第三話 シャトービリーブ
人がまばらな北国の駅がポツンと佇んでいる。
地方のそれほど大きくない駅といった風情だ。
駅舎の前にはロータリーがあり、タクシーが停まっている。
雨がしとしとと降る中、列車を降りた久我が改札を通り、駅から出てきた。
久我はタクシーを横目に傘をさし、歩き出した。
ロータリーを抜けると、街の中心地である。商店が横に並ぶ本通りを抜けると、
そこで行き止まりだと言わんばかりに小山があった。
久我は小山の麓にある階段を上る。
厳かな寺が立っている。歴史を感じさせる静謐な寺だ。
寺の住職が境内の掃除をしていた。久我を見ると、
「ああ、開けておいたから」
といった。
「ありがとうございます」
久我は頭を下げる。久我は境内を抜けて墓地へと歩き出した。
山の斜面に段々と並んだ墓地。久我の他にまばらに人がいる。久我は墓地の端に
ある墓石の前に立つと、そのまま消えてしまった。墓参りに来ていた男児がその様
子を見ていて、横にいる両親に
「あそこのお墓の前で人が消えた!」
と言ったが、両親は首を傾げ、
「えっ、いやそもそも、あそこに人なんていたっけ?」
と不思議そうにしていた。久我は誰にも気づかれないよう、気配を消すことが出
来るが、たまに気取られることがある。
山の斜面に久我が立っている。周りに墓地はない。
「あの子供、俺に気付いていたな。こっち側の素質があるかもしれないな」
久我が山から見下ろす眼下には、都会といってもいいほどの街並みが広がってい
る。
街には人もいるが、人以上に異形の者が多かった。すれ違いざまに異形の者ども
が久我を見るが、彼は意に介さない。警察署らしき鉄筋コンクリート十階建ての建
物が見えた。門扉近くに「警察署」と書かれている。久我はその中に入って行った。
一方、街の片隅では顔が瓜で体が人間の生物が唐突に姿を現した。
その者は、ケンタウロスのような見た目である。だが下半身は馬ではない。仰向
けになった男がブリッジをしているような格好だ。男の股間から女の体が生えてい
るような、妙な生物である。
奇妙な生物は仮に瓜子と呼ぶこととする。
瓜子の馬と化している男が縦横無尽に手足を動かし始めた。道のコンクリートが
えぐれていき、破片を撒き散らせながら瓜子が目の前のオフィスビルに突っ込む。
轟音が上がり、瓜子は叫んだ。
「このビルにいる女どもよ、全員私の前に跪け! シャトー・ビリーブの貢物とす
る!」
ビルの警備員達が集まり、瓜子に拳銃を乱射した。だが、瓜子は意に介さない。
「下級共が! 私を誰だと思っている」
瓜子の口が開き、舌が警備員まで伸びる。舌は警備員達に絡みつき、瓜子は大口
を開けて丸呑みにした。ケタケタと哄笑する。
「女どもよ、私の前に跪け!」
暫くして、女達が瓜子の前に集められた。瓜子は舌舐めずりをしながら、女達を
物色する。
「シャトー・ビリーブの好みは……」
残った女達は数百人。年齢はローティーンから四十過ぎといったところか。皆、
人型の化物で、一様に怯えている。瓜子はまた大口を開けた。ネバついた唾液が、
口腔を濡らしている。そして、女達を一のみした。
「これで彼も満足することだろう」
瓜子が跨った形になっている男が激しく手足を地面に打ち付け始めた。轟音と共
に瓜子は地下へと潜っていった。