十九の時に自立のため別の町からやって来た。
年齢は一つ違いで、来たばかりで話す相手がいないチェリテットへ話しかけた同年代がオプダットだった。
そこから二人は仲良くなり、彼女も新しい町で少しずつ馴染んで行けるようになった。
同時に彼のつっこみ役に任命される羽目にもなった……。
「竜巻の話は後ほど。それよりも一番、気になることがあるんだけど?」
「同意。さっきから、視線を感じる……」
皆が話している横で、ユアが興奮しながらソールネムとチェリテットを見ていた。
「な、生ソールネムと……生チェリーがいる……!」
ユアは久しぶりにイマストのキャラに出会い、テンションが上がっていた。
「私たちを知っているの? 初対面だよね?」
チェリテットに聞かれ、さらに心臓がバクバクしたユアはガチガチで自己紹介をした。
「い、異世界から来たユアです! あなたたちも、イマストVのパーティということは存じております! 会えて嬉しいです!」
「“いますと”……?」
「こいつらも一行の仲間だったか」
「イマスト」を初めて聞くソールネムとチェリテットは首を傾げた。
そして彼女たちもフィトラグスと旅する仲間だと、ディンフルは今の会話で理解した。
ユアたちはソールネムとチェリテットへ、今まで起こったことを話し始めた。
異世界に着いたと同時に魔法が使えなくなったこと、異世界へ飛べる本を待つために弁当屋と図書館で働いていたこと、少しずつだが仲間たちと合流したこと、無事に本が見つかり異世界へ飛べるようになったこと、フィーヴェに着くまでに色んな異世界を転々としたこと、途中 虹印というものを知り、集め始めたこと、ユアが魔封玉でディンフルたちの魔法を封印していたこと……。
ユアたちは話しているうちに、「色々なことがあったな」とこれまでを振り返った。
「そう……。私たちの戦いがユアさんの世界では娯楽になっていて、その登場人物とそれを遊ぶ者という異色のパーティで旅をしていたわけね」
「まさか、ディンフルも一緒なんて……」
「ディンフルのことも聞いてあげて下さい!」
ソールネムとチェリテットが理解したところでユアが懇願した。
元々魔王を倒すために結成されたパーティなので、二人が彼を良く思わないのは手に取るようにわかっていた。
「ディファートだから人間に復讐するためでしょう? 聞く前から想像がつくわ」
ソールネムの冷静な返しにユアはぞっとした。
あまりに淡々と話す様子から、簡単に受け入れられそうにないと感じたのだ。
そして簡潔にまとめられた理由も当たっていたので、言い返せなかった。
「た、確かに、人間への復讐で間違ってはいませんが、ディンフルさんだけ責めるのは違うと思うんです!」
ティミレッジが付け加えた。
魔王に「さん」付けする彼へソールネムは顔をしかめた。
「詳しく聞いてやってくれ! 悪いのはディンフルだけじゃねぇんだ!」
オプダットもディンフルを庇った。
チェリテットは「魔王とも仲良くしたいの?」と呆れると同時に「オープンなら言うと思った」と納得もしていた。
「こいつは誰も殺していない。ちゃんと理由もあるんだ」
さらにフィトラグスも加わり、ソールネムとチェリテットは驚愕した。
「フィットまで?」
「あなたが一番憎んでいたのに……」
「こ、故郷もみんな戻ったから、もういいだろうと思ってな……」
フィトラグスの言葉に女性二人は折れた。
「あなたが言うなら……。だけど、どうしても聞いて欲しいなら私たちじゃなくて、国王様に言う方がいいと思うわ」
「ち、父上にか?」
フィトラグスの父はフィーヴェで最も権力のある王。
彼も被害に遭ったので動機を説明する必要があった。理解してくれるかは別として……。
ソールネムの提案を理解したディンフルが率先して言った。
「わかった。インベクルへ行こう」
「大丈夫なんですか?」
「どちらにせよ、行かねばなるまい。ディファートを救ってもらうには、国王に会う必要があるからな。何より此度のことを謝りたい……」
ティミレッジが彼を気遣うが、ディンフルの言う通りディファートと人間を和解させるには国王の力が必要だった。
彼の謝罪も兼ねて、一行の目的地がフィトラグスの故郷・インベクル王国に決まった。