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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
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第98話「復讐」

 卒業式当日のロイヤルダーク高校。


 生配信の件もあり、ユアはクラス中から心配の声を掛けられた。

 その中には、この一年間いじめて来た加害者(リマネスの取り巻き)の姿もあった。

 彼女たちは謝った後で「無理矢理やらされていたのよ。リマネスって怖いから……」と弁解した。


 だが、ユアはすぐにウソだと見抜いた。

「リマネスの味方だ」と言えば、自分たちまで世界中から非難を受けるので保身に出たのだ。本音でないのは明らかだった。


 当然、彼女たちを許すつもりは無かった。

 本当に嫌々指示に従っていたのなら、もっと早くから気に掛けるはずだが今日までそれが無かったからだ。

 さらに奪ったミカネのグッズも返そうとして来たが、ユアは受け取らなかった。



 クラスメートたちも同様だった。

 これまで、誰一人近付いて来なかったのに突然心配して来たため怪しかった。

 取り巻きと一緒で、心配するフリをしてリマネスの味方でないことを主張したいのだろう。


 ユアはすぐにこれも見抜き、心から彼らを残念に思った。

 そんな学校も今日で終わりなのが、心からの救いであった。



 一方でリマネスはすっかり生気を失い、まるで生きる屍のように放心していた。さらに、せっかくの卒業式だと言うのに髪はボサボサで、制服も着崩れていた。

 ユアにも近付いて来なかった。父親から相当、釘を刺されたのだろう。

 クラスメートたちも彼女には近寄らなかった。これまで怯えて従って来たがその必要が無くなったので、全員で無視することにしたのだった。


 そんな彼女を見てもユアは一切同情は出来なかったし、クラスメートへの不信感が募る一方だった。

 改めて「嫌な学校で、嫌なクラスだ」と思った。


                 ◇


 式は無事に終わった。

 涙を流す生徒が多い中、ユアはまったく泣かず、逆にせいせいとしていた。

 元々望んで入った学校ではない上に、リマネスからも解放されたのだ。イマストの新作が出た時のように心が晴れやかだった。


 卒業生たちが写真を撮り合う中、ユアは誰とも話をせず、ディーン(ディンフル)を探していた。

 彼は式を見に来てくれていた。フィーヴェには「卒業式」というものが無いらしく、「どのような儀式なのか見てみたい」と言っていた。

 ユアは「儀式とか、そんな怪しいものじゃないよ」と思わず笑ってしまった。



 校内を走り回っていると、階段を降りるリマネスを見つけた。

 体に力が入っておらず手すりを使っており、いつもピンとしていた姿勢も今は猫背で、後ろ姿でも覇気が感じられなかった。


 それを見たユアはこれまでされて来たことを思い出し、それは走馬灯のように頭の中を巡り始めた。


 好きなキャラのグッズを奪われたり、自分がやりたいことを勝手にされ、逆にやりたくないことを押し付けられ、先生やクラスメートが敵になるように仕向けられたり、進学先を勝手に決められたり、気の合った里親候補の人と離されたり……、リマネスへの怒りは簡単に消えることは無かった。


 ユアはこっそりと近付き、階段をゆっくりと降りる相手の背中へ向かって、両手を突き出した。


 自身の肩をつかまれた。

 いつの間にか、背後にディーンが来ていた。


                 ◇


 彼に連れられ、学校の屋上に来た。


「何をしようとした?」


 ディーンは慰めるような優しいトーンで尋ねた。相手の行為をすでに見抜いているようだった。

 ユアは俯きながら答えた。


「……押そうとした」

「押せばどうなったと思う?」

「リマネスが落ちる……」

「落ちればどうなる?」ディーンは終始、穏やかに尋ねた。


 最後の質問には答えられなかった。

 直感で「気持ちがスッキリする」と言おうとしたが、心の中に留めた。

 それでも、ディーンには見透かされていた。


「今までのこともあって、やりたくなったのだろう? 気持ちはわかる」


 ユアは言い返せず、さらに俯く。

 返事がないので、ディーンは自分の経験を混じえて話し始めた。


「俺もウィムーダを奪われ、人間たちへ復讐をした。今は後悔している」

「……やっぱり、人間と仲良くしたいから?」


 彼の後悔を聞き、ユアは少しだけ顔を上げて聞いた。


「そうだ。俺は怒りから、ウィムーダが愛した人間たちを傷つけた。異次元から戻し頭を下げても、罵声を浴びせられ、トマトも投げ付けられた。彼らの怒りはもっともだ」


 ユアはディンフルがフィーヴェで許してもらえず、トマトまで投げ付けられたことを初めて知った。


「ディン様の怒りは当然じゃない! 好きな人を殺されて、住んでいた家まで燃やされたんだから!」

「あの時は復讐することしか考えられなかった。だが今思えば、誰かに助けを求めれば良かったのではないかと思う。少なからずだが、ディファートを理解してくれる者もいるからな」

「ディン様の判断は間違ってなかったよ。だって、ディン様が魔王になったから、イマスト(ファイブ)ってゲームが出たんだよ!」


 まさかの意見に、ディーンは思わずがくっと来た。


「そっちか……」


 呆れる彼だが、よく考えたらイマスト(ファイブ)はディンフルの怒りがきっかけで始まったのだ。それを設定したのは、リアリティアのスタッフだが……。

 前作から四年ぶりの新作で救われたユアにとっては、生きる希望の一つになっていた。


「まさか、俺の復讐劇で救われる人間がいるとは……」

「それだけじゃないよ。イマストがあったから、フィットやティミー、オープンもそれぞれ出会えたんだよ。あと、フィーヴェも長年ディファートについて教えられてなかったけど、それが再開するかもしれないんでしょ?」


 ディーンは目を大きく見開いた。

 長年、フィーヴェではディファートに関する教育すら消滅していた。

 もし国王が許してくれれば、人間とディファートは和解の道を歩み、ディンフルは人間とディファート、両側に新たな歴史を刻む第一人者になる。

 ユアの台詞から大切なことに気付かされた。


「話を戻すが、もう復讐を考えてはならぬ。先ほどのやり方では相手の命に関わり、お前が犯罪者になってしまう」

「……許せないから。これからも、ずっと」

「わかっている。俺もウィムーダを手に掛けた奴らは一生許すつもりは無い。だが、殺しはしない。新たな悲しみや怒りを生むだけだからな」


 ディーンは悲し気に遠くを見ながら言った。

 ユアは、彼がゲームのラスボスに向いていないと改めて思うのであった。そしてまた俯きながら、つぶやいた。


「でも、怖かった……。仕返しはしたいけど、相手が死ぬかもしれないことを考えたら、すごく不安になった。リマネスも今はフラフラしてるけど目の前にいるし、もしかすると我に返ってやり返されるんじゃないか、とかも考えた」

「その感情は間違っていない。今まで傷つけられて来た者が傷つける側に回るのだ。変な感覚に襲われるのも無理はない」


 今までなだめるような話し方だったディーンは、ここでいつもの厳しいトーンになった。


「俺は復讐をしたが為に罵声を浴びせられ、トマトを投げつけられた。お前にはそんな痛みを味わって欲しくない」


 ユアは顔を上げ、ディーンの顔を見た。

 顔をしかめる彼を見て、「ドジ以上に大変なことをしてしまった……」と思った。


「今頃ウィムーダも、俺に失望しているだろう……」ディーンはまた悲し気につぶやくのであった。

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