序 舞台からの幕引
数世紀前のことだ。
後に災厄と呼ばれる、世界規模の大災害があった。
何が起きたかを簡潔に言うと、地球と異世界が混じり合ってしまった。
二つの世界が混じり合い両方の特徴を持った世界に変わってしまったのだ。
そんな未曽有の事態に直面した地球側の人類だけではない。
異世界にだってそこに住んでいた者達がいるのだ。
地球側、異世界側共に混乱の極致にあったのは当時の記録を書き留めた資料からうかがえた。
誰だって唐突に起きたこんな事態を受け入れることができる訳がない。
ただでさえ大災害、世界同士が混じり合った影響で計り知れない犠牲者が出たのだ。
正確な記録は残っていないが過半数の人間は死んだと言われている。
異世界側も同じような状況であったであろう。
それでも人が滅びることがなかった。
幾つかの要因はあるが1つは、異世界の法則が混じり合った後の世界でも通用したことだ。
この異世界には魔法や魔術など不思議な力が存在する所謂ファンタジーな世界だった。
人間を中心とした人族、エルフやドワーフなど地球では空想の住人だった者たちが実在し、彼らは自らも混乱の中にありながらその力を使い地球側の人を助けたのだ。
地球側の人類も様変わりした世界で生き抜くために藁にも縋る状態だった。
何故なら異世界の人族以外にも魔物や人族と敵対する立場の種族が居たからだ。
既存の兵器は全くの効果が無かった訳ではないが、分が悪かった。
災厄により変貌した世界は常識が通用しない。
文明の水準だけ見れば元の地球が進んでいたが、異世界の場合は純然たる力による摂理で成り立っていたのだ。
有り得ない存在が実際する、大量破壊兵器並みの力を持った生物が知識を持ち力を行使すると考えればいいだろうか。
いち早くその事実を理解した地球の人々は異世界の住人、人間に友好的な種族を受け入れた。
互いに手を取り合い、地獄のような混乱から抜け出すにはそうするしかなかった。
そして一応の平穏が訪れた時、世界は新たな時代を迎えた。
* * *
ボクが知る今の世界のあらましはこんなところだろうか。
細かいことまで話すと個人的な感想まで漏らしてしまうので割愛するとして。
え、唐突に何を言ってるかって?
正直暇を持て余しているので、記憶の整理的というか暇つぶしです、はい。
ああ、自己紹介必要だったか。
ボクは『アザミ』、魔族と戦争をしていた人族軍側の英雄やってました。
やってたってのは戦争が終わったから、厄介払いにあったわけでもう英雄じゃなくなったのです。
人族と敵対する種族ってのはさっきさらっと触れたね?
そうそれが魔王を筆頭にした魔族の皆さんでした。
人族と魔族は水と油の関係で災厄後も相変わらず険悪な中でした。
魔族って他の種族に比べて能力が高いけれど種の数としては少ないのだけれど。
災厄後は風前の灯な状態だったしその時は大人しかった。
そのせいか滅んだとも思われていたし。
えと、なんで魔族の話してたんだっけ。
ああ、そうそう、戦争だ戦争。
滅びる寸前だった魔族も人族と同じように時間をかけて数を増やしていった。
互いに増えていったらどうなるか分かるね?
世界は広い、広いけれど人が生きれる領域は限られている。
生活圏が被ったとたん以前のように争いが始まった。
馬鹿だよねどっちも。
最初は小競り合いだったけれど、その果は全面戦争。
人魔大戦なんて言われるどうしようもない戦いだ。
どうしようもないって言ってももう終わったんだけどね。
少し前にボクが魔王を倒して終結。
流石魔王、強かった正直ボクじゃなきゃ勝てなかった、久しぶりに本気出したよ。
それに存外いいヤツだったから惜しかった……。
で、魔王を倒してどうなったかって言うと英雄として華々しい凱旋なんてことはなく。
“新たな脅威、英雄は人族を裏切り、人族を滅ぼそうとしている”と言い出し、魔王との戦いが終わった直後にボクを拘束し監獄へ放り込んだのでした。
そんな訳でボクの現状は何もない部屋のど真ん中で拘束具でガッチガチに固められた状態で椅子に固定されている。
目隠しに猿ぐつわされちゃってる徹底ぶりだ。一つ一つに人族が持てる技術を注ぎ込んだ能力無効の魔術が施されている具合に。
これ、魔王でも破れないんじゃないかな?それくらい強力な拘束な上にだ、今いる監獄も相当手の込んだ造りをしている。
察するにボクに隠してコソコソ造ってたのはコレなんだろうなぁ。
バレバレだったけどね。
人族軍がボクを信用していなかったのは最初からだし。
あいつ等はずっとボクをバケモノとして見て、戦争に有効な駒だと思っていた。
魔王との戦いだって共倒れしてくれれば御の字、ダメだったら何とか捕まえて無力化するって考えてた位だ。
知っていたならなんで捕まったって?
逃げてもよかったけど、周りに変な被害出たら悪いというか、腰を据えて準備を進めたかったから、かな。
ぶっちゃけ、こんな拘束でボクを完全に無力化できていない。
甘く見られたものだぜ……ごめんなさい調子ノリました。
実は魔王と戦いを経験してなければちょっと危なかった。
何この変質的な術式、ないわー、拘束具作ったやつ正気かな?
言うなら魂を込めたって程の逸品、本気すぎるだろ……。
いやほんと魔王様様だ。彼のお陰でこの状態でも好き放題できる領域にボクは到達できた。と言う訳で拘束なんのそのでこっそりと自分の計画の準備を進めています。
準備は分割した思考で進めているし、暇を持て余している思考の一部で独り語り……。
ま、友達だとかなんだとかいない人生だったし思考癖がついちゃってるんだよね。
悲しくないよ?周りが酷すぎたから友達欲しくなかったし。
旧世紀の娯楽作品を楽しむという崇高な趣味で孤独じゃなかったし!
うん、同好の仲間は欲しかったけど、なかなか、ね?災厄のせいで貴重な物だったし仕方無いね。
そんな訳でこっそり準備を進めながらボクは沙汰を待っているのでした。
どうなるかなんて決まってるんだけどね。
***
拘束されてから結構な日が経ったが、ついに沙汰が下る時が来たようだ。
今まで外されることのなかった目隠しと猿ぐつわが勝手に取れる。
遠隔操作ができる物だったらしい、久しぶりに肉眼で見る視界に人はいなかった。
実に殺風景な部屋だった、知ってたけど。
まず中央にボクが座らされている以外に何もない。
「っ……ぁ、やっと意見はまとまったのかな?」
とりあえず何か言ってみようと思って声を出す。
ちょっとつっかえたのは久しぶりに喋るからだよ。
するとボクの目の前にスクリーンが浮かび上がる。
「相変わらずのようだな、貴様は」
映し出されたのは貫禄のある風体と鋭い眼差しを持った壮年の男だ。
強面で年の割にがっしりとした体つきに軍服が似合っている。
「ええ、ボクはボクですからね」
「最期まで憎らしい餓鬼だな貴様は」
「ちょっとはお話しません? あんまりにも退屈だったんで人が恋しかったんですよ」
「はっ、心にもないことを」
こちらの軽口に不快感を隠しもせずに吐き出す。
ばれちゃいました? って笑ってやったけど眉間に深い皺を作って睨まれた。
「これからの人族に貴様のようなバケモノはいらない」
「そうですか」
「さらばだ“英雄”」
男の皮肉を込めた笑みを残してスクリーンが消える。随分と嫌われたもんだなぁ。
そして時間を置くことなく、部屋中に仕込まれていた術式が起動する。
見た目は赤い模様のようで、それがボクを中心に浮かび上がり部屋の隅々まで広がっていく。
拘束した上で更に強力な結界を施していたようだ。
「まだ、聞こえてると思うんで勝手に喋りますけど」
首の拘束具が熱くなってきた気がする。
「ボクは別に世界をどうこうするつもり、本当になかったんですけどね?」
洒落にならない魔力が拘束具へ注ぎ込まれている。
「ただ死んでまで好きにされるのは、腹が立つので最高の嫌がらせを考えたんですよ」
焦燥感は無いがあとちょっと言っておきたい。
「せいぜい、生き足掻いて下さいね、人類の皆さん」
首元で響いく血肉が弾ける音と一緒にボクの意識は途絶えた。
習作として思いついたままに書いていきます。