表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第3章 最後の異世界編
50/120

第48話「白魔導士と魔王」

 フィーヴェの古城。

 瀕死の母と二人で逃げている途中、倒れて来た巨大な柱はディンフルによって斬られた。

 押しつぶされずに済んだが敵の親玉に追いつかれ、ティミレッジは顔が真っ青になった。担いでいる母も、いつの間にか気を失っていた。



 ところが、静かに歩み寄って来た彼から意外な言葉が出た。


「何故、魔法を使った?」

「えっ?」

「母から言われていたのだろう? “逃げる時のために取っておけ”と。何故、バリアを使った? その程度、私は瞬殺できると言うのに」


 倒すべき魔王から最後の魔力の使い道について指摘され、ティミレッジは頭をひねった。「どういうつもりで聞いているのだろう?」と。

 刺激しないように、なるべく言葉を選んで答えた。


「ぼ、僕にもわからない。あなたが母に近付いた瞬間、体が反射的に動いたんだ。それだけだよ……」

「反射的か。そちらは、魔力も教養も優秀な白魔導士と聞いている。直情的に動く戦士とは違って、判断力はあると思ったが?」

「……やっぱり、母親を失いたくないからかな。誰だって親が死にそうになると、辛いからさ……」

「そういうものなのか? “親がいる”と言うのは?」


 彼のさらなる問いを聞いた瞬間、ティミレッジは魔王には親がいないことを理解した。


 相手はディファート。フィーヴェでは彼らは老若男女問わず嫌われており、虐げられて来た。

 中には家族といることを許されない者たちもおり、幼い子が親と離ればなれになるケースも少なくなかった。

 フィーヴェを制圧しようとしているディンフルにも、そういう過去があったことを想像したティミレッジは切なくなった。


 曇った表情を浮かべる彼の前にディンフルは屈み、静かに聞いた。


「お前はディファートをどう思っている?」


 長い間フィーヴェではディファートに関する教育はまったく行われておらず、昔から「厄介者」「一緒にいるだけで良くないことが起きる」と悪いことばかり伝えられて来た。

 資料が無いために、博識のティミレッジでさえもディファートに関しては無知だった。

 だから、先ほどの魔法の使い道と言い、答え方に迷ってしまった。


「すいません。ディファートのことはあまり知らされてなくて……」

「今、知識は必要ない。お前の考えを聞かせて欲しい」


「僕の考え……?」とティミレッジが目を丸くしていると、ディンフルは付け足した。


「私に向かって来る人間は皆、好戦的だった。お前のように気弱なタイプは初めてだ。内向的な者はディファートをどう思っているか、お聞かせ願いたい」


 少し考えてから、ティミレッジは答えた。


「ディファートは“一緒にいない方がいい”って教えられて来たけど、それって人間のエゴだと思う。“一緒にいるといじめられる”って意味なんだよね? そもそも、どうして彼らがいじめられてるのか、わかりません。ディファートがいじめられてなければ、一緒にいてもいいと思います。だって、彼らの中には人間との共存を願っている方もいると思うし」

「もしも、ディファートが村民として来たら、お前は仲良くしてやれるか?」

「……みんなが仲良くするなら」


 考えたこともなかった問いに、ティミレッジは少し思案してから答えた。

 ディンフルはさらに聞いた。


「そうでなければ、虐げるのか?」

「い、いえ……! 僕、こんな性格だから、ひどい目には遭いたくない。恥ずかしい話だけど……」

「ひどい目に遭いたがる者などいない」

「確かに……。でも、目の前で誰かが辛い思いをしているのに、見ているだけなのもイヤだよ」


 ディンフルはまっすぐティミレッジの目を見て、話を聞き続けた。


「その人がみんなからいじめられてても、助けられる自信は正直、ない……。でも、陰でなら力になりたい。僕、前からディファートに会ってみたかったし、話もしてみたいんだ。もし願いが叶うなら、彼らと共存できるフィーヴェになって欲しい」


 ディンフルは今度はため息をついてから言った。


「なら、庇っていることを感づかれたらどうする? 人間は一度ターゲットを決めると、隅々まで探り通す。お前が関わっているのがバレる危険がある。頭がいいならディファートを庇えばどうなるかはわかる筈だ。まぁ、いい。そういう考えの人間もいるのだな」

「は、はぁ……。でも、何でそんなことを聞くの?」


 今度はティミレッジが聞くと、魔王から予想だにしない言葉が飛びこんだ。



「本当は、こんなことはしたくない」



 ティミレッジは耳を疑った。

 驚く相手を差し置いて、ディンフルは話し続けた。


「かつては人間との共存を願っていた。だが、ディファートを守るには人間にはいなくなってもらわねばならぬ」

「き、気持ちはわかるけど、人間がいなくなると僕たちが困るんだよ……」

「先ほど、“ディファートを受け入れてもいい”と言っただろう?」

「言ったけど、人間がいなくなることとは別だよ。あなたは同族のディファートにいなくなられたら困るんだよね? それと一緒で、僕も同族にはいなくなって欲しくない。本当は人間とディファート、どちらにも幸せになる世の中になって欲しんだ」

「理想論だな」

「教えて。何でフィーヴェを制圧しようとしているの? やっぱり人間への報復? でも、こんなことしたくないんだよね? それも何で? あ、あと、大昔、ディファートは何をして嫌われるようになったの?」

「一度に聞かれてもだな……」


 未知の種族・ディファートについて聞けるチャンスを逃さないよう、ティミレッジは思わず質問攻めした。

 圧倒された魔王は少し引いてしまう。



 その時、王の間の方から再び数人の足音が近づいて来た。先ほどの兵士たちが心配して来たのだろう。

 気付いたディンフルが舌打ちをする。


「お節介め。私を誰だと思っている……?」


 彼は突然、回復魔法を使った。

 アビクリスの傷が全快し、ティミレッジの疲労も治った。


「え?! な、何で?」


 疑問には答えず、次にディンフルは回復した二人に別の魔法を掛けた。

 ティミレッジは反射的に目をつぶった。


                 ◇


 閉ざした目を開けると、正面に幼い頃から見慣れた景色が広がっていた。


「ティミレッジ?!」


 同じく見慣れた顔が複数、二人に向かって集まって来た。


 ここは魔導士を育てるビラーレル村でティミレッジの故郷である。ディンフルは空間移動の魔法を掛け、彼らを故郷へ帰したのだ。

 村人たちは二人の無事を喜んだ。

 

 ティミレッジも母と生きて帰れたことを喜ぶが、心の底では腑に落ちなかった。



 しばらく、疑問が晴れないまま過ごした。


 母・アビクリスは黒魔導士と武闘家を両立している数少ない女性。どちらの腕も強く、ビラーレルでは「最強の魔導士」と重宝されている。

 そんな彼女を大剣の一振りのみで敗北まで追いやったディンフル。

 彼が戦闘に長けたディファートなことは把握していたが、目の前で繰り広げられた戦いで改めてその強さを思い知った。


 しかし、フィーヴェの支配を企む魔王に不可解な点を見つけた。


 一つは、王の間に兵士が来た時のこと。

 部下が心配しているにもかかわらず、戦いをそっちのけにして彼らの説教へ向かった。

 ティミレッジたちが不利なのをわかって余裕だったのかわざわざ敵に背を向けて、しかもそこまで怒るほどではない内容で部下たちを圧倒しに行く行為が理解出来なかった。

 本来なら、相手が弱くても戦う方を優先するはず。


 二つ目は、逃げていた時のこと。

 倒れて来る柱をディンフルが斬ったことで、九死に一生を得た。

 敵ならば見殺しにするはずなのに、ティミレッジはどう考えても自分たちは助けられたと思っていた。

 王の間での攻撃以外、ディンフルは傷つける行為は行っていない。

 倒れる柱から救われた後も、部下たちが来たとわかるとティミレッジ達を一旦回復し、ビラーレル村まで送ってくれた。


(何で村に帰したんだろう? トドメを刺すなんて、彼にとっては簡単なのに……)


 何よりディンフルは「こんなことはしたくない」と語っていた。


 このことからティミレッジは、魔王は元々は優しい人でフィーヴェを制圧しようとしているのはよほどの理由があるからではないかと考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ