当日昼前(新郎)
教会の祭壇の前で、僕はミーシェが来るのを待っていた。学園で学んだ地質学を応用して油田に適した地質を密かに調査し、他には何も無いこの地を買い取った時、こんな村すらない荒れ果てた僻地に教会を作れば招かれざる者など誰も侵入してこないだろうと思い、僕とミーシェの為だけの宿泊施設兼教会を建てることにした。
お陰で最小限の護衛と親族、教会関係者と子爵家の者のみで式を挙げることができる。護衛は全て既婚者で仲睦まじい者。関係者は高齢の者のみと厳選し、僕の側の親族へは護衛と称して監視を立てており、近場には荒れた海しかない見晴らしの良いこの地に侵入者など考えられなかった。
完全に二人きりで無いのは残念だけれど、もうすぐ僕のミーシェが僕と婚姻を結ぶ為に隣に来てくれるんだと思うと胸が詰まる想いで、最前列にいる僕を貶める家族の言動も気にならなくなっていた。
「アロイス! ミーシェルが攫われた!」
そんな時、扉が激しく開いたかと思ったら珍しく焦ったミーシェの父がそんな事を叫んだんだ。
「まぁ! やっぱりこんな醜い男と結婚するのが嫌で逃げ出したの!?」
実母が言う。
「そうに違いない。公爵。嘘を吐かなくても良い。花嫁はこいつが嫌で故意に逃げ出したんだろう?」
実父も。
「仕方がないな。最近離縁したところだし、俺が貰ってやってもいいぜ。公爵家と縁付きになれるなら傷物だって歓迎するさ」
実兄は心根はともかくとして確かに美しい——けれど。
そんなはずはない。僕はミーシェに愛されている。はじめは強引な僕の一方通行だったけれど、ミーシェは好きだと言ってくれた。一緒にいたいとも。何度もキスをしたし、嫌がってなんていなかった。でも……本当に? 果たして愛してると彼女は僕に伝えたことがあっただろうか……
「アロイス! 熟考している場合じゃない。私兵と共に追ってくれ! ミーシェルは助けを待っている」
はっとする。そうだ。とにかくミーシェの安全が第一だ。僕は式の中断を指示して急ぎ護衛兵と共に捜索に出た。
と言っても、この場所には荒地と海以外何もない。ミーシェの両親の話だと大勢の子供に連れ去られたとの事だが、そんな大人数が隠れる場所なんて……洞窟があるのだろうか? 海岸沿い、切り立った崖の側等に波によって抉れた穴があることがある。陸上は隠れる場所などない。重点的に前者を当たろう。




