2部活動決定!!
ルークは部活動の用紙を提出すると寮に向かって下校していた。部活動の見学はそれはそれはひどいものだった。アリスの希望で全ての部活に見学に行かされたので、夜遅くになってしまった。現在の時刻は深夜23時だ。
常に妹に腕を組まれているアースは肉体の限界が来たのか途中で倒れ、保健室に運ばれてしまう始末だ。
部活動の種類は他の学校の部活とはだいぶ違っていた。まず、野球部・サッカー部・卓球部・テニス部・バトミントン部・バレー部・バスケット部・陸上部・吹奏楽部・美術部、ここまではどこにでもある普通の部活だ。
しかし後半の部活動の内容がおかしい。初めに食レポ部・バイク部・漢字部・スカイダイビング部。
「ユニークな部活が多かったな……」
ルークはため息をついた。
他の学校や学園では見ない個性的すぎる部活動がある。もちろんルークは一番体力と時間を使わない美術部にすることにした。これでも幼少期は絵が得意だった。
これが帰宅部の次に楽な部活であるように思えるからだ。
その時、ルークは前から人が歩いてくるのに気づいた。小柄な少女だ。薄紫色の絹のような髪に同色の瞳を持つ可憐な少女。肩まで届くほどの髪を惜しげもなく垂らし、左髪の一房を三つ編みにしている。外見の特徴からしてこの少女はアリシア=ルイスといったはずだ。
しかしその目には光が宿っていない。杖をついているところから分かるように、彼女は目が不自由なのだ。
肩には白い毛並みを持つリスを乗せてきて、そのリスは愛らしくらつぶらな瞳でゆっくりとこちらを見つめていた。
「あら? こんな時間に人がいるなど珍しいこともあるものですね。 今は消灯時間ですよ?」
アリシアはルークを咎めるような口調で話し出す。ルークは話しかけられたことに一瞬驚く。目が不自由だと思っていたからだ。どうやってルークがいることが分かったのか?少しは見えているのか?それとも足音だろうか?
ルークはできるだけ歩いている時に足音を立てないようにしているはずだが……。
「すみません。 保険室の友達に付き添っていたら遅くなってしまって……」
「あらあら、そんなに気を遣って話さなくても大丈夫ですよ。 私は貴方と同級生ですから……」
ーー同級生って、見えているのか?!
アリシアは魅惑的な笑み浮かべると魅力的な透き通る声で話す。聴くだけで耳が癒されるような不思議な声のトーンだ。このままでは彼女のペースに巻き込まれてしまう。
ルークは少女から早く離れようと会話を急ぐ。
「申し訳ありませんがこれが素なもので……。 では、急いでいるので失礼します」
「はい。 暗いので、お気をつけて……」
ルークはアリシアから離れると寮に向かって歩き出した。うしろから自身を見据える彼女の目には気が付かなかった。
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「よーし、今日はクラスのみんなの部活動表を張り出しておくので、授業が始まる前に見ておくように……!!」
ルークたちのクラスの担任であるブラウン先生が朝のホームルームが終わるなり、黒板に部活動表を貼り付ける。
そしてクラスから出て行ってしまう。周りのみんなはワイワイしながら黒板の前に集まっていく。
ルークも椅子から立ち上がり、黒板の前に行こうとする。しかし黒板の前に佇んでいたガルクに乱暴に押しのけられるた。
ガルクの横にはラファリーがいた。
「へ、チビが!! 俺様が優先だぜ!!」
「ガルク、うるさい」
「ちっ!」
ルークに怒鳴るガルクに対し、ラファリーはあくまでも冷静な対応をとる。横暴なガルクに冷静沈着なラファリーは相性が抜群の関係だ。
ルークはやり過ごそうとする。
「すみません。 僕のことはお気になさらずに……」
「へっ、腰抜けが!!」
そしてその騒動になりかけた一悶着はそれで解決するはずだった。ある一人の発言が無ければ……。
「ちょっと、そこの貴方!! そんな言い方はないんじゃない!? ルークも言い返しなさいよ!!」
ーー最悪だ。
横でルークとガルクのやりとりを見ていたアリスが怒鳴りながら、真ん中に割り込んできた。
「あん!? なんだお前!!」
「人に言う時はもう少しやんわりした言い方があるでしょう? そんなことも知らないの?」
アリスのその余分な一言にクラスの空気が凍りついたのを感じる。ガルクはクラスの中でもヤンキー的な立ち位置で逆らうものなどほとんどいない。
それだけにアリスの発言はクラスの皆が驚くものだったのだろう。
「たしかに今のは少し大人気ないように感じたね。 元番長だかなんだか知らないけど、高校生の振る舞いじゃない」
「ガルクは身長高いからうしろの方でも見えるでしょう?」
アリスに便乗して会話に割り込んできたのはアースとリオンだった。アースは顔色が悪く、フラフラとしている。間違いなく昨日の件が原因だろう。
流石のリオンも今日は兄に縋り付かずにいる。
「たくよ、なんだよ。 みんなしてムキになりやがって。 もういい。 いくぞ、ラファリー」
合計三人に自身の無礼を咎められたガルクは舌打ちしながらも、ラファリーを連れて歩き去ってしまう。
アリスはガルクが去るのを見ると嬉しそうに近寄ってきた。
「ルークは本当は強いんだから、言い返さなきゃだめよ!」
「あ、ありがとうございます。 ご忠告感謝いたしますよ」
ーーこの女、余計なことしやがって。
ルークは心の中で彼女への悪態をつきながらも、それを表には出さない。アリスがガルクに楯突かなければこの話はそのまま水に流されていたのだ。
お陰でクラスの生徒から注目されてしまった。落ち込むルークをアリスが急かす。
「ねぇ、それよりも部活動の紙早く見ようよ」
「ああ、うん」
ルークは沸き立つ苛立ちを抑えながらも、アリスの言う通りに黒板に貼り付けられている部活動の張り紙に目を通す。そこにはこう書かれていた。
『ルーク=ウィリアムズ 部活動未定』
その文章を見た時にルークが真っ先に感じたもの、それは疑問だ。ルークは確かに美術部と書いたはずだ。
何故未定と記載されているのかが理解できない。
昨日部活動決定の紙を見ながらも昨日の出来事を思い返してみる。部活動提出の紙はアリスが三人分回収し、代わりに出しに行ってくれたはずだ。
先生が勝手に項目の内容を変えるとは考えづらいので、この原因はアリスにあるとしか考えられない。
「実は私ね、自分で部活動を立ち上げることが夢だったの。 でも協力してくれる人がいなくて、だから貴方たちの希望の部活動をこっそり変えといたの」
「え!? てことは俺たちのも!?」
「信じられない。 せめて相談するでしょ? 相談されても了承はしないけど……」
アースとリオンも、このことは初耳のようで驚いた表情をしている。ルークは頭を抱える。もう部活動提出の紙に書いたことは覆せない。ブラウン先生がそう言っていた。
ルークは慎重にアリスから詳しい事情を聞き出そうとする。
「アースたちの言う通り、ここは相談すべきなのではないですか?」
「相談したら貴方たちは断るに決まってるわ。 言っておくけど、もうこれは決定事項だもの。 変えられないわよ」
「……。 分かりましたよ。 一体どんな部活動を作るつもりなのかそれを教えてください」
アリスの勝手すぎる行動に計画が台無しになった感じはあるが、過ぎたことりとやかく言っていても仕方がない。
ルークはいつものポーカフェイスと冷静さを取り戻すとアリスに部活動について聞く。
「フフ、やっぱり貴方も気になるのね」
ーーうざい、さっさと喋れ。
「それはズバリ、"オカルト研究部"よ」
「え……」
その言葉にルークは絶句した。なぜなら、 "オカルト"とはルークがこの世で最も毛嫌いする存在であった。