決着(ケリ)
風魔党は朝比奈衆と共に城内を掃き清めていた。
「主水、ちゃんと掃除したの。汚いままだと、徳川の連中に笑われるよ」
「すまん、ちょっと話しかけないでくれ。考え事をしているんだ」
「なにを?」香鈴は心配げに尋ねた。
「生かすか、殺すかを、だ」
それ以上話し掛けなかった。香鈴なりに何かを察したらしい。
主水は黙って立ち上がった。
小倉且久は巻物を開いていた。
表紙に『処罰対象者ノ覚書』と記されている。
中は大勢の者の名前が書き込まれていた。
多くの名前に『×』が上書きされている。処罰が実行されると上書きされるのだろう。
『三河国人衆』の文字の次に『石川家成ノ妻並ビニ娘』の文字があった。
他に大勢の徳川ゆかりの名前があったがその多くに『×』が上書きされていた。
全て今川家に人質にされていた者たちである。
巻物の最後に『雨宮主水』の名前が有った。
『×』はまだされていない。
チリーン。
鈴の音が聞こえた。小倉は筆を置き、巻物を巻いた。
チリーン。
また鳴った。やがて続けざまに音が響いた。
鈴の音が徐々に近づいてくる。小倉は膝を立てた。
部屋の前で鈴の音が止まった。
小倉はそっと襖を開けた。誰もいない。廊下に出て左右を見たが誰もいない。
薄気味悪くなって急いで部屋に戻ろうとした。
すると、ドン、と何かにぶつかった。
主水だった。
「お前は雨宮主水っ、何しに来た!?」
「多くの者が無駄に死んでいった。全ては貴公の責任でござる」
「だ、黙れっ、貴様も処罰してやるわ!!」
小倉は激高して、刀を抜こうとした。しかし、両手は宙をつかんだ。腰の刀が無い。
小倉の顔からドッと汗が吹き出した。
「お探しの物はこれでござるかな」
なぜか主水の右手に大小の刀が握られている。
「うぬっ、返せ!」
主水はさっと距離を置き、刀をぽいと後ろへ放り投げた。
「おのれぇ!」
小倉は上ずった叫び声を上げ、飛びかかって来た。掴み掛かろうとしている。
主水は軽く腰を落とし、左手を伸ばした。手の平を相手に向け、右手は脇腹にある。
スッと息を吸い、ダッ!で踏み込んだ。
左右の手が入れ替わっていた。
小倉は首から上だけが仰け反っている。その姿勢のままゆっくり倒れた。
両の鼻の穴から大量の血が噴き出している。
しばらくの間それを見続け、主水はそっとその場を離れた。
念仏は唱えなかった。




