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ラスボスと空想好きのユア  作者: レセラン
第1章 ミラーレ編

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第5話「本と鍵」

 休む間もなく昼がやって来た。

 休日と言うこともあり、弁当屋はすでに客でごった返していた。


 客同士の話し声がする中、とびらから説明を受けながら、初めてレジ打ちをするユア。

 不慣れな手つきのせいで、レジには行列が出来ていた。

 それをわかっていたお客さんは、商品の入ったカゴを穏やかにカウンターに置き、彼女を見守っていた。


 お腹いっぱいになったユアは人助けと思い、出来る限りの調理と初めての接客を必死に頑張った。

 ディンフルも内心は人間に手は貸したくなかったが、とびらとキイから感じる魔法について知るために交換条件で店を手伝った。

 そして、やはり「魔法について聞いたら早く去ろう」と心の底から思っていた。



「一〇〇万?! 弁当一つにそんな大金、払えないぞ!」


 最初は順調だったが、途中打ち間違えてしまい、中年の男性客からクレームが飛んで来た。

「ごめんなさ~い!」と謝り、打ち直そうとするユアをとびらが助けようとした。すると……。


「ストップ! キイ君かまりねさんを呼んでくれ! とびらちゃんもよく失敗するだろ?」


 その男性は常連客で、とびらがドジをやらかすことを知っていたため、他の人を指名した。

 長年、看板娘としてやって来た彼女のプライドは打ち砕かれ、ショックを受けた。


(そんな風に思われてたんだ……)


 そこへディンフルが割って入り、正しい金額を出した。

 彼もレジ打ちは初めてだったが、一度触っただけですぐに覚えてしまった。


「負けた……」ユアととびらは二人して肩を落とし、しばらく顔を上げられなかった。


◇


 昼過ぎ。

 ようやく客足が落ち着いたところで休息に入った。

 まだ少ししか働いていないが、ディンフルはすでに一目置かれていた。


「レジも出来るんだって?」


「そうなんだよ! ゲームのキャラだって言うから出来ないと思ってたけど、すごいレジさばきだったよ!」


 キイが尋ねると、代わりにとびらが答えた。


「色々と器用だけど、働いた経験があるの?」


「人間どもに媚びていた頃、様々な術を身に着けた。今思えば、馬鹿なことをした……」


 まりねの質問に、彼は重々しく答えた。

 讃えられても嬉しくなさそうだった。


「何言ってるの! その経験がここで活きてるじゃない! おかげで助かったわ」


 感謝されると、ディンフルはそっぽを向いた。

 その方向にはユアがおり、目が合うと彼女を睨みつけた。


「それに比べて……!」


 ユアの肩がびくりと震えた。

 彼女は働くこと自体が初めてなので手早く仕事を回せず、レジ打ちもおそるおそるだった。

 初日なので仕方が無かったが、推しから睨まれて気落ちしてしまった。


 うなだれるユアを見て、病院から戻って来ていたこうやがフォローした。


「ユアちゃんも頑張ったよ。お母さんに雷を落とされながらも、この時間までついて来れたじゃないか」


「そうそう、本当によくやってくれたわ。お礼はたくさん弾まなきゃね!」


 仕事中に怖かったまりねも優しく励ました。ここで言うお礼とは、初めての給料。

 ユアは「働くのって、こんなに大変なんだ……」と労働の苦労を思い知るのであった。


「一息ついたところで、例の話を聞かせていただくぞ」


 ここでディンフルが魔法の話へ切り替えた。


「そうだった! お母さん、ちょっとだけ抜けていい?」


「いいけど、お父さんがしばらく動けないから、早めに戻って来てね」


 まりねから許可をもらい、ユア、ディンフル、とびら、キイの四人は再び二階へ上がった。


◇


 とびらの部屋に再び入ると、彼女は首から下げていた鍵型のクリスタルがついたペンダントを見せた。

 空気が、わずかに張り詰めた。


「キレイ。でも、何で鍵型なの?」


「……これだ。この飾りから魔力を感じる。今すぐよこせ!」


 ペンダントに込められているであろう魔力に魅了されたのか、ディンフルは突然乱暴な物言いになった。


「よこすって……、それは無理だよ」


 とびらが驚いて拒否すると、ディンフルはさらに問い詰めた。


「何故だ? 私は嫌々、お前たちに付き合ったのだぞ。礼として当然だろう?」


「悪いけど、本当にあげられないよ。だってこれ、単体では使えないからさ」


「その鍵と、俺の図書館にある本がないと効果が出ないんだ」


 とびらとキイはそろって反対するが、ディンフルにあげたくないわけでは無さそうだった。


「何故、鍵と本の組み合わせなのだ?」


「その本には鍵穴があって、この鍵で開けると異世界への扉が開くんだ」


 ユアが「何、そのファンタジー?!」と興奮した。空想が大好きなので、こういう話は大好物だったからだ。

 ディンフルは冷静に質問を続けた。


「異世界への扉ということは、それを開くと他の世界へ行けるということか?」


「ああ。でもランダムだから、どの世界へ飛ぶかはわからないぞ。……よっぽど、異世界に興味がないなら、関わらない方がいい」


 キイは苦虫を噛み潰した顔をしながら、警告した。

 まるで経験したような言い方だったので、気になったユアが「行ったことあるの?」と聞いてみると……。


「あるよー!」

「ある……」


 とびらは明るく、キイは嫌そうに同時に返事をした。感じ方はそれぞれ違うようだ。


(この力……逃すわけにはいかぬ)


 鍵から感じる強い魔力を、ディンフルが気にしないはずがなかった。


「実は、この世界に来てから魔法が使えなくなった。別の世界へ行けば、また使えるかもしれぬ。そちらを使わせていただきたい」


 ディンフルは先ほどの乱暴な頼み方から一変し、今度は少しだけへりくだった。

 その姿勢を受けて、とびらとキイは鍵と本を使わせることにした。

 店を手伝ってくれたお礼もしたかったのだ。しかし……。


「魔法に関しては保証出来ないぞ。この本は異世界へ行く力しかない。何より、ディンフルさんの魔法が使えなくなった直接的な原因もわからないしな……」


 とびらとキイは普通の人間。

 魔法は使えないので、異世界へ行くことで彼に魔法が戻るかはわからなかった。


 ディンフルが魔法についての保証と行き先がランダムなことを承諾すると、キイはすぐに自分の図書館へ本を取りに帰った。


 その間、ユアたちはまた弁当屋を手伝うことになった。

 昼のピークは過ぎたが、冬休みなので客足は途絶えなかった。


 回数を重ねるごとに、ユアは一つずつ出来ることが増えて行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすがディンフルさま。流れるようなレジさばきはまるでピアノでも弾いているかのようだったでしょう(いや、そこまでは・自己ツッコミ 地域で人気の名物お弁当屋になりそうですね♪
[良い点] ディンフル、スペック高! 瞬時にレジ打ちをマスターするとは! 只の魔王じゃないですね。 さて、ここから魔法が使えるようになるのか。 原因が他にあるのか、気になりますね!
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