1:想定している訳がない
8/27全体的に見直して細かい所修正しました。
……あれ?
死んだ、よね。
首をさすってみる、当然とばかりに胴体とつながっている。
そもそも体を動かせているし服装は平時に愛用していた物に変わっている。
「死後の世界なんて、そんなの予想してなかったぞ……」
ただし今のボクは生身ではない、所謂、魂だけの状態だ。
肉体を失ったと言う状況なので生物としては死んだようなものだけれど。
あの置き土産を成功させる為に全部を注ぎ込んだはずなのに。
「どうしてこうなった」
さっきから思わず声に出してしまうくらい現状を把握できていない。
とりあえず周りを見回す。淡い光が満ちていて白く果てがどこだか分からない空間が続いている。
いやー流石にどうすりゃいいんだ?
こんな何も無い所で魂だけでどうしろと?
「あー……でもやっと自由になれたってことかな」
その場に大の字になって寝転がる。
どうしろって言うんだよホント。
このまま一眠りするのもいいかな、さっきまで座りっぱなしだったし横になれるって素晴らしい!
よし先ずは惰眠を謳歌しようそうしよう。
『悪いねこんなところにほっぽって』
寝ようとしたボクの視界に陰が差す。あと声が頭の中で直接聞こえる。
知らない女の人がボクを見下ろしていた。
何処かぽやっとした雰囲気をしているがぱっと見で美形な人だなって印象。
『さてとココじゃなんだし移動しよう』
差し出して来た手を思わず取る。
一瞬にこりと笑うと周囲の景色が変わる。
白い空間から周囲に大量の本棚に囲まれた室内。中央には作業をするための物か木製のどっしりとした机がある。
『おっと、お話するならこっちの方がいいね』
机の前にソファーが2台向かい合った状態で現れる。
出した本人はささっと座ってしまい、ボクにも座るようにと促してくる。
展開について行けていないので今更拒否をするのも悪いよなぁ。
「失礼します」
なんとなく断りを入れてから座ってしまった。
そんなボクを苦笑しながら見ている女の人。
改めて見る、白く長い髪に透き通るような白い肌、垂れ目で紅い瞳をしている。
服も白を基調としたシンプルな物で清潔感があった。
『畏まらなくていいのに』
「えと……」
『あ、自己紹介まだだったね。ごめんごめん誰かと話すってことあまりないから忘れたよ』
失敗失敗と言いながら背を伸ばして咳払いを一つ。
頭に直接聞こえる声は、普段肉声で会話をしていないからか?
『私は九十九ノ九番、九十九でも九番でいいよアザミ君』
「九十九さん、ですか。ボクは」
『そうそう。あ、君のことは知っているからいいよ』
そうですよね自己紹介もしていないのにボクの名前を呼んでるし最初から知ってる風だし。
『私はね君たち世界から見たら上位次元の存在なんだよね』
爆弾発言だよ。
「は、えぇ?」
え、神様的なやつですかそれは。いや確かにさっきからそれとなく彼女の実力を探ろうとしているんだけど全く分からない。
強そうではないけれど決して弱いはずもない、ボクでは届かない存在だと感じている。
『そうだねぇ、君たちから見れば神様とも呼べ位の力は持っているよ。でも私たちは基本的に世界を観察しているだけなんだよね』
「観察、ですか」
『うん、人の進化の可能性とか条件をね、探しているんだよ私たちは。ま、常時はり付いているのは私たちの様な下っ端なんだけどねー』
下っ端、ね。どうやら上位次元でも階級的構造があるのかな?
『前はちょいちょい手を出していたらしいんだけど、上手く行かなかったんだってさ』
「そんな軽く話していいことなんですかねそれ……」
『ああ、うん、大丈夫!』
……大丈夫なのかなぁ。
『そんな訳で私は君の居た世界群を観察するポジションだから、君のことを知っているのだよ』
胸を張って何処か自信満々ですね。
え、見られてた、あれやそれやを?
『ああ、大丈夫だよプライベートは尊重しているから、大丈夫!』
……大丈夫なのかなぁ。
『君はいい線行ってたと思ってたからね。“力”って点を見れば私位の領域に達しかけていたし』
「マジですか」
『マジマジ、だから君に対しての救済措置を取ったんだしね』
ボクが言うのもなんだけどこの人軽い。いや、救済措置ってなんですか。
『手は出さないってもそれは極力だからね、目をかけていた子に手を差し伸べるくらいは全然OKさ』
「はぁ」
『最近じゃアストラル境界に到達する魂の持ち主なんていなかったからね。おっこれは! と思う訳さ』
「そうなんですか……」
『あと君の置き土産はあの世界に大きな切っ掛けになるだろうし便乗させて頂きました!』
「めっちゃ干渉してるっ」
『そこはほら特例だよ特例。普通出来てもあんな術式実行しようと思わないし、実行するためのエネルギー確保できないし、でも本当にやっちゃうしで焦っちゃたよ!』
HAHAHAと形容できる笑い方と両腕を広げて大袈裟に肩を竦める仕草をする九十九さん。
驚かせたのは申し訳ないなーと思わないでもないけど、なんか、申し訳ないなって思った気持ち返して欲しい。
『だからさ、君の術式のエネルギーを回してさっきまで調整してたからお迎えに遅れてしまったんだよ、ごめんね』
「いえいえ」
謝ってもらってもなー……なんか打算もあるけどこの人の滲み出るお人好し感、大丈夫か?
『やーほら、頑張ってる子には優しくしないとさっ』
「……」
申し訳ないけれど諸手を挙げて喜べる気分にはなれない。
『それは分かってるって。私の個人的な好意だからね、気にしないでとまでは言わないし』
「……ありがとうございます」
素直に喜べないけれど気遣いが身にしみるし、お礼くらい言わないと、身体はもうないけれどね!
『ふふふっ』
あ、嬉しそうにしている。随分と素直だよなぁ。
『ってそうだ話はこれだけじゃないんだよ。アザミ君、君はこれからどうしたいかな?』
「どう、ですか」
『大雑把に三つの道があるけど聞いてみる?』
「お願いします」
『先ずは、此処で私たちのサポートをしつつ更に“力”をつけて高次元の存在へ到達する』
実に直球な勧誘が来た。
『次は転生、生まれ変わって人生をやり直しつつ好きに生きる』
これまた直球なことをさらりと。
『最後はあまりお勧めしないけれど、このまま魂の消滅を待って完全な消滅』
最後は少し渋りつつもド直球だった。
「どれも直球ですね」
『そこはほら、はぐらかしても仕方ないじゃない?』
「確かにそうですけど……」
どの選択もボクにとってはありがたいというか妥当な話だ。
勧誘にしても人生やり直しにしてもこのまま消滅するにしても、あの世界で死ぬ道を選んだボクからしてみれば降って湧いた選択だ。
どの選択もありと言えばありなのだけど。
「……生まれ変わる、としたらあそこですか?」
生まれ変わったって元のあの世界に戻るんじゃ意味がない、あそこが嫌だから死んだよなものだし、置き土産が成功しているなら尚更だ。
『ああ、そこは大丈夫。別の世界に転生させるよ』
なるほどそれならいいな。
“好きに生きる”ってのには魅力があるんだ。
あの世界で生きていた時は強くなるって目的を果たすってだけが全てだった。
好きにできてたのなんて休憩時間にささやかに趣味を満喫するくらいだったし。
『ちなみに私の所でサポートするって道?』
「魅力的ではあるんですが……」
ほんの僅かな時間でなんかこの人……人か? の空気感に呑まれて絆されそうな気分になっているけど落ち着けボク。
「転生にします」
サポートって就職のような感じだし悪くはない気はするけど、折角人生やり直しができるならそれも悪くない。
『そかーちょっと残念だけど、OK! 君の決断だしね、任せておいてよ!』
「お願いします」
『先ず君の力がそのままだと産まれた瞬間に事故が起こる可能性があるので、いったん軽く封印のような処置をします』
「封印ですか?」
『無駄にね力を持って産まれると色々と大変なケースがあるんだよ、だから産まれるときとそれからの赤ん坊の間位は平穏に過ごせるようにってね』
「なるほど? それなら力をなくせばいいのでは」
九十九さんならそのくらい楽にできるのではと思ったのだけれど。
『あーそれね、さっきも言ったけど力だけでみるなら君は私と同レベルなんだ。だから私が君の力を消すには相応の労力が必要でね、それをすると本来の活動に差し支えるんだよ』
「はぁ、そうなんですか……」
『私たちにも規制があるからね、こっち事ではあるんだけどさ!』
何やら琴線に触れたらしい詳しくは聞かないでおこう。
『ま、さっきも言ったけど軽くな封印だし成長すれば自然とね力が使えるようになるよ』
状況を見て今まで通りに術とかが使えるなら楽と言えば楽か。
『あとは……元気に育ってくれれば私的にも嬉しいな!』
「あ、はい。いやいや、他にもうないんですか?」
『ないね、転生先でやっちゃいけないこととか特にないし』
「ホントですか?」
『まぁ世界を滅ぼす! とかしてくれなければね』
「それボクに言います?」
『……信じているから!』
信じられてしまった。それなら仕方ない善良である努力はしよう。
『そうそう転生後の世界については自分で調べてね、そっちのが面白いでしょ』
ここに来て丸投げ! いや十分以上に親切だったけど!
『いやそこはね、幾つかの候補はあるけどほら生命の誕生って神秘な訳じゃない?』
そう言えば今更ながら自然に心でのツッコミに反応されている。
『それは今の君だと顔に出やすいからさ』
「マジですか」
『マジマジ、魂の状態だしね』
そうだったのかって、身体が淡く光り始めた。
『準備完了、だよ』
「あー、お世話になりましたって言えばいいのかな」
『いいってことさ。君のこれからが幸いであることを祈るよ』
光が強くなるってくると身体が人の形から球体に変わっていく
『希望としては何時かまた会いに来てくれると嬉しいな』
九十九さんが小さく手を振ったのに頷こうとしたところで意識が消えた。