全部まるっと
「すると本当にミーシェは僕の顔が……」
「好みです! この世界の きっと 誰よりも!」
恥ずかしい気持ちをかなぐり捨てて、アロイス様の顔がどんなに好みか続々と主張する。ついには誘拐されて知ったアロイス様の身体的特徴も懇々と好みに合致すると散々曝け出した。
「何なんですか、その割れた腹筋。浮き出た鎖骨に細く長い手に力を込めると浮く筋! けしからんですよ! よだれが出ますよ! 結婚式の時だって、危なげなく私を片手で抱き上げて最短距離だからってどうして岩山なんて登れるんですか!? ファイト一発じゃないんですよ! 常識はずれの身体能力はその細い体のどこから出てくるんですか!? この細マッチョ!!! 大好きだ!」
どうやら私の本気は伝わってきたようだ。アロイス様が全身真っ赤になっている。耳先、手の先、潤んだ瞳すら赤い。吐息すら桃色に見えるようだ。
「……それじゃあ、ミーシェは本当に僕が……」
「顔も体も性格も全部まるっと好みです!!!」
全身全霊を込めて主張した。
「……嘘みたいだ。誰に愛されなくても真実貴方が僕を好んでくれるなら、僕はもうそれだけで死んでもいい」
死ぬんじゃない!
「アロイス様私との約束! 大事な約束思い出して!!」
「……そうだね。貴方が生きてる限り、僕も共に」
やっといつもの穏やかな顔に戻ったアロイス様に私は恐る恐る切り出した。
「——それで、嫌いになりました……? 私がこんな生態で……」
自分で言って泣きそうになってしまった。
きっとアロイス様の思い描いていた公爵令嬢の私とはかけ離れた生態だっただろう。
理想との違いに私のことを軽蔑してもおかしくないです。けれどこれが現実だ。
「ミーシェ。僕のミーシェ。大好きだよ。僕は貴方だけをいつでも欲してる」
ほら、こんなに——
そう言ってアロイス様は私を寝室に閉じ込めた。がっつり三ヶ月。え? 単位がおかしくない?
☆
「それで、私はアロイス様に自分のまぁ全てをさらけだしたわけですが、アロイス様は私に話しておくことはないんですか? 例えば、全然言わないけど不満とか、不安とか、油田とか、あ、ご自身の生態の説明でもいいですよ……?」
ふわふわの布団と体温の上がったアロイス様にくるまって微睡みながら話す。天国。
「……一つだけ。どうでもいいと思おうと思ったのだけど。僕の家族との関係を」
「ああ。結婚式で私が会う前におとーさまに追い出されたという……」
「あんな家族でも、僕の拠り所だったんだ。僕はいくら貶められても暴力にも慣れているから……もしミーシェと公爵家が許してくれるなら、叶うなら関係を修復したい」
私の家族にアロイス様の家族のことは聞いていた。かなりボロクソにアロイス様のことを言ってたらしい。私のことも言われておとーさまがキレたってことも聞いた。
それでも大切だっていう。アロイス様の一度懐に入れたものへの執着心? がすごいなと思った。
「アロイス様は傷ついていないんですか? 長い間辛かったのでは……?」
「……うん。それでも、どうしても捨てられないんだ。ごめんね」
私は項垂れるアロイス様の頭を強く抱きしめて、笑った。
「アロイス様らしくて私は好きですよ! 父のことは私がどうにかするので大丈夫です。私はまだ一度も会ってもいないので、とりあえず挨拶にでもいきましょうか?」
「ありがとう。ミーシェ」
アロイス様は私の胸に顔を埋めてほっと息をついた。ずっと気にしてたんだね。気づけなくてごめんね。
数日後、手紙で約束をとりつけてから、アロイス様のお父様が治める伯爵領へ向かった。




