砕かれた野望
徳川軍は既に撤退し、新たな敵の元へ殺到していた。
朝比奈衆を中心に、日根野、三浦の各部隊が次々帰還し、城内は一気にごったがえした。
「負傷者の手当てをしろっ、急げ!」
「飯を炊き出せ。早くしろっ!」
「手の空いている者は城門を固めろ、油断するな!」
城内の至る所から将兵の怒声が挙がっていた。
(姫は今頃、居ても立ってもおれんだろうな。おいたわしい)
主水のすぐ目の前には、小倉且久と年老いた使用人がいる。
小倉は問い詰めんばかりに尋ねていた。
「分かった。御屋形様は生きておられるのか!」
憮然とした様子で言った。
「は、はい左様でございます」
「で、血の海と申したな。一体誰の血だ?」
「さあ、恐らく曲者の血かと・・・・・・」
「お前、見ていなかったのか!?」
「申し訳ございません。ついウトウトしてしまいまして」
「それで、御屋形様はご無事なのか?」
「いえ、ですから、エンマに噛みつかれまして・・・・・・」
(ええいっ!)
話しが噛み合わない。
小倉は歯をギリリと鳴らした。
「他にはっ!?」
「はいっ、曲者はそれはもう恐ろしい死に顔で。あ、もう一人はすごく安らかな死に顔でして。同じ曲者なのに、こうも違う物かと朝比奈の方々が不思議そうに・・・・・・」
「もうよいっ!」
「小倉殿」
背後の声に、ビクッとして振り返った。
主水がいる。
「雨宮っ、なんだお前!、無礼者!」
「曲者は我らが退けてござるよ」
小倉はキッと主水をにらみ付けた。
「なにっ、よくもっ! いや、よくぞっ」
「よくぞ、手柄をあげた。でござるかな?」
「くっ・・・・・・」
「褒美は弾んで下されよ。土地は要り申さぬ。ゼニで結構でござるよ。ハッハッハッハ」
主水は珍しく高笑いした。
(ワシの、ワシの駿河が・・・・・・)
小倉は両手を握り、ワナワナと震わせた。
「小倉殿も充分身辺にお気を付け下され。何せ貴公は今川家にまたとない大黒柱だ。では失礼いたす」
(あやつ、知っておるのか)
小倉の顔から血の気が引いた。
(雨宮主水・・・・・・、処罰せねばならん!)




