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冬の幸せは子猫の形をしていた

作者: やまおか
掲載日:2018/12/01

 秋も過ぎて、吐く息が白くなったころ。

 窓際の席からみえる風景は寂しく、もう冬なんだと実感していた。

 

 暖房器具が活躍するようになると、教室の窓ガラスが曇っていた。

 ぼーっとしたまま、指先をすべらせていくとそこには子猫の姿ができあがった。

 我ながらかわいく描けたなと口元を緩めていると

 

「な~に、窓の外みながらにやにやしてるのよ。おもしろいもんでもみっけたの?」

 

「ううん、ちょっとぼーっとしてただけ、寒くなってきたな~って」

 

「あんたの場合はいつでもぼーっとしてるじゃないの」

 

 友人の女子にからかわれて言い返しているうちに、次の授業の予鈴が鳴った。

 先生がやってきたころ、もういちど窓の子猫をみると位置がずれているよう気がした。

 たしか、目立たないような窓の隅の方に描いたはずなのに、真ん中よりの位置にいる。

 気のせいだろうと、顔を黒板に向けた。

 

 授業が終わると、ほうきをもって教室のごみを掃いていた。

 

「あっ」

 

 男子のひとりが雑巾を手に窓をふき取ろうとしているところを見て、思わず声があがってしまった。

 彼が振り返り不思議そうな顔を向けてくる。

 

「どうしたの? 鹿島さん」

 

 理由を話すには窓の落書きがわたしのものであるといわなくてはいけない。

 恥ずかしさで口をもごもごと動かしていると、彼の視線が窓の子猫の上で止まった。

 

「かわいいね」

 

「えっと……、うん、そうだね」

 

 優しく微笑む姿を見て、ドキリと胸がはねる。

 窓際に立つ男子、成田くんとはあまり話すこともなく、こういう表情をする子だったのかと新しい発見だった。

 彼は再び窓掃除を再開するが、窓には子猫が残ったままだった。

 

 次の日、窓をみるとまだ子猫は残ったままだった。

 ただし、窓ガラスのフレームにもたれかかるように丸まっていた。

 一匹だと寒いだろうと、もう一匹書き足してやることにした。

 今度のはちょっとやんちゃそうなやつである。

 

 授業中、おかしなことが起きた。

 猫の声が聞こえるとクラスメイトたちが騒ぎ出す。

 先生もイスのしたや教室の隅を探すが、どこにも子猫の姿なんてなかった。

 そんな中、わたしだけが窓ガラスを見ている。

 視界には、二匹の子猫がじゃれあっている姿が映っていた。

 

 結局、みんなが首を傾けながら授業が再開された。

 

 しだいに、他のクラスにも噂が広がりはじめた。

 その姿を見つけることはできず、猫の呪いだなんていう噂もきくようになった。

 

 不思議な現象ではあるが、誰にも秘密で子猫を飼っているようで優越感に浸っているときだった。

 

「子猫、増えたね」

 

 不意に声をかけられたことに驚きながら振り向くと、成田くんが優しげな目で窓の子猫たちを見ていた。

 

「うん、お兄さん猫と弟猫だよ。きっと」

 

 わたしの言葉に「そっか」とうなずくだけだった。成田君が教室でも大笑いしているところや、大声で話しているところを見たことはない。

 そんな彼にわたしだけが知っている秘密を話してみたらどうなるだろうかと、興味をもった。

 

「最近、教室で猫の声が聞こえるけど、実はその正体はこの子たちなんだよ」

 

「ほんとに?」

 

 驚いたわけでもなくこちらをバカにしているわけでもなく、むしろわたしの反応を見て楽しげにしているように見えた。

 

「ほんとほんと、でも、秘密だからね」

 

 彼はクスリと笑みをもらしながら、わかったといって小指を差し出してくる。

 ちょんと指先が触れ、ゆびきりげんまんと口にする彼は可愛く見えた。

 

 

 それきり、彼とはどうということはなく、卒業後別の高校に分かれていった。

 

 高校は二駅先の場所にあり、今日も電車にゆられていた。

 毎日乗り続けていると、席が空きやすい車両の位置がわかってくる。

 指定席といえる隅の席に座り、一息ついた

 20分間という中途半端な時間を過ごすとき、スマホをいじったり、テスト前は勉強をしたりする。

 しかし、この日は何もやる気がおこらず、ぼーっとしたまま通り過ぎていく風景に目をむける。

 

 窓ガラスが白く曇り、なんとなく指がガラスの上をすべらせ、なんとなく子猫を描いていた。

 できた子猫をみていると、中学の頃のできごとを思い出す。結局、掃除当番が成田君から変わると、あのときの子猫はきれいにふき取られてしまった。

 もう一度書いてみたが、あのときのように動き出すことはなかった。

 

 今度の子猫もじっと見ていても、動き出すことはない。あれはなんだったのかと聞いても誰にもわからないだろう。

 ただ、彼との約束が気になって誰かに話すことはなかった

 

 そんなことをつらつらと考えていると、車内にアナウンスが流れ、他の乗客とともにホームへと流れ出していく。

 

 次の日、電車ではいつもの席に座る。

 昨日の子猫は残っているだろうかと窓に目を向けると、もう一匹増えていた。

 かき足した誰かのはからいに、にやりと笑みを浮かべる。

 

「粋なことをしおって」

 

 近くに住んでいるのか、それともただの通りすがりの人間が描いたのか想像が膨らむ。

 もう一匹描き足して増やしてみた。さて、明日にはどうなっているか楽しみだ。

 

 昨日、3匹に増やした子猫はどうなっているだろうかとわくわくしながらいつもの席に座り、窓に目を向ける。

 増えていた、しかも少し大きめの親猫っぽい姿が描かれている。

 どうやら、件の人物は毎日この席にのる人間らしい。

 新しく増えた親猫は凛々しい顔つきをしていて父猫っぽかったので、優しそうな母猫を描く。

 5匹家族のできあがりだ。

 

 

 しかし、次の日になると、窓はキレイに掃除され猫たちは消えていた。

 駅からの帰り道、楽しみがなくなり肩を落としながら歩いていると、猫の鳴き声が耳に入ってきた。

 寂しさからくる幻聴だろうかと、声の主を探すと道路の端にダンボールが一つ。

 

「わあ」

 

 しゃがみこんで中の様子をのぞくと、子猫がいっぴきみいみいと鳴き声をあげている。

 

 ふわふわとした毛並みに頬が緩む。

 

 家に帰ると慎重に中の様子をうかがい、一気に自分の部屋へと飛び込む。

 腕の中に抱えていたダンボールを床に降ろして、フタをあけると金色の二つの瞳がジッとわたしを見上げていた。

 

「キミは誘拐されたのだよ。おとなしくしたまえ」

 

 ダンボールの下にキレイなタオルをしいてやり、水をあげながら子猫がどんなものを食べるのかネットで調べていると、玄関から物音が聞こえた。

 

「ただいま~」

 

 おかえり、と出迎えながら愛想笑いを浮かべる。

 母がいぶかしげな視線をむけてくるが、大丈夫ばれないさ、たぶん。

 しかし、夕食の最中。

 

「あんたの部屋から猫の鳴き声がきこえるんだけど」

 

「たぶん、窓ガラスに描いた猫がないてるんだよ」

 

 結局、戻して来いといわれた。

 

 次の日、高校の友人たちに猫を飼わないかと声をかけるが全滅であった。

 さて、どうしようかと思いながら、電車に乗りいつもの席に腰をおろす

 窓を見るとそこには猫たちの姿はなく、白く曇ったキャンバスが見えるだけだった。

 

 『かわいい子猫飼いませんか?』

 

 なんとなくで書いてみたが、返事なんてくるわけないよねと期待はしていなかった。

 

 しかし、次の日の朝、電車に乗ると

 

 『ぜひともおねがいします』

 

 わたしが書いた文字の下に、乗り気な返事が書かれていた。文字はぴったり横にそろえられ、几帳面なひととなりがうかがえた。

 窓の落書きをするような茶目っ気もみせ、どんな人なのかと想像は膨らむ。

 

 それから、文字でのやりとりが続く。

 いつも使っている駅や、乗っている時間帯。

 

 そして、休みの日、わたしはいつもの席に座っていた。

 ただし、いつもの上り電車ではなく下り方向の向かっている。

 彼はいつもの駅よりも一つ離れた駅を利用しているときいて、そのホームで待ち合わせることになっていた。

 

 膝の上に乗せたダンボールの中からは、ときおりがさごそと子猫が動く気配がしていた。

 

「もうちょっと静かにしててね。そうしたら新しいおうちにいけるから」

 

 フタを少しだけ持ち上げて中をのぞこうとした瞬間、目の前をぱっと何かが通り過ぎた。

 

 床の上に降り立った子猫がきょろきょろとあたりに見回している。

 

「待って! そっちいっちゃだめ!」

 

 電車がとまり、空気の抜ける音と共に扉が開く。

 車内から飛び出ようとした子猫をだれかが捕まえてくれた。

 

「すいません、ありがとうございます」

 

 恐縮しながら声をかけると、そこに立っていたのは

 

「ひさしぶり、鹿島さん」

 

 そういって、子猫を大事そうに抱えているのは中学のころクラスメイトだった成田君だった。

 電車を降りるとベンチに並んで座る。

 

 子猫はダンボールの中でおとなしく丸まっていた。

 

「驚いたよ、まさか成田君だったなんて」

 

「ボクはあんまりかな」

 

 どうしてと聞くと、クスリと笑みをこぼす。

 

「あの猫の落書き、見覚えがあると思ってさ」

 

 それから、お互いの高校のことを話したり、子猫の様子を見るために成田君の家に行ったりするのはまた別の話。

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