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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第5章 フィーヴェ編
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第103話「超龍」

 ついに目覚めた超龍(ちょうりゅう)。今は頭部しか現れていないが、体が出て来るのは時間の問題だ。

 大陸よりも巨大と言われている超龍が全身を起こすと、フィーヴェは間違いなく滅ぶ。


「早めに片をつけるぞ!」


 海面から出た頭部は三〇〇メートルはあった。

 いくら鍛えているフィトラグスたちも、そんなに高くは飛び上がれない。


「浮遊魔法を使うわ。上まで行ったらオープンとチェリーが頭を割って、フィットがトドメを刺して。ティミーは白魔法で援護して。私はここから黒魔法を使うわ」


 ソールネムが指示を出すと、フィトラグスが「わかった」と返事をした。

 しかし、オプダットとチェリテットは渋った。


「さっきもその作戦で行ったんだけど、超龍の頭、けっこう硬いのよ……」


 チェリテットが先ほどの状況を説明した。


「ティミーに攻撃力を上げてもらうといいわ」


 ソールネムに「お願い」と頼まれたティミレッジは早速、白魔法を全員に掛けた。

 一行がバリアの白い光に包まれ、体が赤く発光した。この赤い光は攻撃力を上げる補助系の白魔法だ。


「おぉ! 力がみなぎって来たぜ! サンキュー、ティミー!」

「調子に乗って羽目を外さないように! 今回は命を落とす危険があるんだから!」

「わかってるって! 肉弾戦は()()に乗った気持ちで任せてくれ!」

「”大船”!!」


 体がさらに軽くなったオプダットはテンションが上がり、いつも通り言い間違えた。

 四人が一斉につっこむが、「彼ならどんな時でも間違えるだろう」と、とっくに諦めていた。しかし、今の状況では癒しになり、緊迫した空気が少しだけ和んだ。



 ソールネムが再び、フィトラグス、オプダット、チェリテットの三人を魔法の球体で包んだ。球体は三人を上空まで運び、超龍の頭の上まで来た。

 下にいるティミレッジとソールネムの姿が米粒のように小さく見えた。


「た、高い……!」


 あまりの高さに怯むオプダット。


 三人に気付いた超龍が上に向かって口を開け始めた。


「まずい! 食べられるぞ!」


 フィトラグスが叫ぶと、超龍の首に炎の塊が飛んで来た。

 ソールネムが地上から火の黒魔法を唱えたのだ。


 さらに、超龍の顔面が茶色い光に包まれた。ティミレッジが唱えた白魔法で、敵の動きを鈍くする効果があった。


 ソールネムの「今よ!」の合図で球体が割れ、オプダットとチェリテットが超龍の頭を目掛けて必殺技を繰り出した。


 ところが、凄まじい音に反して頭はびくともしなかった。


「ダメだ! 割れねぇ!」


 オプダットが叫ぶと、フィトラグスが「任せろ!」と自ら球体を割って出た。

 構えた剣を真下に向け、超龍に降り立つとともに頭部に突き刺した。


 だが、あまりの硬さに剣が入らない。


「くそっ!」


 フィトラグスは無理矢理、剣を刺そうとするが超龍の頭部はダイヤモンドのように硬かった。


「やめなよ、フィット! 剣が折れちゃうよ!」


 チェリテットが制止したところで、頭の上に雷が走った。


「うわあああああ!」


 感電した三人は、頭を振った超龍に投げ飛ばされてしまった。

 急いでソールネムが出した球体が彼らを包む。お陰で三人はゆっくりと降りて来た。


「大丈夫?!」


 ティミレッジが心配しながら、白魔法で三人を回復した。


「急に電気が走ったんだ……」

「きっと、超龍の魔法よ」


 フィトラグスの報告にソールネムが想定しながら返した。

 超龍は体が硬いだけでなく魔法にも長けているので、より注意が必要だった。


 一行は、超龍から白魔法の茶色い光が消えていることに気がついた。


「動きも機敏だし、もしや白魔法が効いていない……?」


 超龍は五人へ向かって咆哮を上げた。

 現れた衝撃波が彼らを襲う。


 それに耐え抜くと、五人の体から白と赤の光が無くなってしまった。


「無効化した?!」


 ティミレッジが驚愕すると、「やっぱり、一気に倒すしかないわね」とソールネムが飛び出し、超龍へ向かって呪文を唱えた。



「アステラス・ジャッジメント!!」



 彼女の必殺技だ。

 海面から真っ白な光の柱が現れて超龍を包み込み、さらに柱の中では空から隕石のような塊が無数ほど降って来た。

 光の柱と隕石の力で、中にいる者は大ダメージを負う無属性の攻撃魔法だ。



 まばゆい光が辺りを照らす中、ソールネムは膝をついて倒れてしまった。

 すかさず、ティミレッジが抱き上げる。


「ありがとう。魔力を使い切ったわ……」

「この力、消費が激しいですからね」


 誰もが勝利を確信していた。


 しかし光の柱が消え、降り注いでいた隕石が止むと、超龍が何事もなく佇んでいた。

 まったくの無傷だった。


「そんな……」


 直接攻撃も効かず、白魔法も無効化され、無属性の黒魔法も受け付けない。

 さらに、黒魔導士のソールネムはもう魔力が残っていなかった。


「ま、魔力回復のアイテム、あったじゃねぇか!」

「一緒よ! 魔力を回復しても、今の魔法が効かないんじゃ意味ないわ!」


 オプダットの提案をソールネムがかき消す。

 今のは彼女が使える黒魔法の中で最も強い威力のものだ。それが効かないとなると、他のどの黒魔法も超龍に通用しない。


 五人はなす術がなく、絶望した。



 途方に暮れていると、超龍が口から光線を放った。

 ティミレッジが前に出て白魔法のバリアを張るが瞬く間に粉砕され、五人はあっという間に吹き飛ばされてしまった。



「つ、強い……」


 フィトラグス、ティミレッジ、オプダットが辛うじて体を起こす中、チェリテットとソールネムは立てなかった。


 ティミレッジが二人の元へ駆け寄ろうとすると超龍が再び咆哮を上げ、衝撃波を起こした。


「まずい……。今度こそ、やられる!」


 五人は再び衝撃波を受けてしまい、倒れていたソールネムとチェリテットは遠くへ飛ばされてしまった。


「ソールネムさん! チェリーちゃん!!」


 気付いたティミレッジが二人を呼ぶが、彼女たちはすでに意識を失っていた。

 フィトラグスとオプダットもまた倒れてしまい、今度は起きることが出来なかった。



「これまで戦った敵とは桁違いだ……」


 意識が薄れる中でフィトラグスがつぶやいたその時、超龍から悲鳴のような声が聞こえた。

 残された三人が首だけそちらへ向くと、超龍が苦しむように頭をのけぞらせていた。


「何事だ……?」


 突然苦しみ出した超龍に、目を見開くフィトラグス。



「情けない。それでも勇者か?」


 聞き覚えのある声と共に三人の目の前に、長い髪にマントの出で立ちの人物が降り立った。

 ディンフルだ。


「ディンフル?!」


 驚いて思わず体を起こすフィトラグス。

 ディンフルは、彼を見下ろしていた。


「無様になったな」


 嘲るように言うと、ディンフルは三人に魔法を掛けた。

 フィトラグスらから傷が消え、体も起こせるようになった。


「おぉ! 回復したぜ!」

「ありがとうございます、ディンフルさん! ()()()()来てくれたのですね!」

「お前たちのためではない! 超龍は空間移動の力を持っている。フィーヴェが滅んで他の異世界へ飛ばれると、私の居場所が無くなるからだ!」


 久しぶりにツンデレを発揮するディンフルへオプダットは「相変わらず素直じゃねぇな」と笑った。

 一方でフィトラグスは、ティミレッジの発言が気になっていた。


「“やっぱり”って何だよ? ディンフルは超龍の事情なんて知らないだろ?」

「とうに知っている。リアリティアでティミレッジと再会した際にすべて聞かせてもらった」


 フィトラグスとオプダットは、二つの意味で驚きの声を上げた。


 まず一つ目は、ディンフルがすでに超龍のことを知っていたことだ。

 超龍問題は、彼がフィーヴェを去った後で取り上げられたため、絶対に知ることがないと思っていたのだ。


 二つ目は、リアリティアの名前が出たことだ。

 こちらからは一切行けない世界と言われて来たが、ディンフルとティミレッジはとっくに行っていた。


「リ、リアリティアに行ってたのか? いつの間に……?」

「ティミー、何で黙ってたんだよ?! リアリティアってユアの故郷だし、”幻の世界”って言われてるんだろ?」


 フィトラグスは開いた口が塞がらず、オプダットは内緒にされていたことで不満をぶちまけた。


「だ、だって、フィーヴェに戻ったら、みんな超龍のことで騒いでたし、それどころじゃなかったんだよ」

「世界の未来が掛かっているから仕方あるまい」


 ディンフルの助言で二人は大いに納得した。


「リアリティアの話は後だ! 超龍はお前たち人間には倒せぬ。下がっていろ」

「だ、大丈夫だ! あんたが回復してくれたお陰で、まだ戦える!」

「その様子では剣も拳も、魔法も効かなかったようだな?」


 フィトラグスが戦う意志を見せるも、ディンフルに指摘された。

 見事に言い当てられ、返事が出来なかった。


「国へ帰れ。お前たちが死ぬと、悲しむ者がいる」


 ティミレッジはいなくなった二人の名前を出した。


「さっき、ソールネムさんとチェリーちゃんがどこかへ飛ばされたんです! 探しに行かないと……」

「戦いながら探し、見つけ次第インベクルへ送る」


 ディンフルは遮るように拒否した。

 だが、三人が帰りたくない理由は他にもあった。


「戦うなら四人でやろうぜ! せっかくまた会えたんだから!」

「お前たちでは足手まといだ」

「ディンフル一人にやらせられるわけないだろ!」


 退かないオプダットにディンフルは苛つき、ため息まじりに尋ねた。


「共に倒して、ヒーロー扱いされたいのか?」

「仲間を放っておけないからだよ! でも、また()()()()扱いも悪くないな!」

「“英雄”だ!!」


 言い間違えるオプダットへディンフルが訂正すると、再びフィトラグスが説得し始めた。


「俺らが死ぬと悲しむ奴がいるって言ってるが、あんたも同じだろう」

「どういう意味だ?」

「ユアだよ」


 ユアの名前を出されたディンフルは目を見開いた。


「ユアはあんたに会うためにリアリティアを飛び出したんだろ? どんな理由かはわからないが、世界を越えて来てくれるって相当だぞ。自分を好いてくれる人を悲しませるな! でないと、さっきの言葉に説得力が無くなるぞ!」

「わ、わかっている!」


 フィトラグスはリアリティアに行っていないので、ユアの事情をまだ知らなかった。


 超龍が再び衝撃波を出す。

 咄嗟にディンフルは前に出てバリアを張りつつ、後ろの三人に魔法を掛けた。

 バリアはすぐに破られた。



 衝撃波が晴れると、超龍と向かい合っていたのはディンフル一人となっており、三人の姿は消えていた。


「これ以上、人間に借りは作りたくないのでな」


 フィトラグスらを国へ送ったディンフルは魔法で大剣を出し、超龍を睨みつけた。

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