第1話
少し修正しました。
ある1人の男性は、過ちを犯す前に戻りたかった。
ある1人の女性は、どこか遠くへ逃げたかった。
ある1人の男性は、純粋な強さを望んだ。
ある1人の少年は、自分自身が嫌いだった。
ある1人の少女は_この世界が、欲しかった。
▷▷▶︎
『この世には変わった力を持った、人の皮を被った化け物が存在する』
そんな噂を聞くようになったのは、いつからだっただろうか。初めは誰もが信じなかったはずなのに、今では噂という範疇を越え、この世の常識かのように扱われている。
「_と、こうなるから、ここでこの公式を使って_」
数学の坂本先生の声がぼんやりと耳に届く。
黒板に綴られていく数式には見向きもせず、窓の外を見ると、グラウンドでソフトボールをする生徒達の姿が目に入る。
カーン、と気持ちいい音が響いた。
「...おい、四ノ宮馨。何よそ見し
ているんだ。俺の授業でそんな態度を取るなんて、毎度毎度いい度胸だな?」
「あはは、やだなぁ先生。そんな怖い顔して見ないでくださいよ」
坂本先生は何処か諦めたようにため息をつくと、黒板に買いてある問題を軽く叩いた。
「この問題、解いてみろ」
またか、という雰囲気が教室中に流れる。馨の授業態度が悪いのは日常茶飯事なのだが、坂本先生はいつもそれにつっかってくるのだ。
このやりとりも何回目だろうか。
「...X=3√2+5。さっきおっしゃってた公式を使えばいいんですよね?」
馨はにっこりと微笑む。
「...正解だ」
腹立たしげな表情を浮かべながら、坂本先生は答えを書き、大きな丸をつけた。ああやって景気良く丸をつけてくれるのは、先生のいいところだと思う。
なんて平和なんだろう。
先生に逆らったって、最終的には許されるなんて。
毎日同じことを繰り返す、何の変哲もない日常。
_少し、息がつまる。
ふと視線を感じ、隣を見ると、隣の席の川村くんが、どこか心配そうにこちらを見ていた。
しまった、顔に出ていたらしい。
馨は何もないよ、という風に笑って誤魔化す。
それを見て安心したのか、彼も微笑むと、視線を前に戻した。
あと少しで授業が終わる。あとはもう放課後だ。
彼女にとって、授業なんて退屈以外の何ものでもない。馨は耐えきれずに小さく欠伸をこぼした。
カーン、とまた聞こえてきた音が、静かな教室の中で、ひどく、大きく聞こえた。