第108話「最終戦」
ユアはなるべく遠くへ逃げ、男性陣がその場から散らばった。
超龍の前に立ちはだかったのは、ソールネムとチェリテット。
「さあ、来なさい!」
チェリテットが挑発すると、超龍は口から光線を吐いた。
急いでソールネムが魔法の球体で二人を包み、空へ逃げた。
「あの光線、最初より強そうだよ……」と、怖じ気づくチェリテット。
「白魔法ではバリアを粉砕されるどころか、中の人も大ダメージね」
彼女たちを包んだ球体が超龍の目の前まで飛んできた。
超龍の気は二人だけに注がれていた。
「よし、行くぞ!」
フィトラグスが合図を出すと、散っていた四人はそれぞれの場所から動き始めた。
まずはティミレッジが魔法を掛ける。
ディンフル、フィトラグス、オプダットの体が白い光に包まれた。
次に赤い光、その次に青い光も彼らを包みこんだ。
「バリアと、攻撃力と防御力を上げる白魔法だよ!」
「一気に掛けるなんて、大盤振る舞いだな!」
自信満々に言うティミレッジへフィトラグスが愛想よく言った。
これだけの白魔法と仲間がそろっていれば、今度こそ超龍を倒せると思ったのだ。
「よし! みんな、相手は超龍だ! あまぐもに戦っちゃダメだからな!」
「“やみくも”!!」
ディンフル、フィトラグス、ティミレッジが声をそろえてオプダットへつっこんだ。
同時に懐かしく感じた。今の言い間違いは、初めて四人が対峙した時に聞いたものだからだ。
今、ディンフルは敵対していた三人と共に、大きな敵を倒そうとしていた。
同じくフィトラグスらも、ラスボスと共通の敵と戦うことを不思議がっていた。
「まさか、あんたと共闘することになろうとはな」
「こちらの台詞だ。だが、あの攻略本とやらによると、我らは共に超龍と戦う運命にあったようだ」
「運命ねぇ……」
ディンフルから教えてもらうと、フィトラグスは独り言のようにつぶやいた。
当初の彼なら間違いなく嫌な顔をしただろう。今は不快でないのか、微かな笑みを見せていた。
「オープン! 超龍は進化して皮膚の上の鱗が固くなっている! 拳で首元の色が違うところを砕くんだ!」
ティミレッジは大声で指示を出した。
手には、ユアから借りたイマストVの攻略本が握られていた。
「首の色が違うとこ?」
「この本の絵によると一目でわかるから、そこを狙えば良い! 何故か、そこだけ強化されていないんだ!」
「わかった! ……でも、高くね?」
オプダットが駆け出そうとするが、問題の場所までかなりの高さがあった。
「つかまれ!」
ディンフルがマントの飛行能力で飛び、オプダットの両腕をつかむと一気に上空まで飛び立った。
「ギャア! 高い~! 降ろせ~!」
経験したことのない高さに、バンザイのポーズのままオプダットは慄き、悲鳴を上げた。
「下を見るな! ここで降ろせば真っ逆さまだぞ!」
「それもイヤだ! ディンフル、代わりに首元砕いてくれ! お前の方が力が強いだろ?!」
「珍しく弱気だな……。私は後にトドメを刺すゆえ、力を蓄えなければならぬ。ここはお前に任せたい。ティミレッジからも指示があっただろう?」
諭され、オプダットは反論出来なかった。
トドメのことを考えたら「自分がやるしかない」と己を奮い立たせるのであった。
「いいか? 該当する箇所に来たら、思い切りお前を投げる。そこで必殺技を決めてくれ」
「わ、わかった!」
「チャンスは一度きりだ。失敗は許されぬ」
「わかったって! 今からクラッシャー掛けないでくれ!」
「“プレッシャー”だ!!」
ここでも言い間違えるオプダットに、ディンフルは怒りを交えてつっこんだ。
ある程度まで飛ぶとディンフルは先ほどの発言通り、オプダットを投げ出した。
「えぇぇえ?! もう?!」
「前を見ろ!!」
ディンフルが指した先には、光り輝く巨大な黄金の鱗が視界いっぱいに広がっていた。
超龍の巨大な首だ。見渡す限り、鱗で覆われていた。
黄金の中に銀色の部分があった。一部分だけ違う色の鱗が何枚も集中している。そこがティミレッジの言っていた弱点だ。
「あそこだな! よーし……」
オプダットは宙を舞いながら、銀色の部分へ向かって拳を振るった。
「リアン・エスペランサ!!」
力強い一撃と共に繰り出される衝撃波を受け、銀色の鱗は簡単に砕け散り、超龍の皮膚が丸見えになった。痛みを感じた超龍は悲鳴を上げた。
「やったぜ! ……ん?」
オプダットの体はそのまま落下し始めた。
「うわぁぁーーー!」
急降下に怯えて叫ぶと、彼の体が魔法の球体に包まれた。ディンフルが出してくれたのだ。
オプダットを包んだ球体はゆっくりと下降していった。
「サンキュー……」
「礼を言うのはこちらの方だ」
ディンフルは感謝の意を伝えると、静かにフィトラグスの横に降り立った。
「さて、やるか」
「ああ。決して、しくじるで無いぞ」
「そっちもな」
ディンフルが魔法を掛けると、二人は球体に包まれた。
オプダットを包んだものとは違い、高速で超龍の首元へ飛んで行った。
「お、おい?! こんなに速いなんて聞いてないぞ!」
「ゆっくりでは勘付かれ、やられてしまう!」
フィトラグスは文句を言いながらも球体の速さに耐え続けた。
あっという間に首元まで到達した。
超龍は痛さのあまり長い首を激しく揺り動かしていた。
「まずいな。そうでなくとも核の部分は狭いと言うのに。これでは攻撃が当たるかどうか……」
「見ろ!」
フィトラグスが下の海を指差すと、海面に激しい波が出来ていた。
超龍が暴れるために発生したものだ。
「いかん! 暴れた反動で、他の部位が出るかもしれぬ!」
「何っ?!」
「一気に片を付けるぞ!」
その時、暴れる超龍の腕が球体にぶつかった。
一撃で球体は消え、飛べないフィトラグスが落ちそうになったが、すぐにディンフルが引っ張り上げた。
「助かった……」
「このまま行くぞ!」
しかし、弱点を暴かれた超龍が近づくことをそう許してもくれず、魔法で出来た球体をひたすらフィトラグスとディンフルへ投げ続けた。
「これでは近づけぬ……!」
飛べるディンフルはフィトラグスをつかみながら避け続けるが片手が塞がっているため、攻撃も自由に出来なかった。
「ちょっと失礼!」
フィトラグスはそう言うと、自らディンフルの腕をつかみ返すと彼の体をよじ登り、背中に乗った。
ディンフルがフィトラグスを背負う形になった。
「お、おい?!」
「俺だって好きでやってない! この方があんたも両腕が動かせるだろう? 俺のことなら心配するな。ちゃんとつかまっとくから!」
「あ、ありがたいが、髪が引っ張られて痛む……。無茶な動きはしないで頂こう」
「だったら無駄に伸ばすなよ!」
「無駄とは何だ?! そちらも髪が長いだろう!」
「オシャレしちゃダメって言うのか?!」
「そのようなことは言っていない!」
空中で言い争い始める二人へ、地上からソールネムとティミレッジがたしなめた。
「今はケンカしてる場合じゃないでしょう!!」
「せっかく弱点が見えたんだから、チャンスを無駄にしないで!!」
「すまん……」
「すまぬ……」同時に謝るフィトラグスとディンフル。
確かに言い合っている状況ではない。
我に返るとディンフルはフィトラグスをおぶったまま、核のある場所へ飛び始めた。
超龍が核へ近づけまいと、魔法の球や光線をこれでもかと撃って来る。
地上から、魔法を使えるソールネムとティミレッジが黒魔法と白魔法で相殺し、二人を防御した。
「彼らの叱咤と努力を無駄にせぬ為にも、一発で決めるぞ!」
「言われなくてもそのつもりだ!」
数々の攻撃から逃れ、二人はようやく核の元へたどり着いた。
ディンフルが魔法で大剣を出すとフィトラグスも自身の剣を出し、ディンフルの背中から飛び立った。
そのタイミングで二人同時に剣を振った。
「ルークス・シャッテン・ブレイキング!!」
初めて発動する超必殺技。
フィトラグスの剣から光、ディンフルの大剣から闇の力が現れ、二つの力が何度もクロスしながら超龍の核に直撃した。
超龍は今までで一番大きな雄叫びを上げ、激しく苦しみ始めた。
落ちそうになったフィトラグスをディンフルが再び空中で引っ張り上げ、皆の元へ戻って行った。
一行より離れた場所でユアが祈るように、胸の前で手を組んで見ていた。
「これで、フィーヴェが救われるの?」
海面から出ている超龍の腕は先端からボロボロに崩れ始めた。
「超龍が、消えていく……?」
「僕たちの戦いはこれで終わるんだ」
オプダットとティミレッジが信じられない様子で、目の前の光景を見ていた。
超龍が砕けていくと同時に黒い雲が少しずつ晴れ、青い空と太陽が顔を覗かせて来た。
「陽の光だ!」
「懐かしいわね」
久方ぶりの太陽の光に喜ぶチェリテットと、静かに感動するソールネム。
「全部終わったんだな」
「いや、まだディファートの問題が残っている。これでゆっくりと話し合えるな」
終わりを確信するフィトラグスと、次の課題を告げるディンフル。
超龍がいなくなれば、本来取り組むべきことにやっと精を出せるのだ。
この様子を遠くで見ていたユアが喜ばないはずが無かった。
「やったね、みんな!!」
六人は、はるか後方にいるユアへ振り向き、微笑んだ。
その時、超龍が海面の下にある首を伸ばしてディンフルたちの上空を通り過ぎた。
一行が気付いた時には遅く、ユアは超龍の口の中に飲み込まれてしまった。
言葉を失う六人。
直後、ディンフルの悲鳴がその場に響き渡った。