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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第3章 最後の異世界編
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第60話「動機(前半)」

 周りの余分な草やゴミを取り除き、水を掛けると墓石はすっかりキレイになった。


「終わった……」


 ティミレッジが疲れながら言った。


「なかなかの出来である。感謝するぞ」


 最後にディンフルが、緑界(りょくかい)で入手したものを入れた袋を持って墓石の前に屈んだ。

 袋には数本の花が入っており、出すとすぐ墓に供えた。


「買い物って、このためにしたのか?」


 フィトラグスが驚きながら聞いた。


「他に使い道があるか? 私に花の趣味はない」

「似合わないもんな」


 ディンフルが答えると、フィトラグスがからかった。

 今までと違い、ユアたちは茶化された魔王を怖がらなくなっていた。彼がもう皮肉を受け流すことがわかっていたからだ。


「墓もキレイになった。これで、お前への罰は完了だ」


 ディンフルはユアを見ながら言った。


「本当にいいの……? だって私、みんなの魔法を封じて、戦いの邪魔をしたんだよ?」

魔封玉(まふうぎょく)のことはもう良いと、昨夜申した筈だ。先ほども言ったが、これは大切な者の墓だ。少しの汚れも容赦しないこともな」


 緑界(りょくかい)で最初にユアへ怒号を上げたにもかかわらず、罰が墓掃除。しかも連帯責任として、仲間たちと一緒に(おこな)った。

 怒鳴られた割には罰が甘いと感じたユアは、どうも納得がいかなかった。


「足りぬと感じるなら増やすが?」

「いえいえ! 結構です!!」


 部下を恐怖へ陥れて来たディンフルなので、罰が増えるとシャレにならないものも追加しそうだった。

 彼の提案をユアは即答で断った。


「なら、二度と勝手な真似はするな。魔封玉と言い、生贄と言い……」


 最後に憐れみを含めて言うディンフル。ユアが生贄として命を捧げようとしたことは、彼にとっては辛かったようだ。

 ユアはやっと許してもらえたと感じるのであった。



「ところで……、何か忘れてないか?」


 和んだ空気の中、フィトラグスが尋ねた。

 墓掃除が始まると二人は武器をしまったが、まだ決着が残っていた。


「待て」


 ディンフルはフィトラグスを制すと、左手を上げると天へ向かって紫色の光を出した。

 光は幅広い棒状になり、空へ伸びると上空で弾け、フィーヴェのあちこちへ飛んで行った。


 曇っていた空全体が白く輝き、爆音が響く。

 昼間でもまぶしかったため四人はその瞬間だけ目をつぶり、耳を塞いだ。



「元通りだ」


 音が止み、空も黒っぽい灰色に戻ると、上げていた左手を下げながらディンフルが言った。

 主語が無いのでユアたちは何のことだがわからず、立ち尽くした。


「……もう一度言う。()()()だ」

「な、何が……?」


 反応がない四人へ、ディンフルは肝心なところを強調して再び知らせた。

 それでもわからず、今度はオプダットが聞いた。


「お前たちの故郷だ」

「もしかして、異次元から戻してくれたのか?!」


 再度尋ねると、ディンフルは「ああ」と短く返事をした。

 さらにティミレッジも「本当ですか?」と聞いた。今の話が信じられなかった。


「この状況でウソを言うと思うか?」

「何で急に……?」


 今度はフィトラグスが半信半疑で聞いた。


「お前たちの望みだっただろう?」

「そ、そうだが……」


 故郷を取り戻すために今まで戦って来たフィトラグス一行。

 紆余曲折あったが、その故郷がようやく異次元から戻って来た。


 自分たちの目で見ないことには信じられなかったが、ディンフル自身もこの場でふざける者ではないので、本当に戻ったのだろう。


 だが、苦労した割にはどちらも傷を負うこと無く取り戻せた。

 あまりにあっけなく終わり、フィトラグスは拍子抜けした。


「国も家族も皆、無事だ。これで文句はない筈」

「俺は全然いいぜ~!」


 オプダットが嬉しそうに返事をした。ディンフルを、とっくに許しているようだ。

 それをフィトラグスは「軽すぎないか?」と呆れながら見た。幾多の苦難があったと言うのに。


 結果的にハッピーエンドだが、ユアたちはディンフルの行動が理解出来ないでいた。

 察した彼は独り言をつぶやくように話し始めた。


「不思議なものだ。お前たちも異次元へ送ろうと思っていたが、その気が無くなってしまった」

「もしかして、墓掃除を手伝ったからですか?」

「……認めたくはないがこの短期間、共に過ごしたことで敵とは思えなくなった」


 ティミレッジの質問に返すディンフル。

 その内容にオプダットが目を輝かせた。


「仲間と認めてくれたか?!」

「それはない」


 希望に満ちて聞くオプダットへ、ディンフルは剣でばっさりと斬るような速さで即答した。


「……だが、これで良かった気がする。元々、人間との共存を願っていた私には、彼らの抹消など難しかったのだ」


 フィトラグス、オプダットは驚愕した。

 ディンフルが共存を願っていたことが初耳だったからだ。


 一方でユアとティミレッジは驚かなかった。

 ユアはミラーレで彼におぶわれて店まで戻っていた時に、その話を少しだけ聞いていた。

 ティミレッジも母と城を訪れた際に、「かつて人間との共存を願っていた」と本人から聞いていた。


 四人が驚く中で、ディンフルは石碑を指しながら言った。


「この墓で眠るのは私の恋人で、名を”ウィムーダ”と言う」


 今度は四人そろって驚きで声を上げた。

 特にユアはディンフルに本当に恋人がいたことに衝撃を受けた。

 同時に、彼に恋人がいた話を一度ミラーレでしていたことも思い出していた。


 それに気付かず、彼は語り続けた。


「ウィムーダは私以上に人間を信じ、共存を願っていた。私が同じように思い始めたきっかけは彼女だった」

「何で亡くなったんだ?」


 フィトラグスに聞かれ、ディンフルは俯いて答えた。


「人間に殺された」


 哀愁に満ちた声と答えに四人は固まってしまった。

 彼は顔を上げ、もう一度ユアたちへ向いて話し始めた。


「ディファートが差別を受けているのは知っているだろう? 私も彼女も同様に虐げられて来た。だが、ウィムーダはどんな時でも共存を願っていた。いつかはわかり合えると信じていたのだ」

「何でそこまで……?」


 ユアは信じ続けた人間から殺されたウィムーダに対して、切なくなった。


「かつてウィムーダはある人間に救われ、恩義を感じていた。それから“優しい人間もいる”と信じ始めたのだ。事実、私と彼女は幼少期にそのような者に出会い、良くしてもらったし、二人で住んだ村の村長家族も我々には優しかった」

「ディファートに優しい人間もいたんだね」

「すべての人間がディファートを嫌っているわけではない。そういう者たちがいたからウィムーダも私も、“ディファートが受け入れられる世の中を作れる”と信じて疑わなかった。……だがある時、住んでいた村にモンスターが現れた。見かねたウィムーダが魔法で撃退し、人間たちを守った」

「なら、感謝されたんじゃないか?」


 フィトラグスが期待を込めて聞いた。

 しかしディンフルは眉をひそめ、声を低くして答えた。


「甘いな。“ディファートの株を上げるための自作自演か”と罵倒され、村人から暴行を受けた。感謝は一切無い」

「な、何で? 自作自演って……?」

「普段、モンスターが出くわすことのない村だった。たまたま現れたと言うのに、我らが呼び寄せたと思われたのだ。ウィムーダも召喚する力を持っていないし、魔物を呼ぶ奴でもない」

「まさか、その暴行で……?」


 ティミレッジが戦々恐々としながら聞いた。


「暴行は私がいない時に行われた。“その場にいれば助けられた”と、今も悔やんでいる。だが、死に目には会えた。ひどい目に遭いながらもあいつは、“必ず分かち合えるから負けないで”と、最期まで愚かな人間どもを信じて亡くなった。お人好しだった……」


 ディンフルが悲し気に語り終えると、ユアの目から涙が溢れた。


「ひどいよ……。ウィムーダさんが助けなかったら、みんな死んでたかもしれないのに……」


 ティミレッジがティッシュを差し出すと、ユアは「ありがとう」と涙声で受け取り、思いっきり鼻をかんだ。



「そうそう、ウィムーダはお前によく似ていたな」


 悲し気な顔から一転、ディンフルはユアへ向かって優しく言った。


「私に?!」


 ユアはティッシュに鼻水を含ませながら、鼻声で驚嘆した。


「ど、どこが?」

「……そうだな。まず、頭髪だ。ウィムーダもピンク系統だがもっと赤みの濃い色で、同じくせっ毛だった。あとは……性格だ」


「こっそり魔法を封じてしまうところか?」

「自責の念から何かの生贄になるとことか?」

「隙がありまくって、大事なアイテムを盗まれたり落としたりするとこか?」


 フィトラグス、ティミレッジ、オプダットが順番に聞いた。

 すべて心当たりがある黒歴史なので、ユアは落胆してしまう。


「一斉に心を抉ってやるな……。どんなに辛くてもめげないところだ。ユアも店で失敗をしまくったが、すぐに次へ活かそうと奮起する。それとよく似ている」


 ディンフルにフォローされ、ユアは一瞬で立ち直って顔を輝かせた。


「……あとはドジなところだ。ユアと一緒で包丁で毎回必ず手を切ったり、金額や在庫数を間違えたり、何もないところで転んでケガをする。あいつのために、共に頭を下げることも少なくなかった……」


 他の四人は呆然とした。

 ディンフルの恋人なのでどれほど完璧に近い人物なのか勝手に想像していたが、イメージとは大いに違い過ぎた。


 同時に「何でも出来てほぼ完璧なディンフルなのに、ドジな人と出会いやすいのは偶然か? それとも運命なのか……?」と思うのであった。

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