オカルト全否定少年
ルークは幼い頃からオカルトというものを信じていない。それはルークの一種のポリシーでもある。魂がオカルトというものの存在自体を受け入れないのだ。
小さい頃はまだ、オカルトの存在を信じていたものだが、今ではそれは遠い過去のことだ。
ーーこの世にオカルトなんてものは存在しない。
それはルークの絶対のルールであった。だからこそ自称オカルト部に勝手にルークを入部させたアリスには軽い殺意が湧く。
現在のルークたちは授業が終わり、ルークは校舎3階の使われていない倉庫に向かっているところだ。なんでも俺たちの今後のことについて倉庫で話し合うらしい。
ーー何が話し合うだ、馬鹿馬鹿しい! あの女、仕事が終わったら覚えてろ!
ルークは目的地に向かいながらも心の中で彼女に悪態をつく。性格だから仕方ないとはいえ彼女のわがままは目に余るものがある。
ーー一体どういう教育を施したら、あんなに自己中心的な人間が出来上がるのか?
「キ、キュ〜〜」
「キキー!!」
そんなルークの耳に飛び込んできたのは小動物の怯え声だ。鳥の威嚇声が聞こえてきているところからも鳥にいじめられているのかもしれない。
音の方向は校舎の隣にある小さな森からだ。ルークが音を頼りに森の中にはいっていく。
すると、そこには小さな白リスがいた。ふわふわとした体毛は興奮と恐怖で通常の2倍ほどに膨らんでおり、その付近には1羽の白い鳩がいた。
白リスを捕まえようとしているようだ。ルークは声を上げて鳩に近づく。
「おい、やめろ!!」
鳩は足音を消して近づいたルークの存在に今初めて気づいたのか、驚いたように空に舞い上がっていった。
そして、そこには小さな白リスだけが残される。白リスはブルブルと震えており、ルークを見るなり威嚇してくる。
相当怖い目にあったのだろう。ルークは白リスを手に持って抱き上げる。
「ほら、よしよし。 もう怖くないぞ。痛ッ」
白リスは抱き上げられるなり、恐怖からルークの右手の人差し指に噛み付いた。
「よっぽど怖かっただな。もう、怖くないから。大丈夫だよ。」
ルークは優しく声をかけ、左手でリスの背中を撫でる。
やがて逆立っていた白い毛も段々と元の大きさに戻っていき。リスはルークの指を噛むことをやめた。
ーーこの子は確か昨晩あった少女が肩に乗せていたリスだ。はぐれてしまったのかもしれないな。ここに置いていくのは心配だな。ひとまず連れて行こうか。
ルークはリスを腕に抱きながら倉庫へ向かった。
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ルークが倉庫にたどり着くともう3人は集合していた。ルークが扉を開けるなり、アリスが待ってましたとばかりに駆け寄ってくる。
「遅かったわね。 ルーク、何かあったの?」
「ああ、森にリスがいたから連れてきたんですけど、飼い主がどこにいるのかしりませんか?」
ルークはそう言うなり、腕の中にいるリスを見せる。リスはアリスを見るなり怯えたように、ルークの肩の方にそそくさと移動してしまう。
「そのリスって、アリシアの連れてる子じゃない? アリシアとはあまり仲良くないから、どこにいるのかは分からないわ」
「アリシア……」
初めて聞く名前の響きのはずだか、どこか懐かしさを覚える。ルークは任務のために全ての高等部の生徒を覚えてはいるので、少女の名前は知っていたが、いざこうして音と共に聞くと不思議な気分になる。
「隣の2組の子よ。 目が見えなくて、いつもこの子のような小動物を連れてるの。 あとで届けにいきましょう」
アリスはそれで話は終わりと思ったのか部活動に関する詳しい事情をルークたちに話す。
「まず新しい部活動を作るためには部屋と顧問と生徒が5人、必要なのよね」
ここにいるのはルークを含めて4人、あと1人足りない。
床に直接座っているアースが不安な顔を見せる。
「困ったね。 人数が足りないし、顧問もいないよ」
「そもそも私たち、参加するなんて言ってないし……」
リオンはこれ見よがしに話を進めていくアリスに不満気な顔だ。リオンとは今この瞬間だけ分かり合えるような気がする。
しかし当のアリスは無視して話を進めていく。
「困ったわね。 これではオカルト研究部を設立できないわ」
「そもそもオカルトなんか存在しませんよ。 なんの科学的根拠もありません」
ルークは我慢がならず、アリスに食ってかかった。先程から何故オカルトがあるという前提で話を進めているのかがルークには少しも理解できない。
その言葉を聞いたアリスは不思議そうに眉を寄せ、ルークの方を見てくる。
「何いってるの? 私たちの存在自体がオカルトみたいなものじゃない」
「何を言っているのかが僕には理解できませんよ。 そんなものはありません。 存在しないんです」
「え? だって貴方も能力を認められてこの学校に入学してきたんでしょ? なのになんで信じられないの?」
アリスはルークの2度目の発言にとうとうわけが分からないという、顔をする。隣に座っているアースも首を傾げており、リオンは猜疑に塗れた目でルークをじっと見てくる。
ルークは何かおかしなことを言ったのだろうか?ルークは白リスを撫でながらも気分を落ち着かせる。ふわふわの触り心地のいい毛皮は苛立っているルークの心を癒してくれる。
「もう、黙ってちゃ分からないでしょ。 信じられないんだったら見せてあげるから」
アリスは一言そう言うと、机の上に置いてあるペンに向かって片手を伸ばす。数秒経つとそのペンは空中に浮き上がり、まさに入学式での時の背景と同じ現象が起きる。
しかし、ルークにとってその光景はなんの新鮮味も驚きもなかった。
「そのマジックはもう見たことがありますよ。 僕は同じ手には2度とひっかかりませんから」
「え!? よく考えてみて!! ペンが空中に浮いているのよ!! 少しは疑問を抱きなさいよ!!」
「疑問? ないと確定してるものに何故疑問を抱かなくてはならないんですか?」
はっきり言ってアリスの言っていることは意味が分からない。これだから人付き合いは苦手なのだ。
他人との意見の違いはいつだってルークに多大なストレスを与える。
「貴方って馬鹿なの!? それか暗示でも受けてるんじゃないの?」
「暗示……。 聞いたことがあるよ。 10年前に超能力を持つ人間の正体を世間に隠蔽するために超能力者による暗示が大々的に行われたらしい。どれくらいの人がその暗示にかかっているのかは不明だけど」
「それを受けた人は、どんな衝撃的な映像を見せられたってそれが超能力によるものだという思考にすら至らないらしきわ。 便利なものよね」
「そ、そうだったの。 ごめんね、ルーク。 貴方ってとても可哀想な人だったのね」
アースとリオンの説明を聞くなり、アリスはまるで腫れ物でも見るような目でルークのことを見てくる。その瞳には心からの同情と謝罪が混じっていた。
ルークはその目を見て歯痒い気持ちになる。まるで自分だけ話から置いてきぼりを食らったみたいだ。
「君たちは漫画やアニメの見過ぎですよ。 現実にフィクションを持ち込まないでください」
「ルーク、気にしなくても大丈夫よ。 いつか貴方にも自分の能力が本当にあるんだって、受け入れることができるわ。 アースとリオンも能力を見せてあげたら?」
「見せても無駄だよ。 暗示にかかっている人間にはどんな光景を見せたって、それが超能力であることは分からない。 まぁ、説明だけしとくと俺は透明になることができるよ」
「私は人の心の声を聞くことができるの。 昨日、貴方の心の声を聞いておくべきだったわ。知っていたら、部活動の紙なんて渡さなかったのに」
アースとリオンまでもがフィクションの話に耳を傾けている。
ーーこの学校にはオタクしかいないのか?
思考に耽るルークにアリスが歩み寄ってくる。
「私がいつか貴方の暗示を解いてあげる。 自分で自分の能力を否定するなんて悲しいもんね」
彼女のはそういうと満面の笑みでルークを包んだ。