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戦闘態勢

文才が切実に欲しい。

 ぶっ倒した騎士団連中を適当に縛り上げ、その間に俺と桐生で宮廷魔術師の元に向かうことになった。

 その間、他のクラスメイトはこの世界の情報を調べるのと同時に、この城の制圧を頼んだ。


 そんなことがクラスメイト達に出来るのかと問われれば出来ると即答できる。

 まだ魔法という未知の技術があるとはいえ、ウチのクラスメイトの大半は戦闘に対しての自衛手段は持ち合わせているし、なんなら先程の騎士団連中クラスならば、あと100人くらい纏めてかかってきても余裕で対処できるだろう。


 だからこちらも余裕を持ってあの爺さんの元へ向かうことが出来る。


「確か、あの王様が言うにはこっちの方面であってるはずだが……」


「ああ、周囲に悪意や敵意は見えない。待ち伏せや奇襲の心配はないだろう。もっとも、俺の目が魔法とやらに反応できていたらの場合だがな……」


 進む道にトラップや隠れて奇襲のタイミングを見計らっている者がいないことを確認すると、隠れることなく宮廷魔術師が住む部屋に向かって歩を進める。


「っで、どう考える。このまま爺さんを倒して脅し、俺達を連れてきた魔法を使って元の世界に戻れますって結末になると思うか?」


「う~ん、その方が俺達的にはありがたいんだけど、そう上手く事が運びそうにないって考えてるよ」


 楽観的な考えが出来ないのは両者共に現実主義のリアリストだからだろうか。

 道中は誰にも会うことなく、目的の部屋の前に辿り着いた。


「いるな。俺の目があの爺さんの悪意を捕らえた」


「奇襲を仕掛けるか?」


「いや、下手に戦闘になるよりも話し合いで解決したい。こっちには王を捕らえているという手札がある。それで言うことを聞かせればいいだろう」


「了解」


 俺の提案に桐生も賛成して、ノックもせずに部屋の扉を開けて中に侵入する。

 部屋の中はいかにも魔法使いの部屋といった感じの内容となっており、謎の液体に漬かった小動物、ドラゴンのような生き物の骨、どういう意味を持つか不明な幾何学的魔法陣などがところ狭しと置かれてあった。

 そんな部屋の奥に鎮座する比較的整理された机の前で目的の爺が立っていた。


「おやおや、今は歓迎の宴の真っ只中では?何故ここへ……」


「とぼけんなよ、爺さん。それともやっぱりその歳でボケたかジジイ!?」


 殺気を込めた声と共に睨み付けると、爺さんはひょっひょっひょ!とまるで気にも止めずに笑って返しやがった。

 出会った時から感じていたが、やっぱこの爺さん只者じゃねえな……。


「単刀直入に言っておこう。こっちはあんたのとこの王を捕まえている。下手な真似すりゃどうなるかくらいは分るよな?」


「ほぉ、騎士団長を含めたセルレーン騎士団を退けたか。いやはや、やはり異世界の力ある集団は恐ろしいですな……」


 こちらの言葉に疑いは持っていない。だというのにこの余裕は一体?

 王の身柄は大事ではない?それとも、ここから王を無傷で奪還する方法を持ち合わせている?

 なんにせよ、こちらは魔法という技術に対してまるで知識不足だ。


 まさか、ラノベ小説みたく空間移動や時間停止だなんてチートレベルのものは存在しないとは思うが、頭の片隅にその可能性だけは置いておくとしよう。


「言っておくが、俺達は殺し合いをしに来たわけじゃない。俺達を元の世界に戻すと約束するなら、王の身柄は無事に返す」


「ふむ、それは少し困りますな。貴方達を召喚するのにも大きく国の予算を使った。それに、今のこの国には貴方達を元の世界に戻す為の余力は残っていない」


「――――っ!?最悪だ……」


 俺の目が今の爺さんの言葉に噓はないと見抜いた。つまり、ここで王を無傷で返そうとも俺達は元の世界には今すぐには戻れない。


 ふざけんなよ!あっちじゃもう少しで機関が動き出すんだぞ、最悪のタイミングで召喚しやがって。

 だが、まだ希望が消えたわけじゃない。あの爺さんは余力がないと言っただけで、方法が無いと言ったわけじゃない。

 だったら、どれだけ時間が掛かるかは分からないが、元の世界に戻れることは出来る筈だ。


「聞きたいことは済んだかの?なら、先手は譲ってもらおうかの!!!」


「っ!?桐生ぅぅぅ!!!」


「任せろ!!」


 爺さんの敵意と悪意、そして殺意が膨れ上がったのを確認すると、俺と爺さんとの会話にずっと参加させずに俺の後ろで戦闘態勢の状態で待機していた桐生に声を掛ける。

 それに即座に反応した桐生はあらかじめ構築していた術式を展開して俺の前に出ると、両手を前に突き出す。


 だが、それよりも爺さんが動く方が早く、机の上に置かれていた怪しい液体が入っているグラスを掴んでこっちへ放り投げた。

 中身はなんだ?硫酸か、それとも魔法に関する物か?どちらにせよ、まともに浴びるのは危険!?


「っ、障壁!」


 桐生と爺さんが投げつけたグラスの間に透明な壁を作り上げる。

 これは基本的な防御術式の1つ。その名の通り薄く脆いながらも敵の攻撃を防ぐ壁を瞬時に召喚することが出来る。


 パリンと障壁にぶつかってグラスは砕け、中の液体が宙に放り出される。

 何滴かは障壁に触れたが、溶ける様子も魔法のようなものが発動した気配も見えない。ただのブラフだったか?


「いや違う。足元だ桐生!!」


 地面に落ちた液体が生き物のようにグネグネと動きを見せる。

 まさかのスライムか!?ただの雑魚ってことはないだろう。溶かす系にしろ、物理特化系にしろ、直接触れるのはマズイ!


 だけど……、


「忠告サンキュー!でも、心配はいらない!」


 地面で蠢くスライムと爺さんを同じ射線上に捕らえた。

 展開した術式はもう発射準備は完了している。


「霊砲破弾!!!」


「「っっっ!!?」」


 右の掌から術式によって凝縮された霊力が巨大な球体状の弾丸となって一直線に飛んでいく。

 その速度はマッハの領域に迫り、一瞬のうちにスライムごと爺さんを飲み込んで部屋の壁ごと破壊していった。


 ドカン!とデカイ破壊音が辺りに響き渡り、桐生の目の前からは一切の物が消滅していた。

 吹き抜けとなった部屋の壁からは風が入り込み、外の青空がよく見える。


「これはちょっとやり過ぎたかな?」


「油断大敵だ、桐生。相手は魔法という俺達の常識が通じない力を持ってる。下手に痛手を喰らう前に始末をつけるのは悪手じゃない。それと、まだ決着はついちゃいない……」


 そういって俺が壊れた壁の方を指差すと、そこには空中に浮かんでいる無傷の爺さんがいた。


「ふぅ~、魔導球壁の展開が間に合っておらねば塵1つ残らず死んでおったぞ……」


 大して汗も出ていない額を拭ってこちらを睨んでいた。

 今にも消えかている透明な球体状のバリアが桐生の技を防いだのだろう。


 やはり、魔法というのは侮れない。俺の出した障壁と同等の展開スピードでありながら、その強度は溜めを必要とした桐生の技を1発限りとはいえ完全に防ぎ切った。

 それが意図することは、魔法は俺達が使用する術式よりも格上の代物である。


 だが、安易にそう考えるのは愚考である。今の爺さんの態度はブラフで、実際はかなりの力を使用して無理矢理発動させたという可能性もないわけではないのだ。

 それに、それだけの力があるのならば、格下である俺達をこの世界に召喚せずとも良かったのではないかという疑問も残る。


「なんにせよ、一度キチンと手合わせしてみれば分かるだろう。桐生、次は俺1人で行く。なにかあった際は救援を頼む……」


「……ああ」


 肩を回して戦闘態勢に入る天神。その様子からは危機感を感じられないが、身に纏う雰囲気から殺る気であるのはよく分かる。


「手加減をする気はねぇぞ、爺さん」


「老人を労わる気はないとは生意気な小僧だ!」


「………」


 殺意と闘志がぶつかり合い2人の間の空間が軋みを上げているかのような錯覚を覚える。

 それを後ろからただ見ているだけの桐生の心中は如何ほどか……。

お気に入り登録と高評価さえあれば……。

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