ある少年の昔の日常話
黒く塗られたリビングの景色、一人の主婦が主人に平手打ちで殴られ、転倒した……。ごめんなさい、ごめんなさい……と、主婦は何度謝っていた。
主人は酒瓶を振り回し、主婦に罵声怒声の嵐、さらに蹴飛ばし、髪を掴み、罵声。
あるとき……。
当時、学校から帰ってきた18歳の黒塗り姿の少年は、ドアのすき間から異常な日常を眺めていた。リビング中は酒瓶、ワンカップ、競馬新聞、ごみ袋が散らばり、異臭が充満していた……。
家に帰ったら暴力を振るわれている主婦。
家に帰ったら競馬、パチンコで負けて暴れる父親……
家に帰ったら……何か暴れていた……。
そんな毎日である。
───数ヶ月後。
(………)
いつものように、学校なら帰ってきた黒塗りの少年は目撃し、カバンをドサッと落とした……。その光景を見た少年は、まるで世界が崩壊したような気持ちになる。少年にとっては精神的な支えであり、また主婦にとっても心の拠り所。しかし、主婦は逃げ出したい気持ちに負け、この日常から脱落してしまった……。
───……。
主婦は、リビングの天井にロープを引っ掛け、首を吊っていた。ギチギチ……と、しめ縄の音が生々しく沈黙された空間に響き、瞳孔がヤバイ方角を向いた主婦の骸を吊し上げる。
母が死んだのは、父親がパチンコに行って不在の時だった。
それからは、簡単に流れは変わった……。
母が死に、暴力の矛先は少年に向けられ、食事中、酒に酔った父親は上機嫌な様子で最初はチクリと刺す発言、次は嫌みな発言、その次は暴言、決まって最後は暴力に発展していた。
おい、宗平
何故か機嫌の悪い父親は、横柄な姿勢で尋ねる。
(…………)
少年に少年は自己防衛の為、無視したが……。
テメェ、父親に向かってッ!!
父親に逆上され、居間に連れてかれ、ボコボコにされる。頭やお腹を身体を丸めて守り、その状態の少年を踏みつけ、蹴飛ばし、罵声怒声。
お前は母親に似てグズでノロマ、何にも出来やしない……何にも出来やしない……お前には、何にも、出来やしない……
クソ親父の声。自身を神様のように少年の意思を踏みにじり、破壊していく。
───気が済んだのか、クソ親父がテレビを見ている隙に、アザだらけの少年は、台所のテーブルに置いてある灰皿を手に取る。
少年の心に、何かが燃え盛った……黒く、赤く、そして青い炎が憎しみとなり……。
息を殺し……
足音を立てず……
テレビから流れる音で気配を消し、そして……ゆっくりとしたスピードでクソ親父の背後に迫り、そして降り下ろす。
言葉にならない憎しみ、悲しみ、怒り。全ての気持ちを1つに、鈍い音が頭部を破壊し、空中に血が広がり、床にぶち巻かれる……。




