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失踪、そして

 主水達が雨に打たれながら堤防を壊していた頃、二ノ丸の兵士詰所には次々と負傷兵が運び込まれていた。


「く、苦しい。誰か、誰かいっそのこと殺してくれ!」


 城中には女性も大勢いる。家臣の家族や避難してきた民たちだ。

 女たちは懸命に看護しているが全く追いつかない。


ぐったりと横たわっている兵たちが会話していた。


「なあ、おい。城にあんな女いたっけかな?」

「うーん、どっかで見たことあるような気がするんだけどなぁ」

「なんか上品で美人だよな」

「誰の嫁さんだろ。うらやましいな」


大勢の女たちに混じって立ち働いていたが、徐々にみんなを指揮し始めている。


「血が止まるまでしっかり縛って!」

「はいっ!」


「お佳代さんと言いましたね。包帯を持って急いであちらへ!」

「はいっ、只今!」


「腕が無くなっても生きているだけましと思いなさい。死んだ者も大勢いるのですよ!」

「は、はい」


「死にたい等と弱気なことを言ってはいけません! 生きて家族の元へ帰るのです!」

「あ、ああ」


「消毒薬が足りません! そこのあなた、本丸へ行って酒をもらって来てください! 今川居館に沢山あるはずです!」

「わ、分かりました」

「急ぐのです!!」


 指示された男は駆け足で、ぬかるんだ道を、本丸へ向かった。


 冷たい雨が降り続いている。


 その頃、今川居館は大騒ぎになっていた。


「姫が、姫がいない! お初様、どうしよう」

 香鈴が珍しくうろたえていた。銅馬と才可が一緒だった。


「あたしが目を離したばかりに。銅馬も才可も捜して!」

 身重になってきたお初は、ただ心配するばかりだ。


 居館には普段、氏真夫妻と二人の侍女、小倉且久の他わずかな家臣、そして数名の使用人がいる。

 暗い雨の中、皆必死になって捜し回っている。

 一番うろたえていたのは居館の主人、今川氏真であった。


「奧よ、奧よ! 一体どこに行ったのじゃ!? そなたがいなければ、余は生きていけぬ! 姿を見せてくれ!!」

 半狂乱になり、涙を流しながら屋敷の近辺を捜し回っていた。


 一貫もいた。

「香鈴ちゃん、もしかしたら姫はの・・・・・・」

 何か言おうとした時、男が一人息を切らしてやって来た。


「すいません、酒があったら下さい!」

 相当焦っている様子だ。


「今それどころじゃないのっ!」

「ちょっと待って香鈴さん。消毒用かい?」

 銅馬が割って入った。


「そうなんだ。ここに沢山あるって、知らない女の人が」

「知らない女の人って。え、もしかして上品そうな?」

「そう、どっかの美人な嫁さんが。急げって」


 三人は顔を見合わせ、声を揃えた。

「姫だっ!!」

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