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 雨の日の午後。校舎の2階へ上がり、大学受験を控える生徒が(たむろ)する廊下を抜けた先の誰もいない薄暗いトイレ。そこが教室で居場所のない彼の唯一の居場所だった。この世で最も便器に座る姿が板に付いた男は、母親が作ってくれた弁当を機械的に咀嚼する。味なんてしない。無味無臭の餌を胃に落とし込みながら指紋だらけの画面を眺める。SNSに目をやるが、特に面白くもない。それはただ、孤独から逃れるための作業であった。肩に視線をやると、紺色の制服に似合わない、細かい半透明の粉が散らばっている。もともとフケが出る体質なのだが、最近は悪化していた。軽く払い、くだらない発光の電子機器に目を落とす。不衛生なトイレを舞う埃と不快な臭気だけが彼と永劫の時間を共にする。そこには雨音さえ届かなかった。


 授業開始にぎりぎり間に合うように彼は巣を出た。自分を除いた同じ教室の中の他人(クラスメイト)同士が話していると惨めさが際立つからだ。重い足取りで薄暗い廊下を進む。蛍光灯の明かりさえ彼を照らしてはくれない。彼の腐敗した牛乳と干し椎茸の臭いがする口からは、大きなため息が漏れた。人で溢れかえる賑やかな廊下も、彼の周りだけは雨音が響く。学校は地獄であった。江戸川乱歩がそう言ったように彼にも同じ世界が見えている。ただ彼は孤独から何も生まず卓上の妄想を、吐瀉物を煮込んだヘドロのような脳内で繰り広げるばかりだった。彼が歩を進めれば人の海が割れて道ができる。彼は床の染みを目でなぞりながら、一人で苦しい荒れ野の旅を続けた。


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