第11話「気さくな武闘家」
異世界へ飛べる本が捨てられたかもしれない。
早速、ワード、キイ、ディンフル、ティミレッジの四人で、ワードが運転する車に揺られながら処理場へ出発した。
フィーヴェには車がないので、ディンフルとティミレッジは初めて乗る鉄の塊に期待半分、不安半分だった。
「ディンフル君と新しい人が来てくれて助かったよ! 僕ら二人だけじゃ大変だったからさ」
後部座席に座っていたティミレッジは、ディンフルが「君」付けされるのを聞いて吹き出しそうになった。フィーヴェではそう呼ぶ人はいなかったのだ。
「それよりディンフル君。ユアちゃんとはくっつかないのかい?」
「い、いきなり何だ?」
同じく後部座席で足を組んで座っていたディンフルがワードの質問に焦った。
「だって君たち、仲がいいだろう?」
「どこが?! あいつが勝手に騒ぐのだ! 一目惚れしたらしいが、こちらとしては迷惑である!」
「じゃあ、母さんも……?」と、キイは恋愛体質の母も迷惑を掛けているのではと不安になった。
ティミレッジは、手当てだったり辞職などでゆっくり話が出来ていなかったので、ユアの一目惚れの件を初めて知った。
「一目惚れなんですか?」
「私が悪事を働くキャラだと知りながらだ。変わった娘だ。普通はフィトラグスやお前など、正義の味方側になびくのではないのか?」
ディンフルが呆れながら説明すると、キイが助手席から振り返った。
「本を読んだ人と感想を言い合う機会があるんだが、悪役を好きになる人は結構いるぞ。“悪いことしててカッコいい”って意味じゃなくて、悪事を働く理由に共感するパターンが多いんだ。例えば“昔から迫害されて来たから、その報復”とか。読者は“そんな環境で育つとそうなるよね”って共感して、その悪役を推すんだ。全員がそうとは限らないけどな」
キイが説明してくれたが、ディンフルは返事をせず窓から見える景色を睨みつけるように眺めていた。
以前、ディファートが差別をされている話があったので、キイは「イヤなことを思い出させたか……?」と罪悪感に駆られた。
ティミレッジも「怒らせたら一番ヤバい人」という認識を持っており、ワードも気まずくなったのか運転に集中することにし、誰もしゃべらなくなった。
重い空気のまま、車は処理場まで走って行った。
◇
三十分後、車は廃品物の処理場に到着した。
ワードの電話に対応してくれた業者が迎えに来てくれた。
「すみません、わがままを言ってしまって」
「先ほど収集車が戻ったばかりなので、ちょうど良かったですよ。でも、もう間違って捨てないで下さいね。普通は処理を待つなんて無いんですから。お荷物ですが、確認をお願いします。車に詰め込む際は、別のスタッフに手伝わせますね」
案内された場所には、本類のみを集めた収集用のトラックがあった。後ろの荷台には本が大量に積まれていた。
この中に、キイたちの図書館の本と異世界へ飛べる本が埋もれているはずだ。
四人が物色し始めると、先ほど業者が言った別のスタッフが台車を押しながらやって来た。
「荷物運ぶの手伝いまーす! よかったらこちら、お使いください!」
「ありがとうございます! 探し物をするので、お時間を頂戴するかと……」
近くにいたティミレッジが対応すると、途中で言葉を詰まらせた。
台車を押して来たスタッフは何と、同じゲーム作品のオプダットだったからだ。
「えぇーーーーーー?!」
「ティミーか?! 無事だったんだな?!」
「オープン! もう会えないかと思ったよ~!」
オプダットは目を輝かせ、ティミレッジは思わず半泣きで叫んだ。
「俺はいつか会えると思ってたぞ! みんな、同じ空の下にいるんだからな!」
「それは今みたいに、同じ世界ならではの話だ。異世界なら、違う空の下になる」
仲良く再会する二人を横目に、ディンフルはさりげなく指摘した。
「お、お前……ディンフルか?!」
オプダットはディンフルに気付くと、相手を凝視し始めた。
「そうだ。フィーヴェとは違う格好で戸惑っているかもしれんが……」
ティミレッジに続いて、ミラーレで会った因縁相手はこれで二人目。しかも魔王の姿ではなく、こちらで生活している時の格好を見られてしまった。
ディンフルが「ラフな姿を敵に見られるとは」と思ってると……。
「めちゃくちゃ似合ってるじゃん! やっぱ、カッコいい奴は何着ても似合うな~!」
思いきり褒められた。
会うのはこれが二度目だと言うのに、長年の友人のような態度だった。
「私を警戒しないのか?」
「何でだ?」
「いや、聞き返されてもだな……」
意外な反応にディンフルが尋ねるが、逆に質問返しをされてしまう。
オプダットもフィトラグスと一緒に立ち向かって来たはず。ディンフルは目の前の相手から敵意が感じられなかった。
そこへ、ティミレッジが解説し始めた。
「オープンは“みんな仲良く”がモットーだから、ディンフルさんとも仲良くしたいと前から思ってたんです」
「私と仲良くだと……?」
ラスボスと仲良くしたいのなら、フィトラグスと共に立ち向かって来た時の気迫は何だったのか?
ディンフルは、ますますわけがわからなくなった。
「ティミーの言う通りだ。だから今、共同作業することになって、とても嬉しいんだ! フィーヴェでは、こんなの絶対ないだろ?」
「敵同士だからな……」
「ところで、何でディンフルとティミーが一緒にいるんだ? ダチにでもなったか?」
「冗談じゃない!!」
オプダットの問いにディンフルは食い入るように否定した。
そのやりとりにティミレッジは「敵とは言え、そんなに拒否しなくても……」とショックを受けた。
オプダットが加入し、五人で本を探し始めた。
探しながら、ディンフルとティミレッジは彼に異世界へ飛べる本について説明した。
「つまり、その本がないと元の世界に戻れないんだな?」
「ああ。ただし、すぐフィーヴェに行けるとは限らぬ。キイいわく、ランダムで飛ぶみたいだ」
「どこに飛ぶかわからないなんて、面白いに決まってるだろ! 早く見つけようぜ!」
ティミレッジはどの世界に飛ぶのか怯えていたが、オプダットは逆に明るく捉えており、探す気力がますます湧いた。
見ていたキイが「前向きなんだな」と感心すると……。
「みんな、前向きだろ? 後ろ向きで歩いてる奴、見たことあるか?」
オプダットはそう問いかけた。
キイ、ワード、ディンフルが反応に困っていると、ティミレッジがまた解説してくれた。
「オープンことオプダットは明るくてポジティブなんですけど、ちょっと教養が足りてないんです……」
キイはすぐに、同じく勉強が苦手なとびらと同じレベルだと確信した。
ディンフルも「やはりそうか」とつぶやいた。実は、ラスボス戦の時から彼の言い間違いに気付いていたのだ。
翻弄されながらも、彼らはその後も必死に本を探し続けた。