ホラゲーキャラ、異世界に転移します
この世界に転生して既に何年もの時が過ぎた。
現在の俺は高校3年生になったばかり。そう高校3年生!つまるところシリーズ1をクリアしたということになる。
ゴーストランペイジのシリーズ1は前回では語らなかったが、ストーリー中に主人公達のクラスメイト30人中21人がチュートリアルイベントで強制的に死亡することになっている。
そして、残りの9人もイベント次第で7人は死亡したりすることもあるが、シリーズ2にはトゥルーエンドの9人全員生存ルートで進められる。
だから、シリーズ1が終了したなら、このクラスに残っているのは本来は9人だけとなっている。
はずなのだが……、
「おはよー!」
「昨日の宿題やってきた?」
「バッチリよ!」
クラスメイトは全員無事に生還している。
これは俺の多大な犠牲を払ってようやく掴み取れた成果だ。
語ろうとすれば小説1冊分ほどの濃密な冒険譚になるだろうから割愛するがな……。
とにかく、このクラスの面々は誰一人として死んじゃいないし、その兆候もない。
「天神君、おはよ~!」
「よっす!天神、おはようさん!」
「あの、天神君。お弁当持ってきたので、お昼休みに一緒に食べませんか?」
「ねえ、天神。私も弁当作って来たから、お昼は私も一緒な!」
そして、今現在の俺はこのクラスでも中心的な立ち位置に立っている。
それはシリーズ1でクラスメイト全員を助けたこともそうだが、原作知識でこれから先に起こりえる未来を知っているからというのが大きい。
もう既にクラスメイト全員は俺が転生者で、この世界がゲームの世界であるということは周知しているし、これから先の未来で強大な敵と戦うことも当然のことながら知っている。
普通はそういった事実は混乱を招く恐れがあるため隠すのが定石ではあるのだが、あいにくとそんなに器用ではない俺はそんな事実を隠しながらみんなを守れる自信が無かった。
だから打ち明けることに決めたのだ。そしてみんなはそれを紆余曲折ありながらも受け入れてくれた。
なによりも、このクラス内で俺が最強の実力の持ち主であるということが主な原因となっている。
今さっき俺に挨拶してきた4人はチュートリアルで死なない、いわゆる主要キャラだ。
上から話しかけてきた順に紹介していこう。
まずは天童 つかさ、こいつは見た目ギャルゲーにいそうな親友キャラであるが、その中身はいざとなったら1人で逃げ出す臆病者。
ゲームでもこいつはマップの見つけにくい場所に隠れており、ストーリーの章が開始されるごとにマップの何処かにすぐ隠れる厄介者だ。
トゥルーエンドを目指すにはこいつを悪霊や妖怪に追い掛け回されながら毎度探すという手間があるために、何人のプレイヤーがトゥルーエンドを投げ捨てたことか……。
まあ、普段は気のいい愉快で人付き合いが上手い奴なんだけどもな。
そして次に紹介するのは狗巻 アキラ、こいつには少し暗いエピソードがあって、幼少期に火事に巻き込まれて右手に火傷を負っており、それが原因でイジメにあっていた。
っが、それも小学生までで、桐生と轟に中学から出会ったお陰で、それ以降はイジメにあわずに済んでおり、2人には多大な感謝をしている。
見た目は右手に火傷を隠す包帯を常に巻いており、黒髪の小柄な感じ。冬はマフラーで口元を隠し、夏はマスクで隠しているが為に、中二病と勘違いされがちだが、実際は人と面と向かって話すのが苦手なゆえに、顔の一部を隠していなければ会話が出来ないというだけのことだ。
そして残りの2人、柳 清子と佐藤 美奈子。
柳は茶髪の眼鏡っ子で委員長。スタイルは控えめだが顔立ちは美人。眼鏡を外せば切れ長な目が特徴的になり、プレイヤーからは眼鏡有りと無しのどちらがいいかの議論の対象となっている。
佐藤はギャル風のヤンキーっぽい女子。髪は金髪で耳にピアスを付けており、男子高校生ならつい目で追ってしまう程の巨乳の持ち主だ。
これでも家庭的な一面を持っていることから、一部のプレイヤー達はママと呼んで甘えていた。
さて、この2人はなんだ……、まあ、端的に言えば俺に惚れているのだ。
以前までの俺ならば女子……それも2人同時に好かれるという展開なんて夢のようだと舞い上がっていたのだろうが、今は違う……。
なぜかと問われれば、実を言うと今の俺の精神はかなりボロボロに擦り減っており、様々な感情の欠落を起こしているからだ。
シリーズ1で強制的に死ぬ運命だった筈のクラスメイト全員を生存させる為に無茶した結果でそうなっている。
無茶をするに至った主な原因は単純なレベル不足にあった。
いくら俺がゲーム開始前に最強の味方である天ノ海 叶多と共に修行したからとはいえ、そう簡単にレベルアップなぞするはずもなく。
そもそも、ストーリーも始まっていないため、強い敵キャラも湧いて出てこないので、ずっとスライムを相手にしていたようなものだ。
そんなものではいくら時間があろうとも大きなレベルアップは見込めない。
だから俺は叶多に思い切って聞くことにしたのだ。犠牲を払ってでも短期間でパワーアップする方法はあるのかと?
結論をいえばそんな漫画的な便利な技は存在しなかった。
だが、外法と呼ばれる肉体を活性、強化させる技術は存在するようで、その技術と俺の持つ原作知識の合わせ技でお望み通りの短期間パワーアップ技を手に入れた。
だがこれは肉体と精神を大きく擦り減らすもので、肉体に関しては叶多の助力もあって後遺症がほとんど残らないレベルまで回復させてもらえる。
しかし、精神はそうはいかず、たった1日で何度も使用してしまったが為に、ただでさえ修行で悪霊と戦い擦り減っていた精神性がバグって恐怖や怯えなどといった負の感情に鈍感になっている。
本当ならばこれは取り乱すような惨事なのだろうが、生憎と今の俺はそれすら知覚できないほどに精神が摩耗している。
いや、あるいは心のどこかでこれでよかったのだと納得しているのかもしれない。
原作が始まったあの時もそうだった。以前から実戦は繰り返してはいたが、所詮は低級の悪霊との戦いが精々のお遊びみたいなものだ。
真に命を賭けた戦いではその空気に飲まれかけたりもして、手足がやけに重く感じいつも通りの動きができずにいた。
だが、そんな俺を支えてくれたのは既に短くない時を過ごした叶多の存在だった。
叶多は恐怖で動けなくなりそうな俺の傍に近寄って、そっと今までの頑張りや勇気を入れる言葉を囁いてくれた。
それだけじゃない。本来ならばここが危険な場所だと知らせて回避させることもできたクラスメイトの悲鳴が俺の心を奮い立たせたのだ。
そんな経験があるからこそ、この先の戦いで恐怖の感情に飲まれて戦えなくなってしまうという可能性が消えたことは喜ばしいものなのだろう。
けれど、消えたのは恐怖などの負の感情だけではない。恋愛感情といった正の感情といったものも消えていた。
だから、彼女たちの好意には答える術を持たない今の俺はどうするべきか……?
そもそも、ゲームでは柳さんは本来は主人公に好意を持っている設定だった。
切っ掛けはシリーズ2で発生する敵との戦闘イベントでの救出シーンだ。そこで柳は主人公である桐生に惚れるというのが本来の筋書きだった。
けど、俺がその筋書きを書き換えてしまった。シリーズ1で本来は発生しないイベント……いや、厄介事と言い換えた方がいいか。
本来ならば死亡しているはずのクラスメイトを連れて移動してしまったことで、生者の生命力に引き寄せられてやって来た無数の悪霊や妖怪との連続戦闘イベント。
さっきも言った通り、俺はまだまだ無双するにはレベルが足りてはいなかった。
だからクラスメイト全員を無傷で守り切るには実力が足りなかった。それが原因で柳を危険な目に合わせることになった。
言ってしまえば、柳が俺に惚れてるってのも、ある意味盛大なマッチポンプによるやらせのようなものだ。
そのことはちゃんと柳にも伝えたんだが……。
「そんな事は関係ありません。私が天神君を好きだって気持ちは噓偽らざる本物なんですから!」
って、滅茶苦茶いい笑顔で答えられた時は何も言い返せなかった。
本当に、俺にまだ恋愛感情が残っていれば絶対に堕ちていたぞ……。
佐藤の方も同じ理由だ。こいつはゲーム内では恋愛要素が無かった筈だったが、俺がシリーズ1で頑張りすぎた結果、いつの間にか恋愛フラグが立ってしまっていたようで、こうして弁当を持って来てくれる仲にまでなった。
そんな現在、俺は2人の好意に当たり障りなく答えながらずるずると友人関係を引き伸ばしにしており、他の男子からは嫉妬の目線や、女子からは早くくっついちゃいなさいよ!との視線を叩きつけられる。
だけども、自分自身に相手に対する好意がないのに付き合ったりするのは申し訳がない。
いや、そういう言い方はよそう。正直、今の俺は世界を救うという名目とクラスメイト全員を生存させるという目的以外で生きてはいない。
最初の頃にあった自分の為に世界を救うという目的が、いつの間にか俺の中で消えてみんなの為に世界を救うという目的に書き換わっていた。
そんな今の俺には彼女という存在を作る余裕がない。
俺は既にこの身1つで救えるのは限りがあると知っている。
だから、彼女なんて特別を作る気は毛頭ないのだが、それを知っていてもなおアプローチを仕掛けてくる両者。そんなんだから、一部では猛将だなんて噂されるんだ。
キーンコーンカーンコーン!
いつの間にか授業が始まる時間になっており、学校のチャイムが考え込んでいた俺の意識を覚醒させた。
教室内で騒いでいたクラスメイトは全員席に着席して授業の準備をすましている。
「それでは授業を始めるぞ」
そして授業は滞りなく進行し、そのまま時は過ぎて昼休みの時間になった。
教師が終わりの挨拶を言い終えて教室から去っていくと教室にざわめきが始まり、各々が自由な時間を過ごし始めた。
俺も昼休みを満喫しようと授業に必要だった教科書を机の中にしまい込むと同時に、お弁当箱を持ってきた2人に囲まれた。
「お腹減ったね、天神君。これ、今日のお弁当だよ」
「授業マジで疲れた~。はいこれ、今日の私の愛妻弁当!」
ドン!と机に置かれた2つの手作り弁当。美女2人からの好意100%の手作り弁当など、高校男児であれば喉から手が出るほどに欲しい代物なのだろうが、恋愛感情を失った俺にとってはただの美味しそうな弁当であると同時に、「ねえ、どっちのお弁当が美味しい?」というどちらを選んでも角が立つ選択肢を問われてしまう、非常に厄介な代物に他ならない。
っが、このままただ黙って沈黙していても状況は悪化するだけだ。
なので、俺は机に置かれた2つの弁当箱の蓋を取って中身を確認してみる。
「おお……」
柳の弁当は色彩が満載で栄養価も高そうな健康志向のものであるのに対して、佐藤のは中身は半分が茶色で染まっており、揚げ物や焼き物といった男子高校生なら喜ぶメニューばかりだ。残りの半分は真っ白なご飯である。
「なんですかこのお弁当は!?主菜ばかりで副菜なんかが一切入ってないじゃないですか!!」
「そっちこそ、なんだその弁当は?馬か兎にでも食わすのかよ!?男ってのはな、野菜よりも肉が好きなんだよ。そんななよってるようなもんじゃなく、ガツンとくるウチの弁当の方が天神も喜ぶんだよ!!!」
バチバチと視線で火花を散らすなか、俺は我関せずと2つの弁当を取って交互に食べ始める。
柳の弁当は見た目や栄養価だけでなく、ちゃんと俺の好む味付けがされている。実に美味い。
もう1つの佐藤の弁当もまた格別だ。唐揚げ、ハンバーグ、ミートボールと男が喜ぶベスト3を選ぶとは、男子のことをよく分かっていると褒めてあげたい。
柳と佐藤の弁当を交互に食し終えると、いつの間にか喧嘩を止めて2人がこっちを見ていた。
その目からはどっちの弁当が美味しかったのかと訴えかけているように思えた。
「どちらも甲乙つけがたいくらいに美味かったぞ。まあ、アッサリ系とガッツリ系だったから、味比べするには向いてないしな……」
「ふ~ん、そうなんですか……」
「天神……、そういうのはダルいから……」
当たり障りない回答に、2人は酷く冷たい視線をぶつけてくる。
確かに、この回答は優柔不断のヘタレ男の模範解答と言えるものかもしれないが、これが一番波風立てないものであると確信しているので、俺はきっとこの先も同じ状況になれば何度もこの答えを返すだろう。
プク~!と頬を若干膨らませて可愛く睨む柳と、いっそのこと襲ってやろうかという意思を感じさせる肉食獣のようなメンチを切る佐藤に挟まれながら食後のコーヒーを味わっていると、教室の床が突然光り輝き始めた。
「―――っ!!?叶多!!桐生!!」
「「おう!!」」
突然の異常事態に一瞬で反応する3人。座っていた椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった天神は床に意識をさせながら、懐に常に入れていた天ノ海 叶多の霊体が封じられている人形を術式を使用するための触媒として取り出し、即座に防御系の術式を構築する。
叶多も俺の中から霊体として現れると、両手を合わせて術式を構築する。
ちらりと桐生の方を向くと、床に手をついて自身の術式を構築していた。
その直後に感じる一瞬の浮遊感。これは悪霊によって異界に連れ去れる空間転移に近い感覚だ。
(クソがぁ!?なんだこの展開は?こんなのゲームには無かったぞ!?イレギュラー?それとも俺の知らない外伝なのか??)
内心で今の状況に毒づきながらも必死に抵抗術式を構築しているというのに、暖簾に腕押しとでもいうべきか、今も光り輝く謎の力に一切干渉出来ずにいた。
それは叶多と桐生も同じようで、それぞれ別々の術式で抵抗を試みているようだが、どちらも成功していないように見える。
そして、光がより一層輝きを増して視界がホワイトアウトするといきなり空中に放り出されたような感覚と共に俺達はこの世界から消え去った。
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