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異世界の王族はクソ

 完全にしてやられた。そう思った時には既に時遅く、教室内にいたクラスメイト全員がまるで見覚えのない暗がりな部屋の中にいた。

 辺りには連れ去れたクラスメイトが全員いたことから、ひとまずバラバラにはなっていないことに安堵するが、一体誰がどういった目的でここへ連れてきたのか?


「おい天神、これもゲームにあったシナリオか?」


 少し離れた位置に立っていた桐生が即座に俺の隣に移動して耳打ちして聞いてくる。


「いや、こんな展開は俺も知らない。考えられる可能性はクラスメイト全員が生き残ったことによるイレギュラー、もしくは俺の知らない外伝的な話かもしれない」


 勘弁してくれよ!こちとらもうすぐでシリーズ2が開始されるから色々と準備していたっていうのに!!!

 ここでまさかの原作知識外のイベントが起きるとか、神様はマジで俺のことを嫌っているのか!?


「とにかく、桐生は今もざわついてるみんなを落ち着かせてくれ。敵が来た場合は俺が全力で対処する」


「俺よかお前の方が適任だと思うけど、まあ分かった。だけど、敵が来たならお前1人だけじゃなく、クラス全員で対処する。これは決定事項だ。みんなも絶対にそう言うだろうしな」


「…………分かってる」


 まったく、心配性が過ぎる。みんなが俺のことを大切に思ってくれているのは理解してるし、それを嬉しくも思っているが、だからといって俺の無茶を止めるために一緒になって無茶してくるのは勘弁してくれ。


「――――っ、来る」


 警戒を怠らずに周囲からのアクションを待っていると、部屋に唯一あった扉から怪しげな服装をした連中が入ってきて、こちらを見て何やら成功だなんだと騒ぎ立てていた。


(なんだこいつら……?日本語を話している……わけじゃないな。口の動きと聞こえてくる言葉が違う。翻訳されているのか?)


 警戒を緩めずに相手の出方を見守っていると、連中の中でも豪華な装飾を身につけた老人が前に出て説明をし始めた。


「突然のことに困惑なさっているでしょうが、どうぞご安心くださいませ」


 そうにこやかに笑顔でこちらの警戒心を解こうとする老人に、俺は内心でヘドが出そうだと吐き捨てる。

 見た感じは誰にでも優しそうな好々爺といった風貌だが、俺の目にそれが一番相手を騙しやすそうだから演じているクソがつく悪党にしか見えなかった。


「この国、いや世界では魔族と呼ばれる者が全てを己のが物にせんと戦争を仕掛けてきているのです。我々も必死の抵抗を試みてはいるのですが、如何せん敵の強さは強大で少しずつ我が軍が押され始めておりまして……」


 周りの連中も爺さんの言葉に肯定するようにコクコクと頷いている。

 噓は言っていない。だが、隠してることも言っていないといったところか……。


 俺以外のクラスメイトは桐生と佐藤、それから狗巻以外は全員その話を鵜吞みにしている様子だ。

 なかには「これって異世界召喚ってやつ!?」などと興奮している者もいる。


 確かにこういった展開はラノベでよく見るものだが、それでももう少しは警戒はして欲しい。

 まあ、下手に全員が警戒し過ぎて相手にそれを悟られるよりかはマシか……。


 それからトントン拍子に話は進んでいき、歓待の為の準備を進めている間、この国の王に会ってくれと頼まれた。


 悪意はあっても敵意はなさそうなので、いきなり戦闘を仕掛けてくるわけではなさそうだと判断して大人しく連中の後ろをついていく。


 道中で爺さんが一番偉い人物ではないのかと訊ねると、どうやらこの爺さんは宮廷魔術師と呼ばれる立場の人間で、ラノベ設定と同じように魔法の腕が一番凄い人なんだという。


 やっぱり、あの転移の現象は霊力による術式ではなく、異世界の魔法だったから防御系統の術式が反応しなかったというわけか……。

 つまり、もし仮にこいつらと戦うことになった際は魔法という未知の力とぶつかるということになる。


 その後、案内された部屋は豪華な部屋の奥にはアニメなんかでよく見る感じの玉座が鎮座しており、そこには立派な王冠を被ったいかにも王様といった風貌の人物がいた。


「よくぞ来てくれた!異世界より召喚されし救世主たちよ!!!」


 こいつもか……。いかにも俺達を歓待していますといった感じだが、その腹の奥底はドス黒く汚れている。

 その後の王様の話を聞くも、さっき爺さんに話された内容とほぼ一緒で、要約すれば魔族が暴れ回ってるので異世界の中でも特に()()()()()()である君達を召喚して変わりに戦ってもらいたい。っと、つまるところそういうことらしい。


 いかにもテンプレート的な内容だが、連中の反応を見る限りやっぱり噓は言ってないのだろう。

 魔族云々で迷惑しているという話は本当。だが、俺達に助けを求めているっていう部分が一部食い違いがあるといったところか……。


「今日は世界救済の始まりの日だ!今宵は我が国の食を堪能しておくれ……」


 そうしてまた別の部屋に案内される。

 その際、さっきまで案内していた爺さんが何処かへ去って行き、変わりに王が従者を引き連れて案内をする。


「ここだ。さあ、入ってくれ」


 用意された部屋には、絢爛豪華とはこのことかと言いたくなる程に贅沢な食事と飾り付けがされており、美男美女の執事とメイドが壁際に配置されていた。


「皆様方、遠慮せず存分に楽しんでくれ!」


 王の言葉にクラスメイトが全員俺の方を見てくる。俺は用意された食事になんらかの細工はされていないと判断し、殿(しんがり)として用意された食事を口に放り込む。


「うん、美味いな……」


 その言葉にクラスメイト達は不安がなくなり、各々が興味を引いた食事に手を伸ばしていく。

 その周りにお世話係として執事やメイドが付き添ってくる。何人かの男子や女子はその対応にデレデレとした反応を見せて気を許しているみたいだ。


 そのまま俺達の歓迎会を楽しんでいるフリをしていると佐藤と柳が俺の方へやって来る。

 2人共近くに執事を近づけておらず、俺もメイドには1人の方が落ち着いて食えるといって遠ざけていた。


「ねえ、これどう思う?」


「……今は何とも言えない。恐らくだが俺達を懐柔しようとしている意思は見えるから、無暗矢鱈に敵対する気はないんだろうな」


「やっぱりそうなんですか?私もさっき佐藤さんにそう聞かされたから驚いちゃったけど、じゃああの話は全部噓ってこと?」


「いや、詐欺師の典型的な罠だ。本当の事を話しながら、意図的に一部を隠したり噓をいう事で全てが本当だと錯覚させる手法だ」


 漫画知識ではあるが、こういう騙し合いに関してはかなり詳しい方だと思っている。

 なによりも、俺にはチート的な()があるからな。


 そして、場の雰囲気がある程度盛り上がった頃合いを見計らってか、王がパンパンと手を鳴らすと、部屋の外に待機していたであろう鎧を着こんだ騎士団のような連中が怪しげな腕輪を持って入ってきた。


「宴を存分に楽しんでいるところ失礼する。これより、皆様方にこれをお配りしたい!」


 騎士団の中でも一際細工が凝った鎧を着た男、恐らくは騎士団長といったところか、その男が持ってきた腕輪をこの場にいるみんなに見えるように掲げてみせた。


「これは我が国の英雄であるという証であり、皆様の身分証明になる物ですゆえ、基本的に着用をしていただければ幸いです」


 説明を終えると、まずは騎士団長に一番近い距離に立っていた天童に渡そうとしたのを俺が声を上げて止めに入る。


「ちょっと待て!天童、それを受け取るな」


「っ!」


「ええ?」


 疑いもせずに咄嗟に腕にはめようと受け取ろうとした天童は、俺の言葉に出した手を引っ込めて騎士団長から距離を取った。

 それと同時に、この部屋にいる人間。特に王と騎士団連中から薄っすらと敵意が滲み出てきた。


「それ、あんた自分の腕に着けてみろよ。言っとくが俺達はそれは絶対に着ける気はないぞ」


「どうされたのですか一体?ほら、この通り着けたところで何も変なことは「胡散臭いんだよ。最初から最後まで……」っ!!」


 危ない物ではないと証明するために自分の腕に着けてみせるが、俺はバッサリと切って捨てる。


「胡散臭いとはまた……。なにか誤解があるのでは?」


「ああそうだな。1つ誤解があるな。だがそれは、こっちではなくお前らの方だがな」


「なにを……」


「お前ら、俺らを年相応のガキだと思って甘く見てんだろ?まあ、ぶっちゃけその通りの面もあるが……全員が全員そうじゃないってのには気づいとくんだな。少なくとも、俺を含めて4人はお前らが俺達をただ利用しようとしてるってことには気が付いてるぞ」


「――――っ!!?」


 どうした?顔に出てるぞ、これはマズイってな。

 まあ、顔に出なくても俺には最初からまる見えだったけどな。


『悪意を見抜く目』それが今の俺の目に宿っている力だ。


 ゴーストランペイジのマップには敵キャラである悪霊や妖怪が配置されているだけでなく、よく見なければ分からないトラップなども設置されてある。

 下手なプレイヤーからすれば目に見える悪霊や妖怪から逃げ続けるよりも、見えない設置されたトラップの方が厄介だという。


 その救済措置のようなものが悪意を見抜く目だ。これは目に見えにくいトラップの周りをぼんやりと色で教えてくれるもので、他にも隠れて突然飛び出してくる悪霊の位置も教えてくれる。

 ゲームではその程度の能力だったのだが、現実世界ではその名の通り人の悪意を見抜くことが主な力で、トラップや悪霊の位置を見つけるのは副次効果みたいなものだった。


 そんな俺の悪意を見抜く目には、この世界の人間達が俺達に対して悪感情に似た何かを抱えているのが見えた。

 だからこそ、俺はこいつらがクソがつくド悪党だと気が付いた。


 この目を持っていなかったら、ただ警戒しているだけで行動できず、天童にあの腕輪を装着させていたかもしれない。


「お前ら、さっきの言ってたよな?異世界で特に力のある集団を召喚したと……。なら、戦闘力だけじゃなく、テメェらのクソったれな考えを見抜く力を持つ者がいる可能性を考慮すべきだったな。このアホ共が……」


「っぐ!」


 酷く冷淡な視線を王に送ると、顔を真っ赤にして俺を睨みつけた後、騎士団長に目線で指示を送る。

 それを受けた騎士団長が腰に身につけていた剣を抜いて俺に向かって走り出し、他の騎士たちも一斉に武器を構え始める。


「王への無礼!その身で支払ってもらうぞ!!」


「人を斬るのに迷いはない……っか、まあ、戦争やってんだから当然だよな」


 こちらに向かって迫ってくる騎士団長からは完全な敵意と薄っすらとした殺意が見えた。

 どうやら、完全に殺す気はないようだが、それでも抵抗されれば……っと感じなのだろう。


 だが見くびるなよ。剣を持っているから、戦争を経験しているから、殺す気でいるから。

 その程度で俺に……いや、俺達に敵うと本気で考えていたのか?


「ふぅ~、天ノ海流空手“天破落地”」


「っな!?」


 空手と銘打っているが、その実これは柔術や古武術も取り入れた実戦向けの武術である。

 相手が武器を持ったり、素手で向かってきた場合でも対応できるようにと古くから天ノ海家が積み重ね磨き上げ続けた武術の技を密かに叶多から俺は習っていた。


 その技のうちの1つでもある“天破落地”は柔術と合気道を混ぜ合わせたもので、相手の最も意識するであろう頭部への攻撃と意識していない下半身への攻撃をほぼ同時に行いながら、相手の態勢を崩すといったものだ。


 騎士団長はそれに見事に嵌まり、俺が反撃の手をみせた瞬間、意識しているところは防御できたが、意識していない下半身、それも足先への攻撃が命中し、走る力も利用されて大きく宙を舞ってグルリと一回転して地面に転倒する。


 今のは足のつま先をほんの少し小突かれただけだから大した痛みは走らない。

 だからこそ、相手は何が起きたのか理解出来ず、一瞬ポカンとして呆けてしまう。


 そんな状態で受け身など取れるはずもなく、重たい鎧を纏っているため、派手に転倒すればその衝撃で内部が強く痛めつけられる。


「っがはぁ!?」


 背中から落ちたことにより肺の中の空気が一気に押し出され呼吸困難に陥りながらも、すぐさま起き上がろうとするが、それよりも早く俺は騎士団長の無防備となっている顔面に拳を叩き付ける。


「っごべぇ!!?」


 鼻の骨が砕け、歯が何本か吹き飛び、血を吐きながら床に沈み込みあっけなく意識を失った。

 なんらかの魔法でも使ってくるかと警戒してたから念の為に術式も使用せずに武術で相手したというのに……、まさかの1発ノックアウトで終了とは。


「よほどこっちを甘く見てたのか?まあいいや、みんなも倒し終えたようだし……」


「「「「おう!」」」」


 周りを見れば襲い掛かってきた騎士団連中を全員返り討ちにした光景が広がっていた。

 念の為倒れた騎士団連中を目で見た渡したが、悪意や敵意が消えている。完全に意識を失っている証拠だ。

 部屋の中にいた執事やメイドも壁際で怯えてうずくまっている様子からして、もう横槍は入ってこないだろう。


「さて、なら後に残ってるのは……あんただけだな」


「ひっ……!?」


 一瞬の間に騎士団が制圧されたことにビビった王は即座に逃走を選択したようだが、何故か部屋の扉が開かずに立ち往生していた。

 原因は十中八九、陰で事の顛末を見守っていた叶多の術式によるものだろう。


「聞かせてもらおうか。あんたらが何を企んでいたのかを……」


「…………」


 ガン!と王の顔のすぐ横の壁を蹴りつけて恐怖を与えると同時に逃げ道を塞ぐ。

 そのままずいっと顔を近づけて黙秘する王にもう一度問い詰める。


「面倒くさいからこれで最後にしよう。お前らの企みを全て噓偽りなく吐け」


「……っ、我々は異世界から召喚した者らを隷属させるつもりだった。あの腕輪はそうした魔法を付与しており、着脱は腕輪の製作者のみが出来る」


 俺の言葉が脅しの類ではないと悟った王は素直に白状した。悪意を見抜く目からも今の言葉に噓はなく、予想通りの展開に溜め息まじりに息を吐く。


「その腕輪の製作者とやらは……?」


「最初に貴様らを案内した男だ」


 なるほど、宮廷魔術師と名乗っていたことから、この手の仕事はあの爺さんが担当してるってわけか。

 だとしたら、ここにいないのは何故だ?他にも仕事があったからか、それとも万が一にも腕輪を嵌めた後にその危険性を察知した者が襲ってくると考えたからか。


 どちらにせよ、早急にあの爺さんをひっ捕らえねえと面倒なことになりそうだ。




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