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五ヶ月前(公爵)

「……どう思う? サミュエル」


「いやだ。サラって呼んでよ。

 ここは私のお店なのよ? 大体のお客が私のことを知っているからって本名は無いわ。それにここは本来ノーマルなお客様は入店お断りなんですからね。それを特別許してるっていうのに、これ以上はないわ。出禁にするわよ?」


 俺の目の前で酒を作る女性用ビジネススーツを着こなすスラリとした長身のこの男は小声で厳しいことを言う。義母姉の相手という事で調査をしたが、これで元は高位貴族の次男、成績優良で国外の大学院を出ているなど誰も信じないだろう。家を出、己の才覚だけで店をやり豊富な検知、知見に溢れ口も固く話をしても面白い。妻と同様、稀有な存在である。その為、義母姉の様子を見る以上に立ち寄ることも増えた。


「家の体面を保つ為には、それなりの式を挙げさせる必要がある。それに格差のある婚姻だ。外野に認めさせるには形式に則り対外的に十全に円満であると強く印象付ける必要があるだろう」


「そうねぇ。けれど、その婿殿は社交界に出ることを必要と考えていないようじゃない。それなら必ずしも露出する必要はないわよね」


 球状の氷に琥珀の液を注ぎこちらに差し出す。最近発明された最新の氷を作れる機器をもう導入したらしい。受け取り、揺れる水面に口をつける。冷たさに対し喉が熱くなる、ほろ苦い味も今の己には丁度良い。


「そうだ。不思議な事に子爵という位でも、あの領地は他と交わる事なく自領のみで安定し、半ば完成されている。この2〜3年の内で食物の生育も質も良くなった。街の設備も街道も整えられ、仕入れや移住で訪れる者は跡を立たない。その豊富な領地収入を半ば注ぎ込み直近で購入された飛び地の海辺では油田が発掘されたところだ。まだ設備投資は必要だが、我が家と共同開発する事となったので充分に整う上に地質調査によりリターンは確定している。益々栄えていくだろう。恐らく陞爵もされる。他領と付き合わずとも何ら問題の無い状態だ」

寧ろ付き合わない方が得かもしれん。


「油田……。知っていて購入したのなら末恐ろしいわね」

 カウンターに片腕を置き頬杖をつきつつ目を見開く。俺も報告を受けた際は流石に驚きを隠せなかった。


「子爵には先見の明があるのかも知れん。今は貴賤結婚に近しいが、油田の存在をしれば誰もそのようには思うまい。領地収入を己には殆ど使わない等得体の知れぬところもあるが、事故後唯一面会した息子も娘は納得していると言うし、存外に頑固な彼奴(ミーシェル)が良いと言うなら反対もない。……だが」


「ミーシェルちゃんかわいいものね〜 花嫁衣装みたいわよね。うちのセアラの時もとても綺麗だったわ〜 親として子の晴れ舞台は全力で用意したいわよね」


 そう。そうなのだ。ミーシェルはこと婚約、婚姻関係については頑として頷かなかったものの幼少から手の掛からない娘であった。こんな機会がなければ親として満足に関わり何かを用立ててやることも出来ん。


「家が、というより貴方がやりたいのよね〜」


「……」


「妥協して、親族だけの小規模なものにするしかないんじゃない? 規模なんてあの子(ミーシェルちゃん)は気にしないと思うわよ?」


「……」


 唇に左手人差し指の側面を当て、親指で顎を支えて目を瞑る。生死の境を彷徨った娘のたった一度の晴れ舞台の用意も満足にしてやれない等、俺は親として……


「あら、考え込んじゃったわ。まぁ、可愛い娘の為じゃ仕方ないわね。結果は変わらないだろうけど、ゆっくり悩んで諦めなさい」


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