第77話 朦朧(もうろう)とした夢
───ドアを蹴破り、煙が充満した室内に誰かが入って来た……。
(ああ……)
音に反応し、キャサリンの視界は白濁色に染まり、クラクラと朦朧としていた。
───キャサリンッ!!キャサリンッ!!……。
入って来た奴は必死に叫んで安否を確認するように尋ねてくる。入って来た奴の姿は、視界は薄くなったミルクのような白濁色にボヤけ、分からない。ついでに声の音も濁っており、うまく聞き取れないし、言葉を返す力も無い。
そしてキャサリンはプツリ………と、1本の糸が切れたかのように。
───誰だ?………意識が……。
キャサリンは、スッと意識を失った……思わず自分は死んだのだな……と、キャサリンは自身の行いを嘲笑しながらも覚悟していた。ただのヒーロー気取り、その場の勢いだけで人に親切した挙げ句、中毒症状に陥っての死亡。まず、行かなければ死ななかった……。最期はダサい………と、呪うのである。
★★★★★★
私は死んでしまったのか……広大な金色の麦畑のような世界、キラキラと黄金の粉塵が空中に広がる……。金の粉塵は、人生の走馬灯、まるで生きてきた記憶を精算されているような光景である。
そして、キラッと光が広がる。
(あっ………)
キャサリンは目を覚ました。ここは、あの世か……そうか死んでしまったんだなアタシ……。小さな女の子のキャサリンを、大きな背中をした男性にオンブされ、帰り道を歩いていた。夕刻の町並み、茜色の空が広がる。すると大きな背中をした男性は穏やかな口調で話しかける。
───起こしちまったか、キャサリン?……。
低い声をした男性は尋ねる。
(パパ?……)
キャサリンは瞳を擦る。すると男性はさらに説明する。
───お前、公園で寝ていたらしい、帰りが遅いから、迎えに来たんだ……。
低い声の男性は答えた。
(パパの背中……)
キャサリンは暖かく、頼りがあり、父の大きな背中で寝静まる……。
───〈城下町・中央市場〉───
───パパッ!!パパッ!!
次の夢、少いさな女の子キャサリンは、徴兵されるパパに手を伸ばす。行かないで、行かないでパパ……と、女の子は声を枯らして訴える。しかし、届かない……パパ、パパ……と、ひたすら、喉が枯れるまで、叫ぶ。
───辺りは怒号が地鳴りのように響き渡る。銃弾の嵐に、次々と倒れていく兵士達……。
───すまない、キャサリン……。
パパの姿は小さな女の子キャサリンから遠退き、そして……断末魔の叫びが響き渡り、ドサッと戦死体が、地面に転がる……。




