表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/91

闇から伸びる腕

 頼斗を二筋のクナイが襲った。


(見えなかった!)


 空を切る音が反射的に頼斗を動かした。


 カカン!


 背後で音が響いた。

 頼斗の頬から血が流れる。


 いつの間にか星々は消えていた。

 代わりに、山々の間を田園が伸びる、どこかで見たことのある懐かしい景色に変わっていた。


(おかしい、母者がオレを襲う訳がない!)


 頼斗は鎖分銅を廻し始めた。

 はじめはゆっくり、徐々に速度を速めた。


 田園風景は消え、薄紫色の世界に変わった。

 石地蔵がいくつか現れ、頼斗を取り囲んだ。

 地蔵たちは、目をギンと開いて頼斗を見ている。


 母の顔が少しづつ変わり、鬼女に豹変した。

 頼斗はゾッとした。

 髪を振り乱し、頼斗に襲い掛かって来た。


 それを何とかかわし、鬼女の頭上に鎖分銅を叩き下ろした。

「バチーン!」と音が響く。

 続けざま、踏み込むと同時に鎌を薙いだ。


 手応えが無い。


 ヒュン!


(刀だ!)

 頼斗は咄嗟に身をかわした。

 何かにつまずいてよろめいた。


 振り返ると鬼女が刀を振りかざして、見下ろしている。

 徐々に近づいてくる。

 石地蔵たちがニヤついて頼斗を見ていた。


 鬼女が踏み込んだ。

 膝をついたまま、頼斗は口から何かを吹き出した。


「ぐおお!」

 鬼女はたじろいで後ずさりした。

 その右目の周辺には縫針が何本も刺さっていた。


 その時、鬼女の背後、何も無い虚空から腕が現れた。

 暗闇から伸びる二本の腕。

 その一つが鬼女のあごを掴み、クイと上へ持ち上げた。

 まる空きになった鬼女の喉ぼとけを、光る物が走った。


 ブアサッ!


 頼斗は血しぶきを浴びた。




 フクロウの鳴き声が止んだ。



 掛川城で最も高い場所、矢倉丸の櫓の中に今川氏真と、その奥方はいた。


 今川家の使用人、らしき年配の男が足場の悪い階段を上がって来た。

 男の前に佐太郎と銅馬が立ち塞がった。


「あの、もし。御屋形様はこちらでございましょうか?」

「お前、甲州の素波だろ。お前の顔を見るのは初めてだ」

 佐太郎は手槍を突き付けた。


「素波殿、懐からクナイがはみ出てますよ」

 銅馬の言葉に男は懐を探った。

 クナイは飛び出ていない。


「後ろを見てみろ、もう逃げ場はないぞ」

 男が振り返ると、長身の甲冑の男と年老いた僧侶が並んでいた。


「よくぞ参られたの。御仏の所に案内して進ぜよう。その前にちと聞きたい事が有る」

 次に主水が尋ねた。


「幻術使いは始末した。もう一人の男は今、仲間が追いかけている。他に仲間は何人いる?」

 男はクナイを掴み自分の喉元に当てた。


 死ぬ気だ。


「甘いのぉ」

 一貫は呟いた。

 

 素波の男は目を見開いた。

 夜が昼に、城内が大海原に変貌していたからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ