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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第3章 最後の異世界編
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第54話「生贄」

 日が暮れてきた頃、フィトラグスたちはようやく村に到着した。


「まったく……。誰かさんのせいでずっと同じとこ、グルグルしたじゃねぇか……」

「誰だよ、その誰かさんって?」

「お前だ!!」


 疲れながら文句を垂れるフィトラグスは、オプダットの問いかけに声を荒げた。


「オープンの勘を頼りにした結果がこれだよ……」


 ティミレッジもヘトヘトだった。


「でも、頼って良かったろ? こうして村に着けたんだから。俺の勘って、()()()当たるんだよな~」

「たまに?!」


 村に着いたのは、彼の勘が()()()当たったお陰らしい。


「“たまに”なら言うな! それぐらい当てにならないもんはねぇんだぞ! このバカ!」

「バカって言うな! 俺は頭が悪いだけだ!」

「一緒だろうが!!」


 フィトラグスとオプダットが声を張り合っていると、緑を基調とした髪色や衣装の村人たちがこちらを見ていた。

 視線に気付いたティミレッジが「お騒がせしてすいません」と謝り、騒ぐ二人に注意をした。



 三人を見ていた村の住民・リーフがやって来た。


「すいません。もしかして、異世界からいらっしゃいましたか?」

「お? よくわかったな! 俺たちはフィーヴェ出身で、ミラーレから来たんだぞ!」

「ひょっとして、ユアさんのお知り合いでしょうか?」


 オプダットがドヤ顔で答えるとリーフは異世界の件には触れず、ユアの名前を出した。

 緑界(りょくかい)の自然を思わせる色とは違い、カラフルな色合いの三人をすぐに彼女の仲間だと判断したようだ。


「ユアちゃん、ここにいるんですか?!」

「いるにはいるんですけど……」


 ティミレッジの問いにリーフは言葉を濁した。


「いかにも、俺たちはユアの知り合い……と言うより、仲間だぜ!」

「どこが?」


 オプダットが明るく言うと、フィトラグスが嫌そうな顔をしながら言った。


「何だよ、フィット。まだ許してないのか?」

「許すわけない! 早くリーヴルとクレイスを受け取って、次の世界へ行くぞ!」


 ミラーレの時とまったく同じ毛嫌いっぷりに、ティミレッジとオプダットは言葉が出なかった。


「それで、ユアはどこにいるんだ?」


 オプダットが尋ねると、リーフは俯いた。

 すぐに只事ではないと感じたティミレッジがさらに問う。


「無事なんですよね?」

「今は……」

「“今は”? どういうことだ?」


 ただならぬ気配を察したフィトラグスも気になって尋ねた。


「ユアさん、俺たち夫婦を助けるために生贄になるんです」

「生贄?! 何の?」


 リーフは言葉を詰まらせながらも、緑界(りょくかい)の掟と生贄、そして巨大虫(きょだいむし)について三人に話した。


「それじゃあ……ユア、死んじまうのか?!」

「儀式が上手くいけば……」


 彼の力ない答えに三人はぞっとした。

 ティミレッジとオプダットはもちろん、避けようとしていたフィトラグスも複雑な思いに駆られた。


「何で名乗り出たんだよ? もしかして、俺のせいか……?」

「と、とにかく行こう! 儀式はまだ始まっていないよ!」


 ティミレッジたちは儀式の場へ急いだ。




 三人がいなくなってすぐに、今度はディンフルが姿を現した。

 一軒の家を覗くと、中でミドリが幼い娘のミントを寝かしつけるため、絵本を読み聞かせていた。


 内容は「目を覚まさなくなったお姫様の前に一人の王子様が現れ、彼がキスをするとお姫様は目を覚まし、二人は結ばれ幸せに暮らした」というものだ。


 ミントは理解しているのか、楽しそうに聞いていた。

 こちらへ気付くとますます嬉しそうに笑った。ミドリもディンフルに気付いた。


「あっ! ミントを保護して下さった英雄さん!」

「英雄ではない」


 ユアには「魔王のような格好をした人」と言っていたミドリだが、今は「英雄」と呼びたかった。

 だが、ディンフルはヒーローより悪者扱いの方が慣れているので、讃えられても違和感が拭えなかった。


「改めてミントのこと、ありがとうございました!」

「もう良い。それより、一つ聞きたい。ここに桃色のくせっ毛の少女が来なかったか?」


 ミドリはすぐに察した。


「やっぱり、ユアさんのお連れさんだったのですね……」

「どこにいる?」

「村の奥の“儀式の場”にいます」


「儀式」と聞き、ディンフルは妙な感じがした。

 同時にその場にユアがいることにも胸騒ぎを覚えるのであった。


                 ◇


 村の奥にある「儀式の場」では、大樹の幹の上でユアが細いツタで何重にも縛られていた。これで生贄は身動きが取れず、逃げることが出来ない。

 幹の先は斜め向きで天へ伸びていた。まるで、神様からのお迎えを待つかのように。


 特別に用意された木の階段で緑王(りょくおう)がやって来て、最後の確認をした。


「調べたところ、異世界の者が生贄になるケースがありました。緑界の住人を捧げた時と同じで、巨大虫を封じられたようです」

「だったら、私がなっても大丈夫なんですね?」

「ええ……。異世界の者が身を捧げると緑界では英雄扱いになり、一生その名を刻まれるそうです」

「……最期に人様のお役に立てるようで、良かったです」


 ユアの覚悟の表れを聞き、緑王は「本当にありがとうございます」と小声で礼を言い、深くお辞儀をしてから降りて行った。


 ユアは「これで良かった」と満足していた。


(自分の命で誰かが救われるなら……)


 何度思い返しても、自分の選択に悔いはなかった。


(ごめんね。ティミー、オープン、フィット、……ディンフル)



 儀式が始まった。

 緑界の祈祷師らしき者が数人集まり、呪文を唱え始めた。

 大樹とツタがかすかに光り始め、ユアを魔法で包んだ。

 彼女はだんだん意識が朦朧としてきた。



「やめろー!!」


 日が沈んだ空に男性の声が響く。フィトラグスが叫んでいた。

 傍にはティミレッジ、オプダットも心配そうに大樹の上を見つめていた。


「ユア、あんなところに……」

「お願いです、儀式を中断して下さい! 巨大虫は彼らが倒しますので、ユアちゃんを離して下さい!」


 オプダットはユアの状態に衝撃を受け、ティミレッジは仲間の二人を指しながら中断を促した。

 三人の元に緑王が歩み寄った。


「呪文が始まると中断は出来ません。それに、これはユアさんが決めたことなのです」



 その時、祈祷師たちが詠唱をやめ、悲鳴を上げた。


「緑王様、大変です! 巨大虫が……!」


 大樹の上で全長十メートルはあろう巨大ムカデが姿を現した。


「な、何、あれ……?!」

「巨大のレベルじゃないだろ! モンスターじゃねぇか!」


 ティミレッジは声も体も震え、フィトラグスも我が目を疑った。

 虫嫌いのオプダットは声すら出ず、失神寸前になった。


「ユアは大丈夫か?!」


 フィトラグスが心配すると、他の者も一斉に大樹の上を見た。

 案の定、巨大虫は樹に縛られているユアを狙っており、当の本人は意識を失っていた。


「祈祷師の皆さん、呪文を続けて下さい! 神様へ届けば、巨大虫を倒せるかもしれません!」

「儀式を続けるより、ムカデを倒した方が早い!」


 儀式を続行させたい緑王と、巨大虫を倒したいフィトラグスで意見が分かれた。

 しかし、巨大虫はユアの手が届く範囲まで移動していた。呪文を再開したり、走って大樹を登っても間に合いそうになかった。


「ユアちゃんへバリアを張るよ!」

「もう儀式の魔法が掛かっております。それ以外のものは受け付けません」

「どうすりゃいいんだよ~?!」


 一行が途方に暮れている間に、巨大虫が口を開け始めた。



 巨大虫が何かに弾かれ、ユアから離れた。

 その前に大剣を手にしたディンフルが降り立った。


「ディンフル!」

「ディンフルさん!」


 オプダットとティミレッジが喜びを露わに同時に叫んだ。


「まったく、世話が焼ける……」


 ディンフルはユアへ振り返り、呆れるようにつぶやいた。

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