モーニングコーヒー
「はっ、いや、違う違う!そうじゃない!なんで、ブカブカのシャツしか着てないんだよ!?」
豊かな胸元やシャツの裾から覗く健康的なふとももとか目のやり場に困るんだよ!
「んー、これしか持ってないんだよ。元ご主人様の着替えだからね。それにー?ユウはボクみたいな子には欲情しないんだよ、ね?」
魚を飲み込んだリゼルーナがそう説明してから、わざと胸元を強調するように胸を張ったり、足を組み替えたりする。
「このガキがっ!」
「わー、怖いー、襲われるー」
俺が拳を握ると棒読みで怖がる振りをするリゼルーナ。
「誰が襲うか!はぁ……そろそろ寝るぞ」
「はーい」
テントに入り横になり目を閉じるが、まったく眠気が来ない。
「ねぇユウ。起きてる?」
「あ?あぁ、起きてるぞ」
背中を向けていたリゼルーナから話し掛けられてそう返す。
「寝れそうにないから、手を繋いでくれない?」
「あ?まぁ、それくらいならいいが。ほら」
体勢を反対側に変えて手を出すとリゼルーナが俺の手に小さな手で握り返しくる。
「ありがとうユウ。ふふ、ユウの手は大きいね」
「そうか?そんなことはないと思いますが」
「これで安心して眠れそう。ありがとうユウ」
そのわりには寝そうな素振りを見せずに俺をじっと見るリゼルーナに、逆に気を遣われたと気付いた。
「リゼルーナ、お前「リゼ」あん?」
「ユウにはリゼって呼んで欲しい」
「……分かった。おやすみリゼ」
「うん。おやすみなさいユウ」
不思議とリゼの手の温もりが俺の手から伝わってくると眠くなってきた。
意識が落ちるまでリゼが俺を優しく見守っていてくれた気がした。
「んん……」
前髪を誰が触ってるような気がして、俺は薄っすらと目を開ける。
「あ、起こしちゃった?ごめんごめん。あまりにも可愛い寝顔だったから」
「……リゼ。何度か言おうと思ったが、男に可愛いはやめろ」
「やだ」
「即答かよ!?お前は「はい」あん?これは珈琲か?」
リゼが手渡ししてきたカップには黒い液体が注がれていて白い湯気が立ち昇っていた。
「そうだよ。嫌いじゃないよね?」
そう言うとリゼは自分の珈琲を一口飲む。
「あぁ、嫌いじゃないが……苦い」
一口飲んだが苦味に渋い顔になる。
「あれ?ユウってブラックは苦手だった?えーと、待っててね。はい、どうぞ」
「あぁ、ありがとな」
アイテムボックスからシュガーポットを取り出したリゼから受け取り、砂糖をたっぷりと入れて掻き混ぜて飲む。
「ふぅ、これなら美味いな。なんだ?」
「やっぱり可愛いなぁって思っただけ」
ニヤニヤと笑うリゼにそう聞くと、そう返された。
「……うるせーよ」
「あ、忘れてた」
視線を外して珈琲を飲む俺にそうリゼが言ったから視線を戻す。
「おはようユウ」
「……あぁ、おはようリゼ」
異世界生活二日目の朝が始まる。
「さて、どうするか……」
朝食と野営の撤去を済ませた俺達はリゼの案内で森を進むが、俺はリゼの後ろ姿を見ながら思案する。
「ん?何か心配事でもあるの?」
振り返った際に植物の枝がリゼのシャツの裾に引っ掛かり下着がペロンと捲れる。
「ぶふっ!?リゼ!見えてるぞ!」
「ボクの全部見たじゃんか。今更、下着くらいでどうしたの?」
「誤解を招く言い方はよせ!アレは事故だ!!」
そう自分の姿に頓着しないリゼについてだ。別にリゼのこんな姿を見られたくないとかじゃなく、怪しい男がこの格好のままの女の子を引き連れているのは面倒事に巻き込まれ可能性があるからだ。
そう全ては俺のためだ。しかし、都合良く衣服が手に入る手段がないよな。
「静かに」
そうリゼが真剣な表情で辺りを窺う。
「……この先で誰が争ってるみたいだね。どうする?」
争いを回避する為に避けて進むか、危険を承知で関わるかってことか。
「はっ、恩を着せる相手がいれば交渉も楽だろ?」
「素直に心配だから行こうって言えばいいのに」
「勘違いすんな!行くぞリゼ!」
呆れるような様子のリゼにそう返し二人で頷き現場に向かう。