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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第2章 異世界編
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第25話「姫救出会議」

 ディンフルに腹を立てたフィトラグスは、空になったコップを投げ付けるが回避される。

 彼が去った後も、怒りは収まらなかった。


「いくら何でもコップを投げることはないだろ? 一国の王子様なんだから」

「そ、そうだよ。ここがフィーヴェじゃなくても、菓子界の人の目はあるんだし……」

「剣を抜かなかっただけマシだろ?!」


 オプダットとティミレッジがたしなめるが、フィトラグスは逆ギレした。


「ここが町じゃなかったら、間違いなく斬り捨ててた! あの野郎、ますます許さねぇ!」


 フィトラグスの怒りの炎は収まりそうになかったので、ユアたちはしばらくそっとしておくことにした。

 見ていたスナックも何事も無かったように接したが、内心は焦っていた。


 スナックに案内される時、ユアは「弁当屋の店先で剣抜いてたじゃん……」と思ったが、声には出さないでおこうと決めた。


                 ◇


 ディンフル以外が姫を助けに行くことになり、菓子界の勇者らが集う会議所の外で待たされた。


 フィトラグスは少しずつ落ち着きを取り戻していたが、三人はまだ話しかける気になれなかった。

 やがて、彼の方から「会議を覗いて来る」と言って、その場を去って行った。



 フィトラグスがいなくなると、三人は安堵のため息をもらした。彼が立腹している間、緊張しっぱなしだったからだ。

 一息つくと、ティミレッジとオプダットがユアへ謝った。


「ごめんね、ユアちゃん」

「ビックリしただろ? あいつ、すぐ()()()()()()奴でさ」

「逆ね……。“頭に血が上る”だよ」


 ティミレッジに訂正されたオプダットは「いつも悪いな!」と、笑ってごまかした。

 その笑いが三人の心を少しだけ和ませた。


「でも、許してやってくれ。根は悪い奴じゃないんだ」

「わかってるよ。ゲームの主人公だもん。悪い人じゃ務まらないよ」


 オプダットと一緒に、ユアもフィトラグスをフォローした。

 ゲーム発売前にネットやゲーム雑誌で仕入れた情報を暗記するぐらい読み漁ったので、彼の性格も把握済みだった。

 しかしミラーレでディンフルと同様に嫌われたり、チョコ嫌いなのは予想外だった。

 情報にキャラの苦手な食べ物までは載っていなかったのだ。


「でも、人にコップを投げるのは王子様の振る舞いじゃないよ。よっぽど、ディンフルさんが嫌いなんだね……」

「故郷と家族を奪われてるからね。だけど、ティミーやオープンだって同じ立場じゃない?」

「俺らは大丈夫だ! 何せ、心が()()からな!」

「また違う!!」


 オプダットの致命的な間違いに、二人が同時につっこんだ。


 そこへ、フィトラグス本人が戻って来た。

 スナックが呼んでいるらしく、四人は会議所の中へ入って行った。


                 ◇


 会議所にはスナック以外に数名の人物がいた。

 その者たちは一〇〇センチも満たないほど小柄な体で、それぞれフルーツの形をした帽子をかぶっていた。

 メンバーはメロン、バナナ、パイン、リンゴ、キウイ、みかん、いちご、ぶどう、さくらんぼの九名だった。


「こちらは、菓子界王家直属の姫の親衛隊・キャンディアンです」


 スナックが紹介をすると、メロンの帽子をかぶったキャンディアンが挨拶をした。


「初めまして。キャンディアンのリーダー・メロンです。以後、お見知りおきを」


 メロンが丁寧にお辞儀をすると、ユアたち四人も同じようにお辞儀を返した。

 この時、ユアは「イマスト(ファイブ)のキャラが独特な名前だから、久しぶりにシンプルな名前に会った」と思っていた。


 スナックはキャンディアンたちに、ユアたちも姫を助けに行くと報告した。


「あいにく、俺と同じ長身の勇者は他へ行ってて、今は自分しかいないんですよ。キャンディアンたちは最終兵器として、菓子王様に呼んでいただきました」

「このメンバーか。でも、こちらの桃色の髪の子も一緒で大丈夫ですか? 彼女、戦えないんです」

「無理だろ、置いて行こう。他の勇者が敵わなかった敵だ。連れて行くと、足手まといになる」


 ティミレッジがユアの心配をすると、フィトラグスが即答した。


 ユアも行けるとは思っていなかった。

 いくらお菓子の世界と言っても魔物の怖さはどの世界も共通であり、フィトラグスの言うとおり足手まといになる危険もあった。

 彼らに迷惑を掛けたくないのと、フィトラグスをこれ以上不快にさせたくない思いで行かないことにした。


 ところが、スナックから意外な言葉が出た。


「人手は多い方が良いですね。キャンディーナ様を保護した時は恐らく不安になっていると思うので、話をして安心させてあげて欲しいです。出来れば女性の方が良いです。それに、これから行く“菓子ノ山”には安全な場所がいくつかありますし、キャンディーナ様と避難する時は傍についていて欲しいです」

「本当にいいんですか? 魔物は相当お強いのでしょう?」

「キャンディアンは菓子界で最強の者で結成されております。だから、皆さんの出番はあるかはわからないです。もしもの時は、力を合わせて助け合いましょう」


 不安が拭えないティミレッジの肩に、オプダットが手を乗せた。


「親衛隊と勇者がいるなら大丈夫だろ! そんなに不安ならバトルは俺らに任せて、ティミーがユアたちを守ればいいさ!」

「でも僕、今は魔法を使えないんだよ」

「使えなくても、安全な場所に連れて行くことは出来るだろ?」


 オプダットの提案にティミレッジはやっと納得した。だが今度は「ちゃんと守れるか」と新しい不安が生まれた。

 彼の提案にフィトラグスも賛成した。


「じゃあ、ユアも連れて行く。ただ、俺たちもどこまで守れるからわからないから、自分でもどう逃げるか判断してくれ。姫の護衛も任せたぞ」

「わ、わかった!」


 急遽行けるようになり、ユアは緊張し始めた。

 ましてや、自分が好きなゲームのキャラクターから直に守ってもらえるのだ。嬉しい反面、ミラーレで働いている時みたいに「迷惑を掛けないように」とユアは奮起した。

 同時に「守ってもらえるなら、ディンフルにも来て欲しかったな」と、胸の内で欲張るのであった。

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