増援
来たのは伊之助だけではなかった。
主水の副長、黒猿に率いられ、三十名の風魔が新たに加わった。
それと、北条の先遣隊が一緒だった。
警備の為に急造された、今川居館の隣の仮小屋に風魔たちは集まっていた。
何とか全員入れる大きさだ。
「でな、北条と徳川が協力して武田を追っ払って、氏真公をまた駿河太守に戻すらしいぞ」
黒猿が言った。
雨宮隊の副長である。
主水が風魔の里を離れている間、この男が隊の指揮を執っていた。
鼻の大きい、大柄な男である。
「何だそれは、訳が分からん。氏真様に一国を納める事ができると思うか?」
「おいおい主水、俺に言うな。聞いた話しを伝えているだけだ」
「それで、徳川は掛川城を手にし、北条は姫を手にする。そういう事か」
「そうらしい。いくら北条の姫だからって、城一つに、おなご一人が釣り合うか?」
二人が話している横では、若い風魔たちが再開を喜び合っている。
主水は思った。
(釣り合う。あの姫なら)
北条の先遣隊を確認した徳川軍は、城を取り囲んだまま動きを止めていた。
すでに上杉を仲介して大筋の合意はできているようだった。
後は今川家がそれを飲めば、直ちに実行に移される。
そういう事らしい。
外の世界では着々と話しが進んでいるが、城内の人々は何も知らない。
すぐそばの今川居館では、北条の侍と小倉且久が押し問答している。
「とにかく氏真公に合わせろ。大事な話しを伝えなばならんのだ」
「ならんと言ったらならん。大事な話しなら尚更ワシを通せ」
(こんな調子で、今川家は衰退していったんだろうな)
主水はそう思った。
「小春さんってのが美人なんだな。早く見てみてぇ」
「お初さんってのは、氏真様の手が付いちまったんだな。チキショー」
他にも城内の女性たちの話しで盛り上がっている。
若い男たちが集まれば、おなごの話しで盛り上がる。
それは今も昔も同じだ。
段々話の中身が卑猥になって来た。
ガラリ、戸が開いた。
香鈴だ。
みんな一斉に口を閉ざす。
(しまった、聞かれただろうか?)
皆バツの悪そうな顔をした。
「みんなぁ、お芋だよぉ」
香鈴は籠に山盛りになった山芋を持ってきた。
まだ熱い。
みんな空腹だった事に気が付いた。
「さすが香鈴さん!」
「香鈴さん、最高!」
「まだ沢山あるからね。ところで主水」
「どうした?」
「東門に大勢集まってたよ。出撃するみたい」
「なにぃ!?」
主水は室外に飛び出した。
天王山に向かって出撃する将兵が見える。
和平交渉が・・・・・・。




