Prologue
活力がみなぎってくる。なんだか何でもできそうだ。こんな気持ち、生まれてはじめてだ。これが...
ここはカルティア邸という貴族の邸宅である。俺・エスティナはここの使用人。いや使用人だと聞こえが良すぎるな。より正確には奴隷同然に扱われている。他にも同じような仲間がいる。そして、主はこの邸宅の主・カルティア様だ。俺たちはカルティア様に逆らう事はできないようになっている。それが契約魔術だ。俺たちは密かにそれの解き方を探っているが全然見つからない。
そんなある日、俺は夜間見回りを任されていた。見回りをしていると、見たことのない部屋が現れた。扉の鍵はしまっておらず中に入ることができた。中には怪しい魔法陣があった。見たことのない魔法陣だが、一体どんな魔法の魔法陣だろう。そんなことを思っていると、
『汝、一体何をしに来た』
重厚な声が聞こえてきた。これほどの声なら皆気がつくと思うが、ましてやカルティア様が気づかないなんてありえない。ということはこの声は俺にしか聞こえていない。なんでだ?とりあえず聞かれたことに答えよう。
「俺はエスティナだ。この部屋を初めてみたので立ち寄ってみただけだ。教えてくれ、ここは何という部屋だ。そして、お前は誰だ」
そうすると男は答えた。
『ここは精霊の部屋といい、精霊との契約をするところだ。この部屋に入れるのは選ばれし者のみ。そして私は炎の大精霊・スティルである』
炎の大精霊・スティルか。どうやらこの魔法陣はスティルと契約するための魔法陣のようだ。
『ではエスティナよ。我と契約しないか。なに、奴隷にされるときに使う契約魔術とはまた違う。我とそなたが一心同体になる精霊契約だ。さあどうする』
「俺はもうすでにここの主のカルティア様に奴隷として契約魔術をかけられているんだ。だからできないと思うが」
『人間の魔術など解くのは容易いことだ。人間の魔術ごとき解けなかったら大精霊などと呼ばれておらぬ』
スティル曰く、人間<中級精霊で人間=低級精霊らしい。つまり、人間は弱いらしい。
『人間は弱い。ただ精霊契約をしたやつを除いてな。そいつのことはそのまんま精霊使いと呼ばれているのだ。精霊契約では人間だけでなく精霊も強くなる。ともに強くならないか、エスティナよ』
どうしようか。たしかに今のまま一生奴隷は嫌だ。だからといって見つかって処刑されるのは嫌だ。でもスティルとなら追手が来ても追い払えるのではないだろうか。なら得をしよう、精霊契約で強くなって、憎ったらしい貴族共に下剋上してやる。
「ああそうしよう、スティル。ともに強くなろう。そしてなろう、世界最強タッグに」
『これで交渉成立だな。ではエスティナよ、前の盤面に書いてあるのを読んでくれ』
盤面ってこれのことか。
「ー我の心と通じ合う炎の大精霊よ。今、我と契約し、その真価を発揮せよ。精霊契約!!!」
そう叫んだ瞬間、床の魔法陣が輝き始めた。そして、活力がみなぎってくる。なんだか何でもできそうだ。こんな気持ち、生まれてはじめてだ。これが精霊契約。
『これで契約完了だ。ついでにあれをあげよう。左にある箱を開けてみろ』
言われた通り開けてみると中には本と杖が入っていた。
「これはなんだ?」
『それは精霊魔法の魔導書とそれを使うための杖だ。それをそなたにあげよう』
「いいのか。ではいただく」
見てみるとかなりの高等魔法の詠唱が書かれていた。
『そなたの魔法力は契約の際に跳ね上がっている。この程度の魔法、簡単に扱える』
たしかにそれなら活力がみなぎってきたのも納得がいく。これで俺は精霊使いになったのか。
ある日、俺は屋敷からの脱出を試みた。この日のために磨き上げてきた力を使って。自分のステータスは本の1ページ目に書いてある。
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|名前:エスティナ |
|契約精霊:スティル |
|体力:870 |
|魔法力:1037 |
|攻撃力:280 |
|防御力:420 |
|得意魔法:精霊召喚 |
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これはかなり強い。そこらへんの騎士なんか弱っちいと感じるくらい強くなっている。さてそろそろ脱出しますか。
「ーこの世の光よ。我を照らさず、隠したまえ。シャドム」
シャドムは光を捻じ曲げ、身を隠す魔法。だから何にもぶつからず、誰にもぶつかりさえしなければバレずに脱出可能ということだ。まっ、そんな簡単には行かないけどね。出口付近でカルティアが待ち構えていた。カルティアは気配感知の魔法が使える。さすがの俺でも気配遮断の魔法までは使えない。だがカルティアと戦えるだけの力はある。さらに自らタイマンを張ってくれた。
「ー炎の力よ我に力を貸たまえ。フレア!!!」
この程度は躱せる。こちらも攻撃しますか。早いうちに片付けたいので早速あいつを。
「ー我と契約した炎の大精霊よ。今その姿を現せ。精霊召喚!!!」
スティルの見た目は赤いドラゴン。だが、迫力はどんなドラゴンにも負けない。
「なぜ...だ。なぜお前が大精霊を...」
「我が相棒をお前呼ばわりする奴は何人とも許さん!くらうがいい、フレイムウォール!」
「グッ...」
「さあ背に乗れ」
こうしてようやく脱出は成功し、俺たちの旅が始まった。そう、エスティナとスティルの波乱の下剋上が始まった。