プロローグ
───その日の夕方………しとしとと降り注ぐ雨の中、1人の少年が死んだ。
少年の名前は、山下宗平。黒髪、亡き母譲りの優な瞳。体格は中肉中背の身長の175センチ、高校3年生の男だ。普通車に轢かれ、ズタズタに破れた衣類、全身の骨は複雑に破壊され、痛みすら感覚は無い。うつ伏せに倒れ伏し、地面に降り注ぐ雨水は少年の骸に広がり、瞳孔は蝋人形のように開いている……。
遠退く意識の中……
少年は走馬灯を浮かべる。
───1時間前。
家の中、雷の轟音が鳴り響き、稲妻の光が一瞬で広がる。稲妻の光にピカッと照らされ、うつ伏せに倒れているのは宗平の父親。頭部から血を流し、死んだ魚のように瞳孔が開き、ピクリとも動かない……。
かつての父、クソ野郎の肉を見て。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
宗平は荒々した息を上下。恐怖と紅潮がグチャグチャに交配した感覚に支配され、右手には血の着いたガラス製の灰皿……。何故なら本来の性格ではないからであり、人を痛めつける気性はないからだ。自分で言うのもアレだけど、人見知りで不器用でそして……心やさ……
───遮断するかのように……稲妻の光は、宗平の表情をピカッと照らす。頬には返り血が広がる……。
よくある話、宗平はこれまで父親から虐待を受けていた。暴力、暴言、モラハラ……。機嫌が悪ければ殴られ、無視をすれば暴力、暴言、モラハラ。 馬鹿みたいに酒に酔い、機嫌が良いと思えばチクリと一言、次は暴言、最後はいつも、狂ったように物に当たり、宗平に暴力だ。
母親はどうしたかって?
───母親は……1年前、クソ野郎の家庭内暴力で気が病み、自殺した……。
それから、月日は流れ……。
───ッ!!
殺してしまった……。殺してしまった………との恐怖心に支配され、宗平は家を飛び出し、雨の中を走る。
自分が住んでいる地元は田舎である為、人気無い林道が広がり、一軒家の団地が並び、バシャッバシャッと水飛沫、足音が響き渡る。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
坂道を登り、宗平は車道に立ち止まる。全身をプルプルと震わせ、少しづつ………少しづつ息を整え、グチャグチャとした気持ちが晴れ、自身は正気を戻していく………ゆっくりと……消炎していく炎のように……。
これから、どうすれば……まずは警察に自首し、虐待されていたと話せば、罪は色々と……。
────ッ!!
正気を戻した同時だった……。宗平の横、距離は数センチに普通車が接近し、轢き飛ばした……。まず、避けきれない。超人でもない限り、反応できない。
───以上がこれまでの話だ。