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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第3章 最後の異世界編
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第52話「保護」

 森の別の場所。

 ユアと緑界(りょくかい)の住民・リーフは、草が生い茂った道をひたすら歩いていた。

 ミルクをあげてだいぶ経つので、お腹が減ったミントは今頃泣いているはず。泣き声が聞こえると思うのでなるべく音に気を付け、耳をすませて歩いた。


 途中、道が二手に分かれていた。


「分かれ道ですが、数メートル行けばまた合流できます。私はこちらを行くので、ユアさんはそちらをお願いできますか? もし巨大虫(きょだいむし)が現れてもすぐ助けに行ける距離なので、その時は大声で知らせて下さい!」

「わかりました!」


 ユアはリーフから説明を受けると、違う道を行き始めた。


                 ◇


 大木の幹で休憩していたディンフルは、下の方から聞こえる音が耳についた。


 地面に降り立つと、自分が休んでいた木に楕円形の穴を見つけた。

 その中で黄緑の産毛が生えた赤子が泣いていた。


「親はいないのか?」


 周囲を見ても、保護者どころか人一人いない。



「見つけた!」


 ディンフルの後ろで別の声がした。


 ピンク色の哺乳瓶を持ったユアが現れた。

 だがディンフルを見ると、立ち止まってしまった。


「何の用だ?」


 ディンフルはユアを睨みつけ、冷たく言い放つ。

 彼女は「そ、その子に用があって……」と、うろたえながら近づいて来た。


「この赤子を知っているのか?」

「ミントちゃんって言って、村の若い夫婦の子供なんだ。いなくなったから探しに来たの」


 ディンフルは「ふーん」とぶっきらぼうに生返事をすると、「飲ませ方はわかっているのか?」と尋ねた。


「知ってるよ。施設で小さい子の面倒、見てたから」


 ユアは「よしよし」と、泣き続けるミントを抱き上げた。

 彼女の返答に疑問を持ったディンフルがさらに聞いた。


「施設? ボランティアとやらか?」

「ううん。私、施設で育ったんだ。先生が忙しいと、下の子の面倒を手伝ってたんだ」


 ユアはそう告白すると、慣れた手つきでミントにミルクを飲ませ始めた。

 ミントは泣き止み、美味しそうにミルクを飲んでいく。


 ディンフルは泣き止んだミントから目を反らすと、ユアに背を向けた。


「あの……。魔封玉(まふうぎょく)のこと、本当にごめ……」

「断じて許さぬ」


 食い気味で即答され、ユアは思わずミルクを持っていた手を緩めた。

 ミントの口から哺乳瓶の乳首が離れてしまい、また泣き出してしまった。


「あっ! ごめんね!」


 再びミルクを飲ませようと哺乳瓶を近づけるが、ミントが暴れ始めた。

 ユアがあやしていると見かねたディンフルがやって来てミントを抱き、こちらへ向かって「貸せ!」と手を差し伸べた。ユアの手にあるミルクを催促していた。


「早く!!」


 ユアは一番育児をしそうにないディンフルが、赤子を抱き始めたことに理解が追い付かなかった。

 それでも、相手が怒っているのでおそるおそるミルクを渡した。


 受け取った彼は赤子を抱き直し、ミルクを飲ませ始めた。

 ミントは再びミルクを夢中で飲み出した。


「世話をしてたならわかるだろうが、ミルクをやる時は集中しろ! 他のことはするな、考えるな!」

「あ、はい……。あの、私、やります……」

「やめさせれば、また泣くぞ」

「でも……」


 引き下がらないユアに、ディンフルが苛ついた。


「しつこい奴め。私に子守が出来ぬと思っているのか?」

「だって、魔王だし……」

「どういう関係がある?」

「それを聞かれると……」


 ユアが答えられずにいると、ディンフルは大きくため息をついた。

 それを見て、彼へますます声を掛けづらくなった。そうでなくても、魔封玉の件で失望させているのだから。



 しばらくすると、ミントはミルクを飲み干した。

 ディンフルは赤子の背中を軽く叩いて、げっぷを出させた。

 手慣れた様子を見たユアは「本当に子守が出来るんだ」と感心した。


「私も下の者の面倒を見て来た。子守が出来ぬことはない」


 「子守()」と言ってるが、ユアは「子守()」の間違いだと思った。

 彼女が知る限り、ディンフルは今のところ出来ないものが見当たらなかった。

「どうして何でも出来るんだ……?」と釈然としない。


 しかし「下の子の面倒を見て来た」と聞いた時、彼の面倒見の良さがようやく納得出来たのであった。



「村はこの近くのところか?」

「は、はい」


 ユアが返事をするとディンフルは、お腹がいっぱいになって眠るミントをマントで包み、宙に浮いた。


「待って!」


 ユアが呼び止めると同時に、草むらからリーフがやって来た。

 彼は、娘を抱いた宙にいる魔王へ向かって剣を突き付けた。


「娘をどうするつもりだ?!」


 ディンフルの出で立ちからして、誘拐すると勘違いしているのだ。

 慌ててユアが早口で、「ミントちゃんにミルクを飲ませた上にげっぷまでさせてくれた優しい魔王様です!」と説明すると、リーフはすぐに剣をしまった。


「娘が世話になったとは知らず、申し訳ございません!」

「構わぬが、“優しい魔王”は腑に落ちぬ……。この子は村へ帰す。お前たちが徒歩で行くより、私が飛んで連れて行った方が早い」


 リーフとユアは「やっぱり優しい」と声に出すと、相手は「別世界の人間を襲う理由がないからだ」と、いつも通り不服そうに言った。


 しかし飛んで行く前に、ユアへ振り向いた。


「先ほども言ったが、お前を許すつもりはない」

「……はい」

「お前は重大な迷惑を掛けた。我々の制作者にもだ。特に台本を書いた者は、自分が考えた世界観をぶち壊しにされた。お前はあらゆる厄介事を振りまいている。もう顔も見たくない!」


 ユアはゲームの登場人物だけでなく、作品を作ったスタッフのことまで考えたことが無かった。

 自分がゲームの世界に入り込んで戦えなくすると主人公とラスボスの決着がいつまでもつかず、物語が進まないことを今初めて思い知った。

 ディンフルの言葉でユアは自分の行いを激しく後悔した。


 言い放った彼はミントを抱いて、村へ飛んで行ってしまった。


 俯くユアを見てリーフは事情はわからず掛ける言葉が見つからないので「とりあえず、帰りましょうか」と村へ戻るよう促した。


                 ◇


 歩いて村へ帰ると、ミントを抱いたミドリが出迎えてくれた。

 そして「魔王みたいな格好をした方が保護してくれたのよ」と嬉しそうに知らせた。

 腕の中のミントも母親の元へ帰れて幸せそうだった。リーフは嬉し泣きをしながら、二人を抱きしめた。


 だが、ユアは心から喜べなかった。

 今は仲間たちがいない上に、一番大好きな人から「顔も見たくない」と言われてしまい、すっかり元気を無くしていた。

 自分が悪かったとは言え、受け入れるには辛すぎた。


 しかし、家族がそろったリーフたちも心から喜んでいるようには見えなかった。

 リーフは嬉し泣きをしているが、悲しみにも似た涙を流しているように思えた。



 そんな三人の元に、緑界(りょくかい)の王・緑王(りょくおう)がやって来た。


「ミントちゃん、無事でよかったですね」


 彼女が来るとミントはきゃっきゃっと笑い出すが、リーフとミドリは何故か浮かない顔になった。

 元気が無くてもユアは、彼らと緑王の反応が気になった。


「あの……、皆さん、何かあったんですか?」


 緑王、リーフ、ミドリがユアへ向き、重い口を開いて緑界の掟について話し始めた。

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