獣の兆し
今回は新キャラ多めですので頑張ってください!
クーリエは急ぎ足で部屋を去って行った。
ロトは訝しい顔をしてから独り言を言った。
「人間たちは何をしたんだ?面倒にならなければいいんだけど…」
さあ、部屋を去って行ったクーリエだが。
彼ら監視班は、潜入が可能そうな場合のみ、監視班から潜入班に切り替わるのだ。
今回はそれが実行された。
つまり監視班、もとい潜入班は第三聖府へ潜入したのだが…。
「まさかあんな事に…」
クーリエはエレベーターに乗り込んだ。
地下百四階のボタンを押し、ロトに手渡された資料に通す。
『今作戦における協力者』という題の資料だった。
「第一聖府への潜入を試みる、という作戦か…」
第三聖府があんな状況だったんだ。他の聖府もどうなっているかわからないから、というわけか。
しかしこの協力者…一筋縄にはいかなそうだな。
『チカ、ヒャクヨンカイデス』
扉が開くと同時に、部下の一人がクーリエに迫ってきた。
「クーリエ様!ロト様にお呼ばれされていたようで!」
この悪魔はグリムル=マハトーン。
頭から一本のツノを生やした若い悪魔。
片目が髪で隠れているのは、彼が毎朝セットしているらしい。
「五月蝿いヤツだな。遠出をするんだ。準備をさせろ」
「え!? どちらへですか!? 」
仕方なくクーリエは資料を見せた。
「はえ?」
グリムルは素っ頓狂な声を出して、眉にシワを寄せた。
「これ、どういうことです? 第三聖府に何が…」
「さあな、まだ分からないんだ。ただ、遠くから見たら何も変わらないように見えたらしいのだが、近くに寄ってみれば──」
「第三聖府丸ごとクレーターのようになっていたんですか…」
「ああ。多分、結界かなにかのせいだろうな。建物も何もかも無くなっていた。もちろん人っ子一人いないらしい」
人間たちは何をしたのだろう…。
「あ、そういえば遠出するって仰ってましたよね? どちらへ?」
「第一聖府へ向かうときのパーティに参加してもらう協力者に交渉しに行くのだ。」
資料にはこう書かれていた。
『協力者・・・クドラク』
このクドラクという者。何者なのだろう。
たった一人。
コイツという存在が増えることにより、作戦が楽になるのだろうか?
もしも人間に見つかれば、もちろんそこでの戦いは避けられない。
その状況を、楽に出来るのだろうか。
只者ではないことは確かだ。
「ひゃあ。ドネツィク山まで行くんですか、大変ですねぇ…」
「そう…ドネツィクまで……って、ドネツィク!? ドネツィク山ってあの、グネエラ大陸にある!?」
「そうですよね。頑張ってきて下さいね。あ、ドーウィル様も行かれるんですね。交渉には」
ドーウィル=マドマンスコープ。
クーリエと同じ第三階級に位置する悪魔だ。
グリムルも面倒だが、このドーウィルという男も面倒な悪魔だ。
会えばわかる。
「ああ。まあそういうわけで今から行ってくる」
「行ってらっしゃいませ!」
笑顔で手を振っているグリムルを背に、クーリエは考えた。
悪魔協会はこのクドラクという者を信用しているようだな。
ならば信頼しても悪いことはないだろう。
でも気になるなぁ…一度も見たこともない名前だから。
消失した第三聖府。
悪魔協会から名の出た謎の者、クドラク。
なんか悪いことが起こる予兆みたいだな。
特に、人間たちの考えていること。
✱✱✱
「ロト様、失礼します」
扉を開いたのは、長髪の妖艶なオーラを醸し出している悪魔、イーリアス=チェウシュルク。
ロトは台座ではなく、床に寝そべりながら本を読んでいた。
「おやおや、クーリエちゃんに続いて今度はイーリアスちゃんかぁ。美人に二人も会えて、今日はもうここから出なくてもいいやあー」
「いつも出てないではないですか」
イーリアスは顔色一つ変えず、ロトに近づいていった。
「ロト様、第三聖府が消失したという噂を聞いたのですが…本当なのですか?」
(何故こんなにも悪魔達は噂が伝わるのが早いんだ…)
ロトはうんざりしたような顔で答えた。
「そうだとも。だがそれが何か?」
イーリアスは舌打ちをしたようにも見えた。
(怖い女だなぁ…)
ロトは思った。
「第三聖府の情報は、潜入班からの情報なんですよね? その後潜入班から連絡はないのですか?」
「うん~。無いよ。まあこちらからしようと思えば出来るけどねー」
ロトは挑発するかのような口調で言った。
(こいつ、苦手なんだよねー。クーリエちゃんと違って忖度してるみたいで。クーリエちゃんはまだいい子なんだけど…こいつはなぁ…)
「消失した原因は分かっているのですか?」
質問ばっかだなぁ。
「まだだよ。調査中~」
ロトはそろそろ帰ってほしいと思い、こんなことを言った。
「気になるんなら調べてみればー」
イーリアスは挑発に乗ってしまった。
「わかりました。部下達とともに調査に行ってまいります」
扉が開き、閉じた。
ロトはやっと出ていったか、と思った次の瞬間。
「ちょっと待てよ? 調査に行くって言ってたか? おいおい…僕自身が面倒なことにしてしまった!」
ロトは、台座の横に置いてある黒電話のダイヤルを回し始めた。
(早いとこ原因究明を求むよ!!)
✱✱✱
かつて第三聖府だった場所。
そこには五人の人影があった。
その中の一人、一本の角を生やし、無精髭も生やしたベテランそうな悪魔。
潜入班(監視班)隊長、ペインは言った。
「まるで砂漠のようだな」
ペインは潜入班の四人と共に、第三聖府への監視を命じられていた。
「遠くから見たら、城壁が見えましたよねぇ? 」
潜入班の一人が言った。
「ああ。こんな結界張ってまで、人間は何がしたいんだろうな…」
いや、何かを隠そうとしているのか?
何はともあれ、調査を続けるのみだ!
「隊長!これを…」
「あ? これは?」
部下の手にあったのは、剣先から柄までが真っ赤に染まった短剣だった。
「なんすかねぇ…これ」
部下は不思議そうに短剣を眺めた。
「血…じゃないですよね…? 」
「わからないが…人間は…何をしようとしてるんだか…」
俺にはさっぱりだが…もしかしたら──
ロト様などなら、分かるかもしれないな…
新キャラと言っても、名前だけとかばっかでしたね…(笑)
次回では協力者、クドラクにクーリエちゃんが会いに行きます!
よろしくお願いします!