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未樹との遭遇 (5)

「ーーありがとうございました!」


 アンネリーゼ・ミシェルのギターボーカルが深々と頭を下げたと同時に、誰ともなしに万雷(ばんらい)の拍手が沸き上がった。


 ここ「フライング・ソーサー」は、駅前雑居ビルの地下一階にひっそりと佇む老舗ライブハウスである。


 地元を拠点として精力的に活動する三人組ガールズバンド、アンネリーゼ・ミシェルのドラマーでありクラスメイトでもある人物にライブの招待を受けたのは、昨日の放課後のこと。何やら出来たてホヤホヤの新曲を初披露するらしく、その感想をぜひともお聞かせ願いたい、とのことだった。


 慧と祐二は両者共に音楽にはあまり精通しておらず、辛うじて認知しているミュージシャンといえばヒットチャートの上位に食い込むような凡庸な連中ばかり。当然、専門的な知識もひけらかすほどには蓄えていない。


 ゆえにして、月並みな感想程度しか伝えられそうもないという一抹の不安もあったが、しかしそこは気心の知れた人物の頼みである。二人はクラスメイトの懇願を快く受け入れ、ここに足を運んでいたのだった。


「演奏、凄かったな」


 フロア隅の暗がりにて、慧が紙コップ入りのエナジードリンクを一息に飲み干しながら感嘆すると、


「うん、凄かった」


 と額を流れる汗を拭おうともせず、祐二がそれに同調した。


 最大収容人数二百人という、ごく一般的な大きさのハコには、慧の想像していたような「セックス・ドラッグ・ロックンロール」などというフレーズからは果てしなくかけ離れた人間たちが溢れていた。会社帰りのサラリーマン風に、制服姿の女子高生。マイノリティを気取ったサブカル連中に、さえない風貌の文化系男子たち。その人間模様は幅広く、高々半径数メートルのテリトリーで生きている慧にとっては、それこそ衝撃的な光景であった。


「次はどんなバンドだろうね」


 誰もいないステージを見据え、呑気な口調で祐二が言う。その発言を受け、慧は手元の半券に視線を落とした。


「いや、バンドじゃないみたいだぞ」


「ユニットか何か?」


三國未樹(みくにみき)……だとさ」


 そんなやりとりをしている間に、ステージ上に一人の少女が現れた。マーティンを代表する名器、D‐28を担いだその飾り気のない少女は、あらかじめ用意されていた背もたれのない椅子にゆっくりと腰を据えると、一つ深呼吸をした。この時、慧は初めてまじまじと少女の顔を確認した。


「――――っ!」


 刹那、脳天から足先にかけて、得体の知れない衝撃が電光石火で直走った。


「モ、モモモモコだ……」


「モモコ?」 


「モモコは……モモコは幻なんかじゃなかったんだあ!」


 意に反し、わなわながたがたと身体の震えが止まらない。


 数メートル先、手を伸ばせば届きそうなほどの距離には、何たることか憧れのアイドル、ミキモトモモコと瓜二つの少女がいて、フロアの観客たちに向け溢れんばかりの愛嬌を振り撒いていたのだ。


 胸元に「地球外生命体」とプリントされた奇妙なセンスのTシャツに、ダメージ加工が施されたスキニージーンズ、そして素足といった格好のロングヘアの少女は、右手で握った琥珀(こはく)色のピックで徐にアルペジオを弾き鳴らすと、


「こんにちはー、三國未樹です」


 と余裕たっぷりの口調で告げた。


 にわかには信じ難い輝きを身体全体から放射する少女を、この場に集う皆が皆、恍惚(こうこつ)の表情で見つめている。もちろん、慧とて例外ではない。


 最前列を陣取る小太りの汗臭い男子たちが、声を揃えて「未樹ちゃん、お誕生日おめでとう!」などと叫んだ時、慧も釣られて叫んでしまった。


「おっめでとおおおおお――――っ!」


 その野太い声は意外にも周囲に伝染し、やがて空間は祝福の言葉で満たされた。


 大きな目を糸のように細め、照れ臭そうに微笑した少女は律儀に礼を言った後、幾分ゆっくりとした口調で語り始めた。


「お誕生日をこうして皆さんと一緒に迎えることが出来て、本当に嬉しく思います」


 俺もー、などという声が、そこらかしこで上がり始める。


「実はちょっと前に、今日が何の日か気になって調べてみたんです。そしたら……六月二十四日は、オカルトマニアの間では『UFOの日』と呼ばれているみたいで。世界で初めてUFOが発見された日なんですって。それを知って、何だか凄くテンションが上がってしまって」


 ここだけの話……というか、こんなデザインのTシャツを着ている時点でバレバレだと思うんですけど、わたしUFOだとか、そういった非科学的なものが大好きなんです。だから、本当に運命感じちゃって。あ、ちなみに、このお話にオチはないので、興味のない方は聞き流して下さいね。あはは――。


「つい喋り過ぎちゃいましたね……ごめんなさい」


 約五分もの間、UFOやらUMAやらの魅力について熱弁し続けた少女は、どうやらようやく演奏する気になったらしい。


 改めて椅子に座り直し、


「一曲目はカバー曲を歌いたいと思います。それでは、聴いて下さい……木田(きだ)ユーマさんのデビュー曲で」


 ミキとの遭遇――。


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