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流れ弾

 朝比奈泰朝らが出撃してから三日経っていた。


 遠江中から次々と将兵が集まり、味方は三千を超えていた。

 城外では朝比奈軍が奮闘し続けていた。

 そろそろ天王山を取り戻せるのではないか。

 誰もがそう思っていた。


「大変だ、徳川の本隊が戻って来た」

 櫓の上から兵が叫んだ。


「何も大変な事はあるまい。来るべき相手が来たまでよ」

 朝比奈俊永は誰にともなく話した。


「雨宮殿、氏真様ご夫妻をよろしく頼んだ。何時また刺客が入り込むか分からんでの」

「まさか俊永殿まで出撃なさるのでは」

「ワシまで出撃しては、守兵共が寂しがりおるわ。城内を見廻るだけよ」


 徳川の本隊は怒気を噴き上げ、城の西門に殺到した。

 城兵の大多数が出撃している為、守りが薄い。

「おいおい、西門が突破されるんじゃないか」

 白狼が言った。


 攻撃軍の中には、身軽な者が何名かいた。

 城方の弓兵の目の前に躍り出て、気を引いたところを別の攻城兵が射殺する。


「忍びの戦い方じゃな」

 一貫だった。


「主水さん、俺たちも行きましょう」

「駄目だ佐太郎、前とは状況が違う。我らはここに留まって、姫を守護するのだ」

 

 やがて西門が突破された。

 徳川軍が二ノ丸になだれ込んで来る。

 負傷兵と女たちが本丸へ避難してきた。


「ドオン!」

 風魔党は、本丸の崖際で交互に鉄砲を撃ち続けた。

 才可と虫丸が火薬を充填して弾を込め、八弥と笹助が狙撃する。

 敵も撃ってきているが、高低差が有るので、こちらにはほとんど届かない。


「みんな、おにぎり握ったよ! しっかり食べて!」

 香鈴が盆に握り飯を大量にのせ、走って来た。

 犬のエンマも一緒に走って来る。その時だった。


 チュイン! という音と共に香鈴が倒れ、盆の握り飯が転がった。


「ああっ!」

 虫丸は驚きの声を上げた。


「流れ弾が足に当たったんだ。大丈夫、死なない」

 笹助が言った。


「うおおっ!」

 八弥が振り返ると、両手に炸裂玉を握り、雄叫びを上げる才可がいた。


「あっ馬鹿、死んでないって!」

 崖を飛び降りようとする才可に八弥は必死でしがみ付いた。

 笹助も飛びついた。虫丸もそれに続いた。


 虫丸はふと空を見上げた。

 遥か上空を北へ向かう、渡り鳥の群れ。

 戦いの無い、旅から旅への人生。

 自分もそんな風に生きてみたい。虫丸はそう思った。

 主水が香鈴を抱えて今川居館に入って行くのが見えた。




「あんた、本当に馬鹿ね。でも心配してくれて、ありがとう」

 そう言って香鈴は布団の中で寝息を立て始めた。

 小春たち、侍女の間である。


「さあ才可、行こう」

 主水に促され、才可は部屋を出た。

 

 外では銃撃の音が続いている。

 時折り風に乗って、兵たちの喚声が届いて来る。


 一人香鈴が寝ている部屋へ、そっと入ってくる人影があった。


 今川氏真だ。


「おお、相模の香鈴とやら。可哀想に。余が慰めてやるぞよ」


 氏真は香鈴の布団に入り込んだ。


「そなた、意外と毛深いのう」

「ウウッ」


 犬のうなり声が上がった。


「ひゃっ、お前はエンマ!」


 今川居館に氏真の悲鳴が響いた。

 香鈴は隣の部屋でおにぎりを食べていた。

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